見出し画像

必要なのは支援につなぐ伴走者。困窮するシングルマザーを支援するNPOで取り組んでいること

千年ちとせ建設の代表をしている岡本です。

地方の建設会社、困窮しているシングルマザーに低価格で物件を貸す会社、入居したシングルマザーの自立に伴走するNPOの3つの法人を経営しています。

僕はこのnoteで地方の歴史ある中小企業こそソーシャルビジネスに挑戦する意味があると書きました。

地方の中小企業は、地域に貢献しようというマインド・ビジネスを長期スパンで考える特性・挑戦しやすいアセット(土地や信用力など)の3つを持っています。この3つをいかして本業をからめたソーシャルビジネスに挑戦すると、共感で優秀な人材が集まる強い組織になっていくからです。

ただメリットで参入できるような世界ではありません。

ソーシャルな取り組みを成立させることは、支援の現場をつくることも財務的にも本当に難易度が高いからです。

僕もはじめはNPOをつくるつもりはありませんでした。

そんな僕がいまNPOで取り組んでいること、始めることになった経緯をふりかえってみました。

困っているシングルマザーの方々がいつでも相談できる関係をつくる

僕が運営しているのは認定NPO法人LivEQuality HUBという団体です。離婚や失業、心や身体の病気などで住まい探しに困っているシングルマザーを支援しています。

別会社がシングルマザーに低価格で物件を貸して、LivEQuality HUBは入居した方々が安定した生活が送れるようにサポートしています。

例えば、一番最初の入居者の方は外国籍のシングルマザーでした。配偶者からの暴力が原因で、お子さんを連れて親戚のいる名古屋に逃げてきた。

でもいつまでも親戚の家に居候することも難しい。困って行政に相談に行くと、住民票がないので支援ができないと言われたそうです。特に家の支援はいかんともしがたいと。

住民票がなく、仕事に就いていないので収入がなく、日本語が不自由。こういったケースで一般的な大家さんが物件を貸してくれることは、ほとんどないそうです。

ちょうどその日、新聞に載った僕たちの活動をみた行政の支援員の方が、なんとかできないかと連絡をくれました。

支援の網目からこぼれ落ちてしまう方々こそ僕たちが支援しなければと、最初の入居者としてお迎えしました。

住まいが決まれば行政と連携した支援ができます。すぐに生活保護がおりて、翌月には仕事を見つけて働きはじめて、それからずっと自立した生活を送っています。

入居いただいた後は、「関わりを持ち続けること」「課題があれば解決するために専門機関につなげること」「コミュニティをつくること」この3つが僕たちの主な役割です。

月に1回は全員と面談を実施して、いつでも連絡できるLINEグループも用意。僕たちの事務所にも好きなときに寄ってもらえるようにしています。

僕たちが直接なにかをするわけではないんです。接点を持ち続けて状況を把握して、メンタルが不調なら病院の先生やカウンセラーを紹介したり、離婚調停が大変なら弁護士を紹介したり。入居者の方が抱えている課題を把握して、解決できる専門家におつなぎする役割です。

本人が抱える課題にはグラデーションがあります。

課題だと認識していることもあれば、本人はまだぼんやりとしか気づいていないことも、専門家に相談すれば解決する課題だと気づいていないこともある。

だから何かあった時だけ関わるんじゃなくて、定期的に会ってコミュニケーションを続けて、雑談の中から課題を発見するようなサポートが必要です。

たとえば僕たちはよくおすそ分けをしています。お米を持っていくとか、寄付者の方から差し入れてもらったお菓子を分けたりとか。

そういうときにも顔をみて話して、部屋がどんどんきれいになっている様子が分かったり、子どもたちの笑顔が増えていたり。そういう変化を感じられる接点をつくり続けています。

面談で必要なものがわかれば、Amazonのほしい物リストにあげて寄付者の方に物品寄付をいただくこともあります。資金の使途も明確だし入居者の方がほしいものだってことも分かっているので、寄付がしやすいい仕組みです。「こんな風に喜んでくれました」と報告もしているので、寄付者の方々にも喜んでいただいています。

「おすそわけHUBさん」という名前で公開しているAmazonのほしい物リスト

入居者さん同士のコミュティづくりも大事で、ランチ会や遠足企画や縁日イベントを開催しています。

多くの方が知り合いも頼れる人もいない状況で入居してきます。僕たちとの関係だけじゃなくて、助け合える横のつながりができる場所にすることを考えています。

入居した母子の元気な姿を見るといつでも原点に立ち戻れる

入居者のお母さんや子どもたちの元気な姿をみることが僕のやりがいになっています。

ついこの間も、寄付者の方がものすごくおいしいイチゴを送ってくれました。それをみんなにお裾分けしようとなって、ドアの取っ手にかけておくわけです。そうすると帰ってきた子どもたちが大喜びで絶叫してる声が聞こえてーーー。そういう話を現場のメンバーから聞くのがすごくうれしい。

