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激突!怪獣王座決定戦・ホンコンにキンコン

 漫画『グラップラー刃牙』の外伝で、ジャイアント斗馬とアントニオ猪狩というプロレスの二大巨頭が東京ドームで無観客試合を行う話がある。言うまでもなく前者はジャイアント馬場、後者はアントニオ猪木がモデルで、そのルックスも全く一緒。つまりは『ジャイアント馬場VSアントニオ猪木』というプロレス夢のカードを漫画で実現させてしまった、ということなのです。このひっそりとおこなわれる予定のプロレス頂上決戦が、ドームの清掃員に知られ、それはやがてマスコミ、そして全国へ広がり、大勢のファンが押し寄せることになる。社会人、学生等々、彼らファンは仕事中だろうが、あるいは自衛隊の演習中だろうがあらゆる手段で時間を作り、東京ドームへと向かう。中には手術前の医師や、勤続30年無遅刻無欠勤の会社員もいた。どんな職種だろうが彼らの『好き』の前には何物もかなわないのだ。

 そんな感じで、先日の7月2日、やすみをとったり、時間を作った怪獣ファンは少なくなかったはず。自分もその一人で、7月のシフトを決める際『2日は空けてください』といったけど仕事明けになってしまった。『空け』ではなく『明け』でした。まあそれでもいいと、仕事終わりにMOVIX八尾へ。ここは二年前も『ゴジラ キングオブモンスターズ』を見た場所だ。そして今回見るのはその続編『ゴジラVSコング』! その対決が与太話から徐々に実現身をオボテ来て、世界中のゴジラファンの注目を集めた作品、昨年公開予定のはずが伸びて、今年3月公開もまた伸びて、5月公開のタイミングで発売されたあれが強烈なネタバレとなったりもしつつ、やっと世界中から置いてけぼりを食らった怪獣王国日本でようやく公開! なんだか待たされ過ぎたからすごく落ち着いた気分で見ることになりました。まさに『お待たせしました、お待たせしすぎたかもしれません』なのです。

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以下、ネタバレを含みますので未見の方はお気をつけてください。

 

 『ゴジラVSコング』とはどんな映画か? ゴジラとコングが喧嘩するのです、終わり。本当にそれ以上でもそれ以外でもない映画。清々しいぐらいに怪獣バトルに徹しているのです。冒頭の髑髏島でのんびりくつろぐコングから、いつもの古いフィルムや古い図絵をコラージュさせつつ、よく見るとトーナメント表になっているオープニングで『ああ、これはバカの映画なんだな』と思った瞬間、何の抵抗も疑問も抱かずにすんなりの映画の中へと入っていくことができました。

 とはいえ、あまりにも怪獣描写に力を注ぎ過ぎたせいか、人物描写というか、シナリオ全般はすさまじいぐらい雑でした。怪獣映画なんてこれ以上ないぐらいの大ボラ映画で、人間なんか怪獣の足元で右往左往していればよろしい、その通りなんですが、それにしても雑過ぎる。まるでシナリオ第一稿をそのまま映像化したような感じ。全般にわたって『なぜどうして?』の部分が解決されておらず、作り手の気持ちよさだけで物語を作りこんでいってる感じに見えた。キャラが薄い、薄っぺらい。『こういうシチュを作りたいからつくられたキャラ』が多すぎて、それ以上の機能はない。前作との関連は? 謎企業エイペックスの超技術は? 芹沢博士の息子の意味は? エイペックス社長はなぜゴジラを憎むのか? 地球の空洞の入り口は髑髏島にもあるのになぜ南極か? あれだけ苦心惨憺して空洞に入ったのに、あっさりゴジラに貫通されるのはどうか? その穴の距離ってほんの数キロぐらいにしか見えないよ、地殻までそんなに薄いのか? 等々、上げたらきりがない、いつもはそんなこと気にしないのに、やはり心のどこかで期待していたから余計に気になってしまう。『話は二の次!』とか『ィんだよ細けえことは!』で済ませるには粗が多すぎる、そう思った。

 では面白くないかといわれると、それがまた違うんですな。雑味もまた旨味に取り込む、面白い企画を面白い映像の数珠つなぎで押し切った、まるで子供が画用紙にクレヨンで描いたようなシナリオの映画なのです。この感覚は先日見た『モータルコンバット』に近いかも。だってゴジラ映画だから、くさしはするけど、それ以上に楽しんでしまうのもまた怪獣好きの悲しい性なのです。

 とにかく、喧嘩、喧嘩、ゴジラはなぜか島を出たコングにケンカを売り、コングは人間の思惑で寒い南極から地球の空洞世界へ。オリジナルの『キングコング対ゴジラ』同様、コング側とゴジラ側のドラマが同時進行し、最後に両者は香港で相まみえることになる。なるほど、ホンコンにキンコンというダジャレか。ビッチリと建造物が立ち並ぶ香港の街を踏みぬくゴジラ、高層ビルをひょいひょいと飛びながらゴジラの熱線を逃れ必殺技の斧を振るうコング、と迫力は申し分ない。コング史上、高層ビルに上っても死なないコング。ゴジラもどこで充電してきたのか、熱線の大盤振る舞いで、香港島をリングに見立てた、まさに怪獣プロレスの如き激突で、監督が『完全決着』というわりにはどこかもやっとする勝敗の決め方もプロレス的。死力を尽くしたケダモノの闘争から、いつしか芽生えるスポーツマンシップ。そして場外乱闘的に登場するメカゴジラ! 最初その姿を見た時はたぶん鈍重な動きしかしない、ちょい役だろう、あの世界観で巨大ロボはどうかな、と思っていたら、歴代最も活発なメカゴジラになっていた。走って蹴って、殴ってミサイル撃ち込んでゴジラをピンチに陥れる。そこで、いくら雑味が多くてもちょっとだけグッとくる、コングとの共闘が。あぁこれはやはり画用紙クレヨン映画なのだ、モータルコンバットと一緒だ。気持ちよさ優先、話はどこかに置いてきた大怪獣バトルでありました。

 雑味が多すぎてつまらなかったのか? いいや、だってその雑味が気になって翌日もう一回行ったから。だって怪獣映画だから、ゴジラ映画だから。

 しかし、背中に飛び乗ってチョークスリーパー、相手の口に棒を突っ込む等のファイトスタイルはじめ、監督は歴代コングを研究し、随所にそのオマージュを取り込んでいる。香港に大猿といえば『北京原人の逆襲』だったりするし、電気ショックでコングが復活する下りは元祖キンゴジの落雷シーンか、あるいは心臓繋がりで『キングコング2』かもしれない。

 前作に続いて『怪獣の家がぶっ壊される映画』であり、モータルコンバットで見られなかった『脊髄込みで首を引っこ抜く』映画であり、そういえばモンスターバースこれまでのレジェンダリーゴジラシリーズ、全て敵へのとどめは首を引っこ抜くではなかったか。ケダモノのワイルドさと首をとることでもう二度と相手が動くことはないというアメリカンな処理の仕方なのか。

 コングが脱臼した肩をビルにぶつけて直しシーンがあるが、『リーサルウェポン2』に同様のシチュがあった。と思ったら、エンドクレジットでちゃんと表示されていたので、あれはリーサル専売特許だったのか?

 と、語ることはまだまだあって、これからあと数回は見るでしょう。雑で気になる部分、アラは初見時の感想で吐き出したから、あとはピュアな気持ちで楽しめるかも?

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