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穴ぐらで出会う 【64/1096】

穴ぐらと聞くと 東欧のカフェを思い出す
お店に入ると奥深く薄暗く
落ち着ける雰囲気のよいカフェがたくさんあった
たくさんの人がおのおのにリラックスして
おしゃべりしたり ご飯をたべたり
楽しげなゆったりした時間をすごす
共に行った友だちと
"穴ぐらカフェ"と呼んで訪れていた

日本にもどってからも穴ぐらカフェを求めた
日本のカフェはテラスがあったりと明るいところが多くて 友人とあちこち様子をみて ここはどうかあそこは?などと
探し歩いた日々 懐かしの日々

いま 自分はちがう穴ぐらにいる
地下深く 暗い 空気も薄い
横たわるのが一番落ち着いて息のできる姿勢 体はだらんとしてじっとしている
悲しみの底は しんとしている
深海みたいな透明な闇

そこにいない住人と会うためには
浮上しなければならない
上をめざして ゆるゆると上がっていく
息をするのが苦しい 地上の気圧になれない
用が終わるころにはぐったりとして 
またすごすごと地下へ戻る
命綱のように 地下深くから繋がれた綱で いつでもそこへ戻れる
わたしたちにとってそこは安全な場所
しずかで そっとしていられる

人に会うのがこわい
人を見てなにか感じてしまう自分がこわい
悲しみの蓋をこじ開けられそうでこわい
悲しみは共有されず ぐるりとまわって
大きくなって自分にささる
人の思念の波を感じるのがこわい
波にゆられ ゆさぶられて出てくる感情を見るのがこわい
地上はいまや 恐怖の場所

だから また地下に戻る 穴ぐらへ
ゆっくりと沈んでいく
暗闇の中に 息づく人たちのもとへ
穴ぐらでひそやかに生きている人たちとともに
しずかにしずかに 生きている
それぞれがそれぞれの闇を生きている

地下はとてもしずかで 
ほうぼうに広がっている
広がりで出会うこともあるだろう
同じようでちがう深さと暗さの闇をまとって
お互いの出会いにとまどいながら
しずかに生きていく
ひとりではないのだと感じられる
穴ぐらは悪いところじゃない
大切な場所なんだ

今日もありがとう