【車内エッセイ】握る女

手摺の握り方が妙にエロい女が目の前にいる。人差し指と親指の輪っかだけで掴まっている。彼女にとってそれは握り慣れた太さなのか細さなのか。そんなことを考え始めると五本の指で握り直してもやはりエロく感じる。

若いと言えば若いし、そうでないと言えばそうでない。美しいといえば言えなくはないし、そうでないとも言える。そうして左手の薬指を探しているが確かめることは出来ない。

妄想と観察と分析をいつもしている訳ではない。暇なのだ。Twitterはタイムラインを見尽くしたし、Facebookは読む気分じゃない。文庫本は鞄に入っていない。

いつの間にか彼女は降りてしまった。目の前には彼女に四十を重ねたぐらいの女性がオレンジ色の吊革に掴まっている。妄想はもはや不可能だ。相模大野は遠い。

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