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【281/1096】湿地へ行く

湿地が好きだ
のびのびとした葦のような
毛足の長い植物の束が
風に揺られて獣のように見える
もわもわと塊が揺れるさまが
気持ちが良い

今日はいい風が吹いている
さわやかな甘やかな
湿地に近づくと
地面からじゅわっと水が染みてくる
ああ浮いている
ここは浮いているのか
底なしの沼のほんのヘリに
自分は佇んでいる

新緑にまみれて眩しい日向
自分も植物のようで
いられたらな
風にゆられ雨に振られ
日に照らされ
実直に生きていく

人は愚かだね
どんな人も愚かもの
完璧なんてなくて
欠けてたり凹んだり
出っ張っていたり
人はさまざま

風に揺られて消えていきたい
そんな気持ちももはや
薄らいできた
消えていくことなんてできないもんね
きれいには消えられない
人はそういうもの
なんの思念もなく消えられないし
体も焼かなければ朽ちる
それは自然なことだけれど
人は人の変わりゆく姿を悲しむ
朽ちていかないでほしくて
骨にならないでほしくて
でも永遠はない

人生なんてそんなもの
いつか消えるときが来るのだから
短い泡沫をなんとか
生き仰せ
とも思う
どうでもいいことはやめて
やりたいこと 会いたい人
話したいこと 食べたいもの
生きたいところへ
抱いた想いを昇華することに
専念したい

まじで本気で生きなければ
きっと後悔する
そんな湿地の涼やかな風に
背中を押されて今日も帰る

今日もありがとう
残された者の日々