掌編小説「きっとかわいい女の子だから」

 僕が彼女とSNSで知り合ったのは半年ぐらい前だろうか。僕の友人が彼女の投稿をシェアしていたのがきっかけだった。12月生まれの山羊座で年齢は非公開だが、高校卒業年から計算すると僕より二つ三つ下ということになる。素敵な笑顔のプロフィール写真は本人ではなく、憧れる女優のものだという。僕が彼女に興味を持ったのもその写真で、芸能人に疎い僕ははじめは本人だと信じていた。知ったときは少しがっかりしたけど、日々の出来事を綴った文章や女友達との旅の写真なんかからうかがえるのは、とてもきれいな心の持ち主で、きっとかわいい女の子なのだと僕は信じている。

「リアルで会えないかな?」
 僕はある時メッセージを送った。彼女からはしばらく返事がなかった。
 数日後「ごめん、仕事が忙しくて見てなかった」と返ってきた。会えないかの問いに対する答えは「今は無理」だった。仕事が忙しいんじゃ仕方がない。「暇になったら会おうね」と返した。けれど本心はすぐにでも会いたかった。彼女のことが好きなのは人間的な魅力も含めた淡い恋心だろうか。愛しているとかいないとかそういう感情ではない。あわよくばセフレにとか、そんな考えはひとかけらも頭の中にない。

 僕と彼女とは趣味はまったく違うのに不思議と話は合うような気がしている。フィーリングって言うのかな。話の内容ではなく何かが通じている空気感がある。音楽の趣味なんかも僕はボーカロイド系やPerfumeが好きだけど、彼女はロック、特にスリーピースのシンプルな編成が好きなんだとか。なんだか分かるな、その感覚。
 このあいだ、僕なんか知らないだろうなと思いながら「どんな曲を聴くの?」って質問してみたら“BLANKEY JET CITY”というのが好きだと教えてくれた。まあ、当然僕は知らなかったんだけど興味はあるから「お薦めの曲ある?」って訊いたら「趣味合わないよ」って返ってきた。けれども僕は引かなかった。彼女の好きなものはなんでも知りたかったから。根負けした彼女がYouTubeのリンクを送ってきた。“ディズニーランドへ”という曲だった。

 ちょっと変った歌詞だった。やっぱり僕には分からなかった。けれども曲のタイトルが彼女の想いのすべてを物語っている。粋なことをするもんだ。ディズニーランドへ。やはり提案は具体的であるべきで、希望もそうあるべきで、彼女は僕よりも積極的な方法でそれを示してくれた。だから僕はうれしくて意味の分からないその歌を何度も聴いている。この曲に背中を押され、夜が静かになるのを待って彼女をディズニーランドへ誘うつもりだ。

――了――

※歌詞引用元(作詞:浅井健一)
「悪いひとたち」
「胸がこわれそう」
「赤いタンバリン」
「SEA SIDE JET CITY」
「ヴァニラ」
「ディズニーランドへ」

あとがき

この作品は“BLANKEY JET CITY”の「ディズニーランドへ」という曲を知っている人を対象にして書いた。知らない方は特に歌詞に注意を払って聴いてみてほしい。

この曲の歌詞の中に「一緒にいるのが とても恥ずかしくてたまらないから」というフレーズがある。「彼女」は「僕」にそう伝えたかったのかもしれない。しかし「僕」にはその真意が伝わらず、楽観的な解釈をしてしまう。

私のこの話は、この曲を聴いていて「この『友達』って具体的にどんな人なんだろう」と思ったのがきっかけで生まれた。はじめは歌詞にあるように精神を病んでいる人を想定した。しかし、そうでなくとも、恋愛においては女心を読めずに勘違いする男はたくさんいるのではないか。そう考えると普通のSNSの出会いでも起こり得る出来事に思えたのだ。

胸に手を当てて考えてみよう。私にも有り得る話ではないのか。他人事ではないのではないか。そう考えると怖い話でもある。

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