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Tuesday, 11/2/2021

ひとつまみの塩

・なぜか急にエヴリン・マクヘイルのことを思い出したので、彼女の写真をネットで探す。それは「史上もっとも美しい自殺」と呼ばれる有名な写真だ。ぐにゃりと陥没したリムジンの屋根がエンパイア・ステート・ビルの86階から飛び降りた際の衝撃を物語っているが、その曲線は彼女のからだをあたかも受け入れているようにも見える。それでいて傷ひとつついていない彼女の顔は白昼夢のなかでまどろんでいるような、やさしく肩を叩けばゆっくりと目が開くのではないかと思わせる刹那的なはかなさと美しさに満ちている。見るたびに、本人の意思とは関係なく破壊あるいは衝撃と死のなかにしか見出だせない美しさが生まれることだってあるのだと感じてしまう。うっかりここを見て気になってしまった方は自己責任で探していただければと。釘を刺しておくが、死体の写真である。

・タイムズスクエアで撮られた有名なキス写真「勝利のキス」もとても良い。キスしあう男女が恋人でも家族でもなく、赤の他人というところに心惹かれる。キスされた女性も「キスされるとは思わなかった」と発言しているし。そりゃそうだ。

・たしかに記録として残されているのに、写っている人間の身元がわからない写真はとても興味深い。マーゲイトの家族もだが、バブーシュカレディーなんかは謎に満ちていて、ちょっとわくわくする。

・数十年前はにぎやかだったであろう、放棄された個人サイトに魅力を感じる。ちょうどピンポイントに好きな作品の二次小説サイトを見つけたので、夢中で読みあさる。数も多く、文体も好み。こういう人ってなにを書かせても上手い気がする。わたしだけが、いまこのサイトのカウンターを動かしているのだと思うとやはり誰にも教えたくない気持ちが勝る。ほんとうに好きなものは誰にも知られたくない。

・天気の良い、風の強い日だった。無性にヴァネッサ・カールトンの「A Thousand Miles」が聴きたくなる。〝旅する彼女、ピアノを添えて〟とでも言うべきMVも良い。歌詩の内容からせつない失恋ソングとも受けとれるが、亡くなった祖父のことを思って詩を書いたのだったか。カールトンの歌声は耳にこびりつくかのように粘っこく濃い。透明感のある歌声とも、力強い歌声とも形容できない良い意味での少女らしさと土臭さがある。「A Thousand Miles」は不変とも呼べる名曲だ。これほどまでに完璧な前奏を、わたしはほかに知らない。


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