見出し画像

ニシンの糀漬け なぜ小矢部


富山県西部 石川県との県境にある小矢部市の田悟農産(でんごのうさん)の、田悟敏子さんの話が印象に残りました。ここでは平成の頭頃から、ニシンの麹漬けを製造販売していて、小矢部市の特産品にも認定されているのですが…何故海に面していない小矢部でニシンなのでしょうか?

小矢部市の特産品 ニシンの糀漬け

その答は北前船にありました。江戸時代の交易として知られる北前船が富山に帰港する際、北海道から昆布などの海産物、その中にあった身欠ニシンが大もとと言われています。そのニシンを港から内陸に運ぶのに、笹舟を使って小矢部川を遡ったとされています。その際、流れの穏やかな小矢部までは行かれたものの、急流になる福光までは行かれなかったのです。これは川沿いを車で走ってみるとよく分かります。

当初はこの身欠ニシンを肥料として土に刺していたのですが、状態の良いものを食用にと、糠漬け(米糠と塩のみ)が作られ、農作業の合間に食べる昼食時などに、塩分の濃いツマミとして用いられていました。

ただ日常食卓で食べるには辛すぎたため、地元の主婦グループと指導員のアイディアで、麹や味噌、みりんやザラメなどを加えでまろやかな味わいに変更。これを平成初め頃旬にあった地元の農業祭で販売したところ、想定外の高評価で完売したのです。

ここから特産品化が始まり、田悟さんを始め数件が、製造と販売を始めたという訳です。

梅雨時の高温多湿な時期に、北海道余市から取り寄せた上質な身欠ニシンを塩水で戻し、手作業でウロコや小骨を取り除いてから、味噌に漬けて20キロの重しを乗せる。待つ事約3ヶ月、秋になったら食べごろ。2枚入りで580円程度で、道の駅などで販売されています。

ぽっと出の産品ではなく、歴史の流れがあって、そこに人の営みがあるからこそ、品物に価値が見えて来る。商品のストーリーが価値を高めるというのは、まさにこういう事だと感じています。

梅雨時を迎えると、巷では判で押したように「洗濯物が…」「カビが…」とネガティブな話をしてしまいがちですが、この梅雨の時期に、静かに旨みを蓄えていく地域の特産品がある!ということを知ると、心が豊かになると思いませんか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?