断片集【私が墜落しない理由】

 例えば、視界いっぱいに広がる青空をぼんやり眺めながら、背中からダイヴする幻想を弄んでいる時。
 私が墜死して、果たして彼はどんな反応を示すだろうか? などと考えていたら、もう駄目なのである。
 純粋なる死の希求は一瞬にして濁り、絶対的な私の死は、ただの道具へと堕落する。

 そう、運が良ければ、彼は少しは泣くかも知れない。
 何日間かは、私の事を考え続けるかも知れない。
 しかし、時が過ぎれば彼は日常へと復帰する。
 そして私のことは二度と思い出さない。

 たった一度きりの私の「死」を、こういう形で浪費してしまうのは、阿呆としか言いようがない。
 (私の死は私だけのものであって、他者の反応を考慮して行うものではない)

 例えば、視界いっぱいに広がる青空をぼんやり眺めながら、アスファルトに広がる血だまりの温みに浸っている時。
 彼の影がちらりと思考をよぎる、なんて結果に終わるのだとしたら。
 絶対に、墜落などしてはならない。

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