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【基礎講座2】アウトラインの形を活かしながら、でもアウトラインから自由に

アウトラインあるある

もう一度アウトライナーが扱う対象、つまり「アウトライン」の話をしましょう。

「アウトライン」は、コンピュータ以前から主にアメリカの作文教育で教えられてきた方法です。書く前にあらかじめアウトラインの形で構成や内容を検討しておき、後はアウトラインに合わせて書いていく。かつてはアウトラインの段階でかなり厳密な指導が入るようなこともあったようです。詳細かつ緻密なアウトラインが作れるようでなければ書く準備ができていないとみなされた、という話を聞いたこともあります。日本でも、論文やレポート作成の参考書などではアウトラインの作成が奨励されてきました。

しかし、「アウトラインを作り、その通りに書く」という方法は額面どおりにうまくいくことはなかなかありません。やってみたことのある人ならおわかりの通り、はじめにアウトラインを決めてしまうと頭がアウトラインに縛られてしまい、かえって書けなくなることが多いのです。

アウトラインを作ったときには簡単に文章化できそうに思えた項目も、いざ書こうとしてみると内容が出てこない。
無理に書こうとすると、いかにも「見出しの中身を埋めただけ」のつまらない文章になってしまう。
何かのきっかけ筆が走り出すと、今度はアウトラインから内容がどんどん逸脱していってしまう。

これらは典型的な「アウトラインあるある」なのですが、考えてみればこれは当たり前のことです。よほど短い(あるいは単純な)内容の文章でない限り、事前に内容を100%決めておくというのは、ほとんど不可能だからです。必ずと言っていいほど書いているうちに変えたくなる。あるいは変える必要が生じる。

なぜなら、何をどう書くべきかは、実際に書くことを通じてはじめてわかってくるからです。考えてみれば、事前に完璧なアウトラインが作れるようならアウトラインなど作らなくても書けるはずなのです。

だから、たとえば「書く前に詳細なアウトラインを作らなければならない」とか「一度決めたアウトラインを変更するのは褒められたことではない」などと言われたら、それは相当な苦痛だと思います。アメリカでも今はそこまでストリクトな指導がされるケースは少ないようですが、昔学校でアウトラインを叩き込まれた人の中には、「アウトライン」と聞いただけで拒絶反応を示す人もいるのです。

私はその種の作文教育を受けたことはありませんが、大学でレポートのアウトラインを事前に提出するように言わたことならあります。簡単にアウトラインができたので安心してギリギリまで遊んでいて、いざ書こうとしたらぜんぜん内容が書けず、結局アウトラインとまったく違うレポートを提出するはめになったという、まさに「アウトラインあるある」を地で行く経験をしました。

仕事をするようになってからも、顧客に提出する報告書や提案書の「目次案」の提出を事前に求められるということがあります。「この目次案で上司から承認を受けたので変更しないでください」などと言われるとなかなかツライものがあります。

(でも、実はこの「アウトラインあるある」が発想法としてのアウトライン・プロセッシングに深く関係している……という話は『書くためのアウトライン・プロセッシング』に書きました)。

アウトラインから自由になるためのツール

アウトライナーを好まない人も多くいると思うのですが、もし上で書いてきたような「アウトライン」のイメージでアウトライナーを捉えているのだとしたら、それは大きな誤解です(私はこの誤解を解くために活動していると言ってもいいくらいです)。

アウトライナーが画期的だったのは、「書いた後でアウトラインを再構成すれば文章そのものも再構成される」ことです。つまり「書きながらアウトラインを作る」あるいは「書いてからアウトラインを作る」ことが可能になったのです。

アウトラインは作るけれども、縛られることはない。本文を書いている最中でも書きかけの文章のアウトラインをリアルタイムで確認し、アウトラインを再構成すれば中身の文章も再構成される。勢いに任せて自由に書きながら、最終的に破綻のないアウトラインに収束させてしまう。

ここでのアウトラインは「設計図」ではなく、「心づもり」兼「現状のスナップショット」になっています。こうなってはじめて「アウトライン」が本来持っている利点が生きてくる。アウトライナーは、その名称とは逆にアウトラインに縛られずに自由に書くことを可能にしたのです。

一度この感覚に慣れてしまうと、普通のワープロやエディタには戻れなくなってしまいます。

「書くこと」=「考えること」

文章を書く場面を例に書いてきましたが、アウトライナーが役に立つ場面は執筆だけではありません。「【基礎講座1】アウトライナーを定義する」では、アウトライナーの用途の例として以下をあげました。

文章の執筆と管理
考えの整理
ToDo管理
タスク管理
プロジェクト管理
メモの蓄積と整理
議事録や講義録の作成
アイデアの整理
プログラムやウェブサイトの設計
簡易データベース

これを見ると、なんだか「管理」とか「整理」が多い。説明のために便宜的にそういう言い方をしているけれど、だから誤解を生むのかもしれないとも思う。実際にアウトライナーが活躍する様子は、もっと柔らかく雑で柔軟です。

やることがあまりにも立て込んで何から手を付けていいのかわからなくなったら、とりあえずアウトライナーで「やらなきゃならないこと」を思いつくまま書き出してみる。
次に関係のある項目を近くにまとめ、見出し項目を立てる。
見出しはプロジェクト名でもいいし上司の名前でもいいし顧客の名前でもいいし担当者名でもいいしそのミックスでもいい。
アウトラインを折りたためば、今全体としてどんな仕事を抱えているのかがひと目で見渡せる。
これだけで頭はかなりすっきりするし、抜け漏れも発見できる。
何をどんな順番で片づければいいのか(あるいはそもそも無理であることが)も自然に見えてくる。
このアウトラインをベースに育てていくことで、より恒久的な(?)タスク/プロジェクトのアウトラインを作っていくこともできる。

これは「タスク管理」や「プロジェクト管理」と言えなくもないけれど、一般的なそれとは、ずいぶんイメージが違うのではないかと思います。

深く考えずとにかく内容を書いて、後から便宜的に構造を作る。その構造から見えてきたものを書く。書いた内容から構造を変える。書いてからアウトラインを作り、書きながらアウトラインを修正していく。文章を書くときと同じです。「何をどう書くべきかは、実際に書くことを通じてはじめてわかってくる」という原則も、文章を書くときと同じです。

ここでやっていることは、ひと言で言えば「考える」ことです。書くこと=考えることだとすれば、書くための道具=アウトライナーは、考えること全般に使える。アウトラインの形を活かしながら、でもアウトラインから自由に、文章を書き、考える

「アウトライナーは何に使えるか」という質問に対してシンプルに「タスク管理」とか「プロジェクト管理」などと答えることに抵抗を感じる理由もわかっていただけると思います。

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