「自分からやる」内発的動機づけを追う #研究コラムVol.3
動機づけ、内から出るか?外から来るか?
前回のコラムでは、どのような欲求によって支えられているかによって、動機を1次的動機と2次的動機に分ける分類を紹介しました。動機づけに関しては、他の軸を使った分類も提唱されており、そのなかでもよく知られているのが「内発的動機づけ-外発的動機づけ」という分類です。
私たちの日々の行動の中には、明確な目的や具体的な報酬がないものがあります。たとえば、ソファにねそべりながら動画を見たり、キャンプに出かけて焚き火をしたりといった行動は、金銭的な報酬や社会的な評価を得られるわけではないにもかかわらず、ただ単に好きだからという理由でやっている人が多くいます。このように、行動それ自体のための行動や、当の行動以外には明白な報酬がまったく存在しない行動を支える動機づけは、「内発的動機づけ」と呼ばれています(赤井, 2005)
一方、受験に合格するために勉強をしたり、お金を稼ぐためにアルバイトをしたりといった、目標や報酬を目指して行う行動は、「外発的動機づけ」に支えられた行動と呼ばれます。行動の理由が自分の外側にあるか(外発的)、自分の内側にあるか(内発的)という区別と整理することができるでしょう。
ただし、勉強や仕事のように、なにかの手段であるように見える行動も、取り組んでいる本人が自発的に行なっていると認識していれば、内発的動機づけにもとづいた行動であると考えることができる(赤井, 2005)、という点には注意が必要です。内発的 / 外発的は明確な基準に基づいてきれいに二分できるものではなく、グラデーションになっていたり、内発的でもあり外発的でもある(仕事は好きだしお給料ももらえる)という状態がありえたりするものなのだと筆者は捉えていますし、その境界線を引くのは一筋縄にはいかないことも研究者の間で指摘されています(速見, 1995)。詳しく見ていくと複雑な面もありますが、大づかみに動機づけに関して理解・思考するときには有用な分類だと思うので、限界点は理解しつつ思考ツールとして活用していけるとよいと考えています。
内発的動機づけはいつどのように高まるか?
外発的-内発的という分類で考えたとき、教育的には内発的動機づけが高いことが望ましいと捉えられ、1950年代以降に関連する研究が次々と発表されました。速水(1995)では、内発的動機づけが学術研究の世界でも、教育実践の現場でも称揚されていた1960~70年代にかけての状態を「内発的動機づけ絶賛の時代」と呼んでいます。競争率の高い大学に行くためや、体罰を回避するためといった外発的動機にもとづいて勉強するよりも、好奇心にしたがって自ら学ぶほうが望ましいという人間観については、うなずける人も多いのではないでしょうか。「絶賛の時代」から約50年を経た現代であっても、教育やキャリア開発、人材育成の文脈では内発的動機づけに着目した記事や論考を目にすることは多く、絶賛の時代はいまだに終わっていないと考えられそうです。
こうしたムーブメントの中でやはり関心を向けられたのは、内発的動機づけはいつ高まるのか、どのようにすれば高まるのかといった問いです。1950年代~60年代の研究では、新奇さや変化、不調和(なんか変)、複雑さ、曖昧さといった情報が得られたときなどに (Berlyne, 1955 など) 、内発的動機づけが高まることが提唱されました。あまりに簡単なパズルだとやる気は起こりませんが、少し頑張ったら解けそうというちょうどいい難易度のパズルにはついつい熱中してしまうという経験はみなさんにもあるのではないでしょうか。
1970年代になると、内発的動機づけと報酬の関連が注目されるようになります。Deci (1971) は、ブロックパズルを課題とした実験で、金銭的報酬、社会的報酬(褒める)、無報酬の3つの条件のうち、どの条件で内発的動機づけが高まるかを調べました。この実験では、内発的動機づけを定量的に測る指標として、パズル終了後の自由時間中に、実験参加者がパズルに取り組んでいた時間を測定しました。自由時間中のパズル解きは報酬には無関係ですから、報酬がなくても自発的に取り組もうとする内発的動機づけが反映されているだろうということです。実験の結果、金銭的報酬を与えられた実験参加者は、そうでない人と比べて自由時間中のパズル解きの時間が短くなりました。つまり、内発的動機づけが低いと考えられることになります。反対に、社会的報酬を与えられた実験参加者は、内発的動機づけが高いという結果となりました。
