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足し算と引き算の島と駅、石持て戦え!

 人間は他人よりも自分に甘い生き物。その日の勤務も辛かった、職場ではきな臭い空気が流れ始めてる。抗えない大きな動きの中で、ベテラン勢は自分を含めて二名。これはあれだ、若者や仲間が次々と離れても、結局組織にしがみついてしまった、そうせざるを得なくなった『仁義なき戦い』の菅原文太と小林旭のようなものだ。そうでも思わないとやっていけないね。

 まあ、仕事が辛かろうとそうでなかろうと、これと決めた日には映画を観たいものです。その日、同僚に『トップガン見た?』と聞かれたけど、まだ一作目も見ていない。ならそっちから見たほうがいいとのことで、今回はお預け。先日学校で少し盛り上がった『きさらぎ駅』にしようかな、と時間を見る。午後からの上映しかない。じゃあその前に一本見れるか。何がいい、そりゃガンダムかな。

 ということで、仕事終わりに『機動戦士ガンダムククルス・ドアンの島』と『きさらぎ駅』のはしごをすることにした。島と駅の映画である。

 

ここから内容に触れてます、たぶん


 『ククルス・ドアンの島』は、ご存じ『機動戦士ガンダム』の本放送時、子供心に地味だし微妙だなと思った、だから余計に印象に残ったエピソード『ククルス・ドアンの島』を大胆にも引き伸ばし、再強化をして映画化したものであります。当時のキャラクターデザインでアニメーションディレクターでもある安彦良和が監督。あの太物がエロイといわれた安彦女子キャラやクセの強い安彦おっさん顔が、この令和に動き回るのですよ。どのガンダムでもない『一番最初のガンダム』の映画化ということで、普段は新作ガンダム映画に行かない自分も見たくなってきたのです。整理券もってガンプラを買った身としては、やはり『最初のガンダム』への思い入れがそれなりに強いのです。

 お話の設定としてはかつてのテレビシリーズとも違う、漫画版『THE ORIJIN』に近い、新解釈。シャアがまだズゴックに乗るまでの話だけど、すでにジムが運用されていて、ビグザムの股間に激突したスレッガー三がすでにホワイトベースに乗り込んでいるという見たことないガンダム世界。でもこのメンバー、このメカみんな知ってるぞ、という不思議な感覚、知ってるけど知らない既存のキャラの映画ということで先日の『シン・ウルトラマン』に近いものがあります。一言で言えばリブート、ということでしょうね。

 ジオン軍を離れ、孤島で戦災孤児を育てるククルス・ドアン。敵だけど、彼に協力する連邦のアムロ・レイ。呉越同舟で追手を迎え撃つ、いわゆる『抜け忍もの』のフォーマットなんですね。冒頭の戦闘シーン、コクピットのピピピ、ピピピ、という聞きなれた音に当時の子供、現おっさんは心掴まれてしまったのです。いくら作画技術が変わり、解釈も今風にリファインされたとしても音と音楽が当時のままだとすっかりやられてしまうのです。音って大事なのです。『シン・ウルトラマン』でも当時そのままの効果音と音楽があるから『おぉ!』となったのです、おっさんは。

 お話は愚直なまでにククルスドアン中心。余計なものを極力足さない、ひかない絶妙な匙加減。スレッガーさんもジムもいるけど、まるで役に立たない、ガンキャノンもまた然り。必要なのはドアンのザクとガンダム、そして追手のサザンクロス隊だけでいいという潔さ。そのガンダムですら冒頭、ドアンに確保されてからはまるで出番なし。でもその分アムロの機械いじりが得意というテレビシリーズの初期設定が生かされていたり、と再放送を繰り返し見ていた身としてはうれしいキャラ掘り起こしもありました。あと、アムロは喧嘩に弱い。ファンサービスとばかりに夢のシーンで過去の名場面が今の作画で再現されるのもまた嬉しい。ガンダムといえばこの人、と言われるシャアもわずか一瞬の登場。問題はドアンなのだ。マ・クベはいるけど、シャアは出ない世界なのだ。足したり引いたりの世界だけど、ドアンのヘルメットにはちゃんとトゲトゲがついてるのだ。これが大事なのです。

 そしてクライマックス、あのテレビシリーズ予告編で流れたBGMに乗って登場するガンダムのかっこいいこと。まさに『満を持して』の登場。そこにかかるのが昔のBGMだからなおのことですよ。他にも『翔べ!ガンダム』のアレンジが流れたりと、あぁ、これはどのガンダムでもなく1979年の『機動戦士ガンダム』のリブートなんだな、と痛感し、感激しました。リアルロボットだなんだと言われてますが、少なくとも『最初のガンダム』は連邦の白い奴と恐れられるスーパーロボットなのです。

 しかし、ウルトラマンとガンダムのネタは古いけど中身が新しい映画がほぼ同時期に上映される令和4年はなんて年なんでしょう。それにトップガンの36年ぶりの新作も。映画館は当時を懐かしむおっさんだらけですよ。

 そして少し時間をおいて今度はガラッと内容が変わって『きさらぎ駅』へ。かつて2ちゃんねるで評判になった怪奇実話。存在しない駅に降り立った女性の実況というリアルタイム感が話題となったスレッドの映画化ですよ。

 終電に乗っていたら、いつの間にか知らない駅についてしまった。そこで起こる怪異から何とか逃れ、生還した一人の教師。そんな彼女に取材する女子大生。前半はその教師視点(一人称映像、POV)できさらぎ駅の様子が描かれるので、観客も一緒に電車に乗っていたような感覚になる。彼女と共に電車に乗っていたサラリーマン、若者グループに女子高生。彼らの困惑しパニックに陥る様子も描き、じわじわと恐怖を盛り上げていく。

 そして取材を終えた女子大生もまた、同じ列車に乗り込んでしまい、異世界へ。車内にはサラリーマン、女子高生、若者グループ。聞いていた話と同じメンバー。彼らは死んだはずでは? ここは死んでも次の獲物が来るとリセットされる無間地獄なのか。思いがけず伊世界に迷い込んだ女子大生。でも大丈夫、さっき聞いた話と同じだから攻略法は心得ている。なので、怪しげなおじさんがやってくると即座に石でぶん殴る、棒でぶったたく! 後半は『知ってしまった』彼女が異世界で大暴れするアクション風味の展開になる。でもなんだかお化け屋敷の地図を事前に読んでしまったから怖くない、みたいな感覚でもあります。前半と後半で大きく内容が異なってしまう映画ということで『シャドウ・イン・クラウド』にも似てるけど、どうせならあそこまでぶっ飛んでほしかった。あと、都市伝説となったきさらぎ駅周辺の様子も忠実に再現してるけど、襲ってくる怪異はオリジナル。なので、その怪異にルールが欲しかった。何をすれば人間が死ぬのか、怪異たる村人たちはどんな特性を持っているのか、その辺があやふやだと何でもありになってしまうのです。でもまあ、そんな奴らには石をぶつければいいんですよ、石! ククルス・ドアンも困ったら石を投げてたよ! 

 限られた人数と予算の中、ロケを最大限に生かし、画像効果で異世界の雰囲気はよく出せていたと思うし、どんでん返しがるのにはびっくりしました。あと、走ってくるおじさんは普通に怖いです。

 それよりも脅威だったのはパンフレットが絶賛売り切れ中だったガンダムよりも高かったことでした。でも、お土産お土産、旅の記念に買っておきました。

 

 

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