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【基礎講座1】アウトライナーを定義する

「基礎講座」の1回目は「アウトライナー」とはどんなツールのことを言うのか、いわばアウトライナーの定義についてです。「えっ、そこから!?」という感じですが、「アウトライナー」と「アウトライナーっぽいもの」とではできることがまったく違う。にも関わらず混同されることが少なくないので、まずは確認しておこうというわけです。

「アウトライナー」という名称

英語圏では「アウトライナー」と呼ばれることが多いですが、日本では「アウトラインプロセッサ」と呼ばれることが近年まで一般的だったと思います。「アウトライナー」の方が一般的になったのは、ここ10年ぐらいのことではないでしょうか(私のせいもあると思います)。

もちろん、どちらも間違いではありません。たぶん「アウトラインプロセッサ」が正式で、「アウトライナー」は簡略形だったのだと思います(最初のアウトライナーを開発したデイブ・ワイナーは当初から両方を使っています)。

初期の頃(80年代)には「アイデアプロセッサ」などと呼ばれたこともあります。これは発想ツールとしての側面が強調されているわけですが、個人的にはアウトライナーを「アイデアを思いつくため」に使ってもあまり有効ではないと思っています……という話はまた別の機会に。

「アウトライナー」というのはソフトウェアのジャンル名ですが、世の中的には決して認知されているとは言えません。少なくともワープロやスプレッドシート、プレゼンソフトのようには知られていません。

その原因のひとつは「アウトライナーで何ができるのか」ということが今ひとつ理解しにくいからでしょう。

「ワープロって何するもの?」
「文章を編集してきれいにレイアウトして印刷するものだよ」
「スプレッドシートって何するもの?」
「表形式で数値を計算するものだよ」
「メーラーって何するもの?」
「メールを書いて送受信したり管理したりするものだよ」
「アウトライナーって何するもの?」
「情報をアウトライン形式で扱うものだよ」
「???」

情報をアウトライン形式で扱うツール

そう、アウトライナーは「アウトライン」と呼ばれる形式を使って情報を編集するプログラムの総称です。

アウトライナーの機能に特化したアプリ/サービスと、ワープロやエディタの機能の一部として組み込まれたものがあります。前者としてはWorkFlowy、Dynalist、OmniOutliner、Bike、Transnoなどが、後者の代表としてはMicrosoft Word、一太郎、Emacs、秀丸エディタなどがあります(他にもたくさんあります)。

最近では他のジャンルとのハイブリッドとも言えるものも増えています。たとえばRoam ResearchやLogseqはネットワーク系ノートツールとアウトライナーのハイブリッドだし、Scrivenerは執筆作業の全体を管理する統合環境の一部としてアウトライナーの機能が組み込まれています。

いずれにしても、アウトライナーは「情報をアウトライン形式で扱うもの」です。

アウトライン=「超」リスト

ではその「アウトライン」とは何か。

アウトラインとは、項目の下にサブ項目を、サブ項目の下にサブサブ項目を……という具合に、項目を入れ子状に整理したリストです。サブ項目は、上位の項目の下に、インデント(字下げ)して配置します。

言葉で説明するとややこしそうですが、なんということもない、簡単なものです。以下は「リスト」です。

ニンジン
大根
トマト
キャベツ
りんご
みかん
メロン
豚肩ロース
みりん
豆腐

以下は「アウトライン」です。

八百屋さん
 ニンジン
 大根
 トマト
 キャベツ
 りんご
 みかん
 メロン
肉屋さん
 豚肩ロース
 コロッケ
豆腐屋さん
 木綿豆腐
 油揚げ

わかりますね。リストを階層にしたものが「アウトライン」です。階層を一段階深くして以下のようにもできます。

八百屋さん
 野菜
  ニンジン
  大根
  トマト
  キャベツ
 果物
  りんご
  みかん
  メロン
肉屋さん
 豚肩ロース
 コロッケ
豆腐屋さん
 木綿豆腐
 油揚げ

アウトラインは、言ってみれば「超」リストです。「すごいリスト」という意味ではなく「リストを超えたリスト」という意味です。言葉で説明しなくても、アウトラインの形になっているだけでほとんどの人にその意味がわかるはずです。文字だけでなくカタチそのものに情報が含まれている。いわばメタリストという意味で「超」なのです。