Deciの研究は、それまでの常識とされていた、金銭的報酬が動機づけを高めるという考え方と対立するものであり、大きなインパクトを与えました。この知見を発展させ、Deci (1975) は内発的動機づけを高める最も重要な要因として、自己決定性とコンピテンスの2点を挙げています。自己決定性は、他の人の命令のように外部から強制される形でなく、自分で決めて行われることです。もうひとつのコンピテンスは、自分が有能であり、その課題を達成できるという実感のことを指します。つまり、自分で取り組むと決めた課題を、自分が達成できると思えるときに、内発的動機づけが高くなると考えられています。Deciのこの理論は、勉強を自らしようとしているときに「勉強しなさい!」と言われるとやる気が削がれるといったさまざまなケースを説明することができ、当初の実験結果のインパクトやその後の理論的発展も相まって、現代の研究でも参照され続けています。
内発-外発二分法のその先へ!
速水 (1995) が「内発的動機づけ絶賛の時代」と評したように、内発ー外発を二分法的に捉え、内発的動機づけが望ましいものとされていた時代が続きましたが、近年ではこうした二分法を超えた多様な枠組みが提案されています。
先にも紹介したDeciは、自らの理論を発展させ、自律性の程度に着目して動機づけ概念を捉えた「自己決定理論」を提唱しています (Deci & Ryan, 2002)。この理論や、この理論を踏襲した後続の研究では、行動の理由によって自律性の程度を分類し、以下の4つのスタイルを想定しています。
外的調整: 報酬の獲得や罰の回避、社会的なルールなどの外的な要求を行動の理由とする
取り入れ的調整: 罪や恥の感覚、劣等感の回避、優越感の獲得などを行動の理由とする
同一化的調整: 自ら認めたその行動を行なう価値を行動の理由とする
内的調整: 興味や楽しさを行動の理由とする
1から4の順で自律性が高くなっており、1の外的調整は従来の外発的動機づけに、4の内的調整は従来の内発的動機づけに相当するものです。2の取り入れ的調整は、3の同一化的調整や4の内的調整に比べて消極的ではありますが、行動の理由が完全に外的なものではなく、自ら価値を認めている部分がある点で、1の外的調整よりも自律性が高いスタイルとされています。
「内発的動機づけ絶賛」の人間観にもとづくと、4の内的調整の状態が最も教育的に望ましいと捉えられますが、必ずしもそうではない可能性を示す研究を最後に紹介したいと思います。西村・河村・櫻井(2011)は、日本の中学生の学習において、上記の動機づけと長期的な学業成績との関連と、その関連の背景にある要因を質問票調査を用いて実証しました。この研究の結果、1年後の長期的な学業成績においては、3の同一化的調整のみがプラスの影響を与えていることがわかりました。また、この影響は直接的なものではなく、「メタ認知方略」と呼ばれる学習の進め方を経由していることが統計解析の結果見えてきました(図1)。
メタ認知方略とは「自分の現在の学習状況を考慮し、のちの学習の進行を調整する方略」と定義されており(佐藤, 1998)、学業成績の予測要因として注目されています(伊藤, 1997など)。つまり、現時点で自分がどのくらいわかっているのか(あるいはわかっていないのか)を把握し、英単語の暗記が予定よりも遅れているから単語学習の時間を増やそうといった形で学習の仕方を変えることが、高い学業成績につながると考えられているということです。
ここで興味深いのは、自律性や内発性がより高いと想定される4の内的調整よりも、3の取り入れ的調整のほうが、長期的な学業成績という点ではポジティブな影響をもたらしていることです。西村らは、この理由をメタ認知方略との関連から以下のように考察しています。
