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【672/1096】母親のこと

わたしの母親は
息子を喪って数時間後の
こころが無になって動けずにいる
わたしに向かって
「あなたはメンタル大丈夫ね」
と言い放った
現実を受け入れられず
呆然としていたわたしは
え?この状況でそんな事言う?
そうか 
落ち込むことさえ許されないのか
そう受け取った 呪いの言葉

「あなたはメンタル大丈夫」
という あなたは との比較は
夫だった
明らかに落ち込み というよりも
自責が深すぎて 誰の目にも
おかしい雰囲気になり
グレー色になっていた夫

その夫とくらべて
無表情のわたしは大丈夫に
見えたのだろうか
ただ 無だっただけなのに

メンタル大丈夫 という言葉は
その後も何度も思い出した
わたしはメンタル大丈夫なんだ
前向きな感情ではなく
こんな悲惨なことが起きてさえ
わたしは落ち込むことも
深く悲しんで狂うこともない
そんなことは許されない
なぜなら母親だから
そう思い返す言葉になっていた
禁止用語

わたしの母親は
禁止用語をよく口にする人だった
呪いをかけられる方も弱いけれど
何気ない禁止言葉は苦しかった
今になってそう思う

最近のやり取りの中で
ああこの人とは
目の前のことしか話ができないんだな
天気のこととか 美味しいものとか
そういう当たり障りのないこと
わたしの個人的な話をしようものなら
すぐさま 自分事にすり替えられ
結果 知らない友達とか 昔話とか
母親の話を 母親だけの話を
くり返し聞くことになる
話を奪う人の存在を
母親を通して知った

そのことに苦しさを感じていたけれど
ここのところは
30も年が離れて 
世代も価値観も時代としても
違ったところを生きてきた人と
同じような価値観を持つこと自体
無理なことなんだと気づく
好きなことが同じとか
大事なものが似ているとか
そういう接点があればまだいいけれど
そんなものないのだから
致し方ないのだなと妙に納得した

そして
自分の娘とも同じことは起こる
世代も時代性もちがうし
スピードも世界も
わたしの育った頃とは別もの
話が合わないなんて
すでに始まっている
ねこが好きなことは共通項だから
やんわり繋がっていけたらな
自覚するとしないは大違いで
母親との関係のようには
ならないようにと願う

母親が悪いわけではなく
合わない自分が悪いわけではなく
ただ 大人としての
方向性が違うだけなんだろう
他人ならば 距離が置けるけれど
親子だからとなんでも
口にしてしまったり
不遠慮になるところがあるから
その辺りに気をつければ
そつなくやれる気もする

あれから2年が経ち
かなり辛いときもあったけれど
なんとかやってこれているので
「あなたはメンタル大丈夫」も
あながち間違ってはいない
それを見越しての発言だとしたら
母親とは恐ろしいものだ

「そんなたまじゃねぇよな」的な

今日もありがとう
残された者の日々