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ヤニカス枕草子

春は、喫煙所。
やうやう白くなりゆく吸い殻、すこしあかりて、灰だちたる副流煙の細くたなびきたる。

夏は、喫煙所。
駅前はさらなり。闇もなほ。ライターの火の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。

秋は、喫煙所。
夕日のさして、定時と近うなりたるに、社畜の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。まいて大学生などの列ねたるがいとやかましく騒ぐは、いとをかし。日入り果てて、団体の騒ぐの音、一本締めの音など、はたいふべきにあらず。

冬は、喫煙所。
雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、缶コーヒーなど急ぎ買って、飲みながら吸うも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、さっき開けたタバコも、無くなりがちになりて、わろし。

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