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piece 1:文章は書いてみないとわからない

アウトライナーとデイリータスクリストの話をする前に、アウトライナーになじみのない方のために、そもそもアウトラインやアウトライナーとは何かという話をしよう(『アウトライン・プロセッシング入門』などを読んでくださっている方には聞き飽きた話かもしれないけれどご容赦を)。

アウトライン

まず「アウトライン」をひと言で表現すると「入れ子になったリスト」というのがいちばん近い(入れ子になった箇条書きとこれまで表現してきたけれど、堀正岳さんの『仕事と自分を変える「リスト」の魔法』リスペクトで)。

たとえばこんなやつをアウトラインという。これは4階層のアウトラインということになる。四重に入れ子になったリストだ。

八百屋さんで買えるもの
 野菜
  キャベツ
  にんじん
  トマト
  たまねぎ
  じゃがいも
 果物
  りんご
  みかん
  レモン
  いちご
肉屋さんで買えるもの
 肉
  豚肉
  鶏肉
  牛肉
 揚げ物
  コロッケ
   ポテトコロッケ(プレーン)
   ポテトコロッケ(カレー)
   クリームコロッケ
  メンチカツ

このアウトラインの形式はシンプルだが、実にさまざまな目的に使える。リストがさまざまな目的に使えるのと同じだ。買いものリストを店や目的別に作ることも、メモやアイデアを整理することにも、ステップごとに手順を検討することにも、タスクリストにも。

文章のアウトライン

そして何よりも文章のアウトラインだ。入れ子になったリストの形式で文章の概要を示したものだ。そもそもアウトラインというもの自体が、文章の概要を事前に検討するための方法として生まれたものだ。

文章を書く前に、構成をアウトラインの形式で検討しておく。アウトライン上で充分に検討しておけば、楽に破綻のない文章を書くことができるというわけだ。「目次案」とか「構成案」と呼ばれているものを想像してもらえればいい(厳密にはちょっと違うのだが、それはここでは置いておく)。

レポートや論文のような論理的に説得するタイプの文章なら、まず大項目(たとえば章)の構成を決める。大項目の構成が決まったら同じように中項目(たとえば節)、中項目の構成が決まったら小項目(たとえば項)……と考えていく。

小説やエッセイならそこまで厳密な構造は持っていないかもしれない。その場合は、たとえば起承転結(あるいはそれに類する何か)を決めておく。それぞれをシーンに分け、プロットを検討する。それとは別に登場人物ごとに性格やその背景、生い立ちなどをアウトラインの形で整理しておいてもいい。

こうして文章のアウトラインができる。どんな素材があり、どんなふうに始まって何を書いてどんな順序で説得してどんなふうに終わるか、すべてアウトラインとして考えてある。あとは内容を肉付けしていくだけだ。

たいていそうはいかない

でも、たいていそうはいかない。何をどんな順番で書くかは決めてあるはずなのに、不思議なことにその通り文章を書けないのだ(覚えのある人も多いだろう)。

実際に書いてみるとアウトラインに書いた以上の内容が出てこなかったり、無理に内容を埋めようとして気の抜けたような文章になってしまったり、何かの拍子に筆が乗ってきて決めておいたアウトラインから逸脱してしまったりする。こうした現象ををぼくは「アウトラインあるある」と呼んでいる。

もちろん、作ったアウトラインに肉付けしていって特に問題なく文章を完成させてしまえる人も中にはいる。でもぼくを含め、大多数の人はこの「アウトラインあるある」を経験することになる。しかも緻密に、綿密にアウトラインを検討するほどそれは起こる(アウトラインに合わせて着々と文章を書いていける人というのは、実はアウトラインがなくても書ける人なのではないかという疑いをぼくは持っている)。

文章は書いてみないとわからない

なぜ書くべきこととその構成を事前に考えてあったはずなのに書けないのか。

ひと言でいうと、何を書くべきかは書いてみないとわからないからだ。不思議に思うかもしれないが、ぼくたちは実際に書くことによって、つまり書かれたものを目で見ることによって、次に何を書くべきか、何が足りていないのかを判断する。あるいは書かれたものに刺激されて新しいことを思いつく。多くの場合、それらは考えてあったはずのアウトラインと矛盾する。

つまり事前に作ったアウトラインはあまり役に立たないということだ。

生きたアウトライン

そのアウトラインを実際に、しかも劇的に役に立つものに変えてくれるのがアウトライナーだ。アウトライナーは以下のような機能を持っている。

①アウトラインを視覚的に表示する機能。常に階層関係を維持した状態で編集できる。

②アウトラインを折りたたむ機能。ある項目から下の階層を非表示にできる。

③アウトラインを入れ替える機能。項目の順序や階層をマウスやキーボード操作で容易に入れ替えることができる。ある項目を移動させると、その下位の項目が(たとえ折りたたまれて非表示の状態でも)いっしょについて移動する。

以上の3つの機能を組み合わせることで、一度作ったアウトラインを後から(中身を追加した後でも)容易に変更できる。アウトラインを折りたたみ・展開することで、アウトラインの全体像を俯瞰することも、そこから詳細に降りていくことも自由にできるようになる。必要に応じて折りたたんだ状態のアウトラインを操作することで、文章全体を操作できるようになる。

アウトラインは、アウトライナーによってはじめて生きると言ってもいい。生きたアウトラインの効果は絶大だ。アウトラインにもとづいて文章を書くのではなく、実際に書かれる文章に応じてアウトラインを更新していくことが可能になるからだ。書きながらどんどんアウトラインを更新していっても、アウトラインの全体像を常に把握できるので制御不能に陥ることを避けられる。

アウトライナーがあれば、アウトラインを見渡して書けそうなところから自由に書き、筆が乗ってきて逸脱したら「書かれた文章」に合わせてアウトラインを組み替えればいい。つまり、アウトラインに縛られず自由に書きながら、なおかつアウトラインの形とで書かれつつある文章をコントロールできる。これで文章、特に長い文章を書く作業は驚くほど楽になる。

マイナーなツール

今使える代表的なアウトライナーとしてはWorkFlowy、Dynalist、OmniOutlinerなどがある。みんなが知っているMicrosoft Wordにも本格的なアウトライナー機能がついている(ちなみにこの記事はWordのアウトラインモードを使って書いている)。

特にWorkFlowyの登場で、アウトライナーはぐっと身近になった。とはいえ、今でもマイナーなツールの域を出てはいないと(カフェでアウトライナーを使っている人を見かけたことはまだない)。実はアウトライナーの歴史はパーソナルコンピュータの歴史と同じくらい古いのだが。

アウトライン・プロセッシングの眼を通してデイリータスクリストを見る

ようやくここからが本題、デイリータスクリストの話だ。

ぼくは学生の頃に文章を書くツールとしてのアウトライナーに魅せられて以来、長年アウトライン・プロセッシングについて考えてきた。

そのアウトライン・プロセッシングの眼を通してデイリータスクリストを眺めてみたとき気づくのは、上で「アウトラインあるある」と名付けた状況(文章のアウトラインを作ってもその通りには書けない)が、そのままデイリータスクリストにも当てはまるということだ。

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