ちなみにここで言う「リスト」は必ずしも「箇条書き」とは限らず、一般的には「文章」と呼ばれるものも含むのですが、そのあたりの話はまた後で。

アウトラインの作成と編集に特化したデジタルツール

この「アウトライン」の作成と編集に特化した機能を持つデジタルツールがアウトライナーです。アウトライナーでアウトラインを編集することで、文章を書いたり考えをまとめたり情報を整理したり、といった作業が圧倒的に楽になります。

「アウトライナーで何ができるか」という質問に答えるのは簡単ではありません。その質問に真剣かつ抽象的に答えたのが先日の「アウトライナーで何ができるか?」という記事だったのですが、基礎講座の段階での説明としては、「アウトライナーはアウトラインの形式を当てはめられるものであれば何にでも使えます」となります。以下はその用途のごく一部です。

文章の執筆と管理
考えの整理
ToDo管理
タスク管理
プロジェクト管理
メモの蓄積と整理
議事録や講義録の作成
アイデアの整理
プログラムやウェブサイトの設計
簡易データベース

アウトライナーの基本機能

アウトライナーは「アウトライン」の作成と編集に特化した機能を持つと書きましたが、必須のものは以下の3つです。

①アウトラインを表示する機能
②アウトラインを折りたたむ機能
③アウトラインを組み替える機能

①アウトラインを表示する機能は、アウトラインをアウトラインとして表示する機能です。以下は先ほどの買い物アウトラインをDynalistで表示したものです。

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これがそんなに特別な「機能」なのかと思うかもしれません。通常のワープロやテキストエディタでも「アウトライン」自体は作れるからです。手作業でインデントしながら作ることもできるし、多くのリッチテキストエディタには階層的な箇条書きを作る機能があります。

でも、繰り返し編集を加えながらアウトラインの形を保つとなると話は別です。通常のエディタで作ったアウトラインは、編集すれば形が崩れてしまう。アウトライナーでは、いかに編集しようとアウトラインの形式が常に維持されます。これはちょっと考えるよりもずっと大きな意味を持ちます。

②アウトラインを折りたたむ機能は、特定のレベル以下の項目を画面から隠してしまう機能です。以下は買い物アウトラインを折りたたんだ状態です。

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アウトライナーによって、項目単位でしか折りたためないものと「第2レベル以下をすべて折りたたむ」ような一括操作ができるものがあります(Dynalistは前者ですね)。

この規模のアウトラインを折りたたんでみてもあまりありがたみは感じないかもしれません。でも、アウトラインが大きく複雑になってくると、この機能が大きな意味を持ってきます。どんな長大で複雑なアウトラインでも、全体の構造を一目で把握できるからです。

③アウトラインを組み替える機能は、キーボードやマウスの操作で項目を入れ替える機能です。重要なのは、折りたたまれた状態でそれができることです。項目が折りたたまれていても、従属する下位項目は上位項目とともに移動します。以下は買い物アウトラインで先頭にあった「八百屋さん」を末尾に移動した状態です。

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折りたたまれていた項目を展開してみると、下位項目もいっしょに移動しています。

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以上がアウトライナーの3つの基本機能です。この3つの機能のひとつでも欠けていれば、それは「アウトライナー」とは呼べません。

もうひとつの基本機能

上記の3つの基本機能に加えて「準・基本機能」とも言えるものにズーム機能があります。ズームはアウトラインのある項目を一時的に最上位階層として表示する機能です。アウトライナーによっては「フォーカス」、「ホイスト」、「巻き上げ」などとも呼ばれます。

以下は買い物アウトラインの「八百屋さん」にズームした状態です。

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ここからさらに「野菜」にズームすると以下のようになります。

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ズームは「これがなければアウトライナーとは言えない」というわけではないので基本機能には含めていませんが、モダンなプロセス型アウトライナー(その意味についても基礎講座の中でお話しします)を活かす上では必須に近い機能です。

以上が形と機能から見たアウトライナーの「定義」です。

もちろん、国際アウトライナー委員会(?)的な何かによって定義が厳密に定められている、わけではありません。あくまでも「私自身がそう定義している」ということなので、「いや、俺の思うアウトライナーはそうじゃない」という方がいてもまったく構いません。

ただ、強いて言えば最初のアウトライナー「ThinkTank」の機能、およびその開発者デイブ・ワイナーの見解を元にしています。私がお話しするアウトライン・プロセッシングの技法も、この意味でのアウトライナーを前提にしています。

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