楠の遅れ雨

朝、晴れ。
バイト。

3時頃、ひまで店のショーウインドウから外を見ていたら日差しがとても暑そうだった。
よく晴れている。
でも何かおかしい。
ジーっと見てみると、燦々と陽が照っているのに雨が降っている。
お天気雨だ。
少しして雨があがるとむしろ曇った。
変な天気だ。
さらに4時を過ぎたころには地面を突き刺すような勢いで夕立が降った。
これは凄い雨だな、と、また外の景色を眺めていると、目の前の駐車場に停まったバンに、何人かの公務員っぽい服装の人たちが同じ柄の段ボールをしきりに運んでいた。
はじめは通り雨を気にしながら作業していた人々だったが、バンの荷台がいっぱいになる頃にはもうシャツもずぶ濡れでプールに飛び込んだようになっていた。
あー、この時間にこんなに降るとは思わなかった。
夕方降るのは予報で知っていたが。
傘もカッパも持っていない。
仕方ない、今日は濡れて帰るか。
なんとなく覚悟を決めて、バイトを終えた。
結局店の傘を借りて帰ることにした。
着替えなどをする事務所が店舗と別に近くにあるので、急いで移動する。
雨はだいぶ弱まったが、まだ降っている。
着替え終わって、借りた傘を持ち、意を決して外へ出る。
ところが雨はあがっていた。
どうやら晴れ男の性分は健在のようである。
気分がいいので、いつもの豚まん屋さんに行く。
ここで今日一番うれしかったことが起きる。
なんと、頑固おやじ(おじいちゃん)の店主が、「さっきはずいぶん降ったねぇ。」と、世間話の一言をかけてきたのだ。
とっさに「そうですねぇ。」と返す。
これはうれしい。
偉大なる友好の一歩である。
私はいつも醤油味を4つ買うので、「醤油4つの子」と覚えられたのかもしれない。
再び晴れ渡った頭上の空のように清々しい心持ちだ。
そこからバイト終わりに必ず行く神社へお詣りに行った。
境内だけ雨がまだ降り続いていた。
というのも、御神木の大きな楠が、その葉や枝に雨粒をたくさん蓄えて、それらを時間差で地面に落としているのだ。
神社の裏からセミの鳴き声がたくましい。
8月は暑くなるときくが、今日の雨のように多少融通を効かせてほしいものだ。