入居に立ち会うとお母さんたちは「こんなにいい家に住んでいいんですか」とものすごく喜んでくれます。でも一緒にいる子どもたちはすごく不安そうです。お母さんから離れようとしないし、笑わない。

それが入居以降、どんどん元気になっていく。外国籍の子は日本語がうまくなって、テストで100点をとったと誇らしげに報告してくれるようになったり。ものすごいスピードで成長していく姿を見ることが本当にうれしいんです。

先日は入居している親子向けに遠足企画をやりました。バスを貸し切って三重県の方に行ったんですけど、僕は都合が合わなくて参加できませんでした。

そうしたら引率から帰ってきたスタッフが「子どもたちが、たくやは来ないの?と言って会いたがっていましたよ。たくやさんってみんなのお父さんみたいですよね」と言ってくれて。

父親に裏切られた経験があったり、いい思い出がない子どもたちもいる中で、自分がなんらかのよい影響を与えられているんだとしたら本当にうれしいことだなと。

ほかにも、入居者さんに限らずシングルマザーの母子を対象にした夏祭りイベントも毎年開いています。

近くのお寺さんを貸し切って、手作りのチケットを配って唐揚げや綿菓子と交換できるようにしたり。アート体験や紙芝居も用意して、みなさんに楽しんでもらえるように企画しています。

僕はそこでは、唐揚げを盛り付けたり、子どもたちに「下手くそー」なんて言われたりしながら綿菓子を作ったりしています。子どもたちと遊んだり、お母さんたちと話して近況を聞けたりする、僕にとってとてもいい時間です。

喜んでいるお母さんやたのしそうな子どもたちの姿をみるたびに「このために僕は活動しているんだ」と原点に立ち戻れるからです。

家がない、仕事もない、知り合いもいないーーー。そんな風に孤立して困っていたお母さんと子どもたちが、雨風をしのげるだけじゃなくて、気持ちのいい住まいを手に入れて尊厳を取り戻していく

そういう場面に立ち会うたびに、僕もまたがんばろうと思わせてもらっています。

世の中に足りないのは「支援につなぐ人」

シングルマザーの支援をはじめようと決めたとき、僕はNPOを作る気はありませんでした。

一番クリティカルな課題は、住まいがないことだと思っていたからです。僕たちは市場よりも低い価格で気持ちのいい部屋を貸して、入居後のことは地域のみなさんと連携してやっていこうと考えていました。

でもいざ入居者のみなさんと接してみると、想像していた以上に大変だということがよく分かりました。

住まいがないことがボトルネックになっていることは変わりません。でも一人ひとりがとても複雑な事情と、一筋縄では解決できない課題を抱えています。

一緒に行政に行ったり、書類を書くときに横でサポートしたり。そういう日常の細かな部分の支援から医師や弁護士の紹介まで、専門的な支援が必要だということが分かりました。

そんなタイミングで、連携して一緒にやろうと言ってた地域のNPOが早々に離脱してしまうということが起きて……

とても残念だったのですが、一番大変で大切な日常への伴走サポートを他の組織に任せようと考えていた僕が悪かったんだと思いました。

1ヶ月ぐらい悩んで、これは自分たちでやろうと決めて立ち上げたのが、認定NPO法人LivEQuality HUBです。

立ち上げから丸2年たって思うのは、本当にやってよかったということです。

僕たちが支援するシングルマザーの方々は、今までの人間関係をリセットしていることが多い。

そういう方々がもう一度まわりの人とつながって、人との関わり合いの中で尊厳をとりもどしていく。そういう機会をつくりながら、自立に向けて伴走する。

その人の人生に関わる、本当に重要なことをしているという感覚があります。

ただ僕たちが最初から決めてるのは、つなぐ役割に徹するということ。当然ですが、僕たちは医師のように診療することも、弁護士のように弁護活動をすることもできません。課題を把握して、必要な支援や専門機関につなぐことが僕たちの役割です。

この「伴走しながら必要な支援につなぐ人」が世の中には足りていない。

何をしているのか、どんな価値があるのか、分かりづらくて一番お金がつきにくいからです。しかも難易度が高い。

本気で相手と向き合うけれど、自己投影せず、入り込みすぎないバランスを保ちながら信頼関係をつくる。相手が抱える課題を解決するために、最適なタイミングで必要な専門家につなげる。行政とのやり取りも多い。

福祉や法律などの多様な知識と、高度なコミュニケーション能力が必要な仕事です。

認定NPO法人LivEQuality HUBではプロフェッショナルなメンバー2人で、22世帯54名の母子をサポートしています。

でも、すばらしいメンバーがいるからできる・僕たちだからできる、という状況にとどまるつもりはありません。他の地域でもできるモデルをつくろうと考えて活動しています。

そばで伴走しながらつなぐ人がいることで、こんなにも人は急成長できる。どんどんポジティブに変わっていけるんだということを感じているから「伴走しながら必要な支援につなぐ人」を本気で増やしていきたいと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?