まず、「勉強することがおもしろいから」といった内的調整にもとづく学習の動機づけを強くもっている生徒は、理解に努めてもなかなか理解できない状態が続いた場合に、興味や関心が薄れてしまうことが想定されます。一方、同一化的調整は、自ら認めた価値を学習の動機づけにするというスタイルでした。これは、「自分の希望する高校や大学に進みたいから」「自分の夢を実現したいから」といった、ある程度具体的な目標をもっている状態と捉えられます。こうしたスタイルをもつ生徒は、学習内容が難しくなったり、興味をもてなくなったりしても、自分のために学習の努力を続けようとする意志が働くのではないかと、西村らは考察しています。さらに、同一化的調整スタイルの動機づけを強くもつ生徒では、学習は目標に近づくためのひとつの手段という性質をもつため、目的に照らして学習がどの程度遂行できているかを確認する必要が生まれ、それこそがメタ認知方略になっているのではないかと西村らは指摘しています。
この研究結果は、長期的な学業成績という観点から見ると、内発性や自律性が絶対的に望ましいとはいえず、明確な目標をもつといった、一部では外発的な動機づけが有効に働く場面があることを示唆しています。内発的 / 外発的動機づけの二分法を超えた展開を、実際の学業成績という指標と関連づけて実証し、背景にあるメカニズムにも踏み込んでいるという点で、意義深い研究といえるでしょう。
才能研究の手がかりとして
私たちの才能研究では、才能を「動機づけられた、自分が価値があると認めている行動や思考」と定義しています。この定義を見るとおり、今回のコラムで紹介した内発的動機づけにもとづいた行動や思考が意識されています。しかし、先に紹介した西村らの研究から見て取れるように、単純に内発的 / 外発的と二分して前者を望ましいとする考え方では、実態を掴みそこねてしまうおそれがあります。目標に向けて継続的に取り組むことも、才能を考えるうえでは重要な要素だと考えられるため、先に紹介したような研究は才能研究の手がかりとして有意義なものとなるでしょう。TRCではこうした学術的な知見を取り込みつつ、引き続き才能の実態を明らかにし、応用を目指していきたいと思います。
文献
赤井 誠生(2005). 8-20 内発的動機づけ 中島 義明・繁桝 算男・箱田 裕司(編) 新・心理学の基礎知識 有斐閣
Berlyne, D. E. (1950). Novelty and curiosity as determinants of exploratory behaviour. British journal of psychology, 41(1), 68.
Deci, E. L. (1971). Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of personality and Social Psychology, 18(1), 105.
Deci, E. L. (1975). Intrinsic motivation and development. In Intrinsic Motivation (pp. 65-92). Boston, MA: Springer US.
Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2002). Self-determination research: Reflections and future directions. In E. L. Deci & R. M. Ryan (Eds.), Handbook of self-determination research (pp. 431–441). University of Rochester Press.
藤永 保 (監修)(2013). 最新 心理学事典 平凡社
速水 敏(1995). 外発と内発の間に位置する達成動機づけ 心理学評論, 38(2), 171-193.
伊藤 崇達(1997). 小学生における学習方略, 動機づけ, メタ認知, 学業達成の関連 Bulletin of the School of Education, Nagoya University (Educational Psychology), 44, 135-143.
西村 多久磨・河村 茂雄・櫻井 茂男(2011). 自律的な学習動機づけとメタ認知的方略が学業成績を予測するプロセス—内発的な学習動機づけは学業成績を予測することができるのか?— 教育心理学研究, 59(1), 77-87.
佐藤 純(1998). 学習方略の有効性の認知・コストの認知・好みが学習方略の使用に及ぼす影響 教育心理学研究, 46(4), 367-376.