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ヴォルデモート医師とヴォルデモート教(卿)~陰謀論者と陰謀論

10年以上も昔、大学病院に勤めていた時のことです。
肝臓癌の方(Aさんとします)が受診されました。
大きさは3cm程度で肝機能もよく、しっかり治療すれば根治が見込める方でした。
自分「早めに入院して治療しましょう。しっかり治療すれば癌は根治出来ると思います。再発する危険もありますが、このくらいであれば過半数の人が5年以上生きられますよ。」
Aさん「分かりました」

しかしその後Aさんは、入院予約をキャンセルされました。
そして2年後に末期の状態になり現れました。
Aさん「先生には黙っていて申し訳ありませんでしたが、実は○○先生のところで治療をうけていたんです。」
自分「○○先生!?」

1.○○先生

○○先生・・・がんの治療に独自のアンチテーゼを唱える先生。
無茶苦茶な、一部の医師で表現されているところの闇落ちした先生です。

伺うと○○先生が言うには、
「自分の見立てではこの癌は悪性度が高く1年もたない。大学病院では重大な見落としをしている。手術なんてしてはいけない。」
と言われ、○○先生のところで高額な民間療法を受けていたそうです。
そして病気は進行し、2年後に来院されたわけです。

Aさん「でもよかったです。高名な先生に診て頂いて2年ももったわけですから・・・。さすがに○○先生のところでは、腹水の治療まではできないからと言われて、ここにきました。」
自分「・・・」
おのれ○○!ふざけるな!!(心の声)

後日○○先生のところにTEL
自分「もしもし、先日Aさんが病院に来たのですが。」
○○「あー、Aさんね。よろしく頼むよ。」
自分「Aさんは自分の病院の初診時には、腫瘍系3cmで肝障害度Aの根治が望める肝細胞癌だったのに、なんで民間治療なんてやっていたのですか!?」
○○「君ねぇ、私はアメリカの○○大学で○○先生の下で癌治療をやって、その後○○大学の○○先生の下で癌免疫の研究をやっていたんだよ。君には僕にたてつくような実績があるのか!?」
自分「・・・」
○○「私の時間を奪うなら、それなりの実績を挙げてからかけてこい!!ガチャン!!ツーツーツー」

その後緩和治療と、抗がん剤治療を行いながら、Aさんは旅立たれました。
不幸にも皮肉にも、最後までAさんは○○先生に感謝しておられました。

※プライバシーの問題もあり、3人の患者の実話を混ぜて構成しています。

2.ヴォルデモート医師

○○先生
名前を挙げたいけれど、名前を挙げられません。

挙げたところで自分の得にはなりせん。
逆に彼らは、それでお金を稼いでいます。
全力で叩き潰しにくる可能性があります。
結果、面倒な事に巻き込まれる可能性があります。

「関わっても何の得にもならない、決して関わってはいけないよ。」
上司からそう教わってきました。

名前を出せない、出してはいけない医師。
それを映画ハリー・ポッターの「名前を呼んではいけない闇の魔法使い」になぞらえ、
自分はヴォルデモートと呼んでいます。

3.ヴォルデモート教(卿)

そしてそういう医師には信者がいます。
講演会をやっていたり、本を出していたりします。

自分はそういう講演会を「集会」
彼らが出している本を「経典」
彼らにセカンドオピニオンに行くことを「駆け込み寺」
と呼んでいます。

集会や経典には真実は書いていないし、
駆け込み寺は「医療」をするところではありません。

これらをひっくるめて、ヴォルデモート教と呼んでいます。
残念ながらAさんは駆け込み寺に行って洗脳され、ヴォルデモート教徒となってしまったわけです。

4.なぜヴォルデモートが生まれるのか・・・

医療は2000年頃を境にガラリと変わりました。

それまで医療は、知識と経験で判断するものでした。
例えば、
・肺炎の患者を入院させるか否か、抗生剤は何を使うか。
・胃癌の患者の手術の術式や、抗がん剤の選択。
・癌患者の余命
そんな問題を解決するために、本を読んで知識を蓄え、経験を積んだのです。

ですが2000年以降、根拠に基づく医療「EBM」が医療の常識となりました。
臨床試験の結果を解析し、それに基づいて決定する時代になりました。

蓄えた経験は軽んじられ、ベテラン医師でも研修医でも、
スコアリングシステムやフローチャートにより診断・最善の治療が決定できる時代になりました。
今までの経験が無駄になるようで、受け入れがたい現実ではあります。
簡易的に診断・治療法決定ができるようになった反面、若い医師の知識が浅くなった気がします。

大学の頃はよく、年配の医師のボヤキを聞きました。
その思いや反発心が、EBMに逆らった医療を作り出し、ヴォルデモートになってしまうものだと思っています。

よく勉強して頭で考え、20世紀の医療の考え方を貫き通す。
そんな老害たちが闇落ちして、ヴォルデモートになるのです。

5.陰謀論者と陰謀論

医師のコミュニケーションサイトでは、
「コロナ禍で闇落ちした医師は誰か」
をテーマにしたコラムが上がっていました。

EBMと逆行し、
同人誌のような雑誌の論文「ハゲタカジャーナル」を信じて、
きちんとした論文「トップジャーナル」に基づく公的機関や学会の決定を、陰謀と言い耳をふさぐ。そんな陰謀論者、闇落ち医師、ヴォルデモートがコロナ禍で増殖しました。
書店には経典がたくさん並ぶようになりました。

自分はハリーポッターのような力はないので、彼らを名指しして批判はできません。
ですが一人でも入信する人、闇落ちする人が少なくなるのを願ってやみません。

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