アカペラアレンジ初学者に教えたい、個性溢れるアレンジャーになる6つの方法

十余年前、とある中学校の授業中。
「パソコンでデジタルコンテンツを作る」という題を課せられた生徒たちは思い思いに思考を巡らせ、大多数は動画やらWebページやらを作成しはじめていたが、そんな中、ドヤ顔で周囲に言葉を発している一人の少年がいた。
「男なら作曲だろ!」
彼は作曲ははじめてであったが、彼はなぜか素晴らしい音楽を作る自信があった。
そして次々と思い浮かぶメロディ、そのメロディーを飾る怒涛のハーモニー。
そう、全ては順調であった。彼が実際にその音楽を再生するまでは。
彼が再生した「それ」は何もかもグチャグチャで、まるで幼児が描く絵のようであった。
彼は音楽を勉強している友達に泣きついた。幸いにもその友達は順調に課題を終えていたので、少し手直しをしてもらえることになった。
そうして1日後、手渡された作品を聞いて彼は驚いた。そこには彼の描きたかった世界があった。彼の愚作は一晩で素晴らしい音楽へと変貌を遂げていたのである。

良い作品を作ろう!って気持ち、皆さんにはありますか?
僕は、いつもその気持ちと戦いながらアカペラアレンジをしています。

ただ、気持ちだけではどうにもならない問題ってあるじゃないですか。
例えば、自分の思い浮かんだフレーズがダサいとか、かっこいいと思って入れたけどなんかコレジャナイとか。今からえらそーに記事を書こうとしている僕も、死ぬほどあります。
でもそれ、確かに荒削りかもしれないですが、多くの場合はそのフレーズを活かす、自分に合ったスキルセットがないだけだったりします。じゃあどうやってそのスキルセットって習得していくんだろう???


自己紹介

遅ればせながらはじめまして、東京大学アカペラサークルLaVoce OBのたくやです。アカペラは大学からはじめて6年目、現在はIT企業でSEとして働きつつ、社会人サークルを中心にアカペラ活動をしています。

ひょんな縁から、#アカペラアドベントカレンダーの記事を書かせて頂けることになりました。

12日目担当のぴーなっつからバトンを貰い、僕は13日目を執筆させていただいております〜
彼はLaVoceの3つ下の後輩なんですが、アカペラアレンジは誰にも真似できない異彩っぷりがあってすごいんですよ。天才的なぴーなっつによる素晴らしい記事はこちら

そして彼、twitterでよくアカペラの動画を上げているので、気になる人はtwitterへLet’s Go!!

さて、本日の#アカペラアドベントカレンダーは、僕が1年の時から取り組み続けている「アカペラアレンジ」の上達法についての話題です。


解剖と実践

まずはじめに、あくまでこれは一個人の考え方なのですが、アカペラアレンジは「自らの感性をアカペラという音楽に落とし込み、自己表現をした結果」だと思っています。
なので、以下の文章は、全て「アカペラアレンジで自己表現をするために、何をすればいいのだろう」という問いに対して僕個人の考えを述べたものであり、あくまでその点にはご注意の上お読みください。

アカペラアレンジを上達していく上で大切にしておきたい基本的な考えが「インプットしたものをアウトプットする」です。これはどんな分野にも言えることですね。
じゃあそのインプット・アウトプットって具体的にどういうことをするのがいいのだろう?どうすれば個性的なアレンジャーになれるんだろう?

僕が話したいトピックは以下の6つです。
①曲をコード進行で解剖する
②アマチュアアカペラの演奏を解剖する
③プロアカペラグループの演奏を解剖する
④自分のアレンジに「裏テーマ」を設定する
⑤絶対に書ききらなきゃいけない状況を作る
⑥「イマイチ」という感覚を大切にする


では、順に行ってみましょうー!

①曲をコード進行で解剖する

曲を聴いてると、「エモい」とか、「怖い」とかなる時ってあるじゃないですか、それってなんでだと思いますか?
色んな要素がありますが、その中でも大きなウェイトを占めるものが「コード進行」というやつです。このコード進行が変わると曲の雰囲気が変わるし、違う曲でもこのコード進行が似ていると曲の雰囲気は似た感じになります。
例えば、「にじいろ/絢香」「Tomorrow/岡本真夜」はサビのコード進行はかなり似ていて曲の雰囲気は似た感じと言えます。

(※わかりやすさ重視のため原曲からコードを少し置き換えています)

一見、両者では違う和音が鳴っているように聞こえる人もいるかもしれません。
しかし、これをハ長調に移調してみると・・・

お分かりでしょうか。同じ和音になりましたね。
このように、ハ長調に移調すると和音が同じになるものを、「コード進行が同じ」と言います。
インターネットで「曲名 コード」と検索するとコード表が出てくると思いますが、これを全部ハ長調に移調して読みながら曲を聴くというのを習慣付けることで、「それぞれのコード・コード進行のイメージ」がコードを言われただけでわかるようになってきます。イメージが浮かぶようになればこっちのもので、アレンジで「ここはこういう雰囲気にしたいな〜」と思った時に、「このコード・コード進行はどうだろうか」っていう発想ができるようになります。

ちなみに、コード進行というのは音楽理論の扱うところであり、コードの雰囲気を掴みながら音楽理論を勉強すると非常に相乗効果が高いです。
オススメの音楽理論サイトはこちらです。

②アマチュアアカペラの演奏を解剖する

アカペラアレンジがある程度上達していくと、「ここのバンドのアレンジいいなぁ」とかが段々わかるようになってきます。それで、よくある展開としては「そこのアレンジを丸々耳コピしてカバーしよう!」とかなるわけですが、個性溢れるアレンジャーになるという点においてはもっと近道な方法があります。
その方法とは、「自分にとってそのバンドのアレンジのどこが好きで、それは何故なのか」を細かい単位で、徹底的に言語化していくことです。
(ex. ここの3拍目4分裏で入るhaスキャットは意外性があって最強に気持ちいいな!ここで原曲とは違うそのコード進行を用いるのか!等)
1つ1つの曲から得られる情報量は丸々耳コピする時と比べると少ないですが、アカペラの世界にはたくさんのアマチュアグループが存在します。それらの演奏からたくさん学んで、自分の「好きな瞬間」を集めていくことによって、より自分の感性を磨いていくことができるようになります。

③プロのアカペラグループのアカペラを解剖する

これは色んなアレンジャーが口を揃えて言っていることだと思いますが、僕はその中でも特に、プロのアカペラグループから一番学ぶことが多いのは「ボイシング(*1)」だと思っています。
せっかく①でコード進行を学んでも、1つ1つの音をどのように配置しようか、という悩みは割とベテランアレンジャーになっても付き纏いますし、正直アマチュアバンドはボイシングが弱点のバンドが多いです(自戒の念を込めて)
プロのアカペラグループをよくよく聴いてみると、結構アマチュアバンドと違う音の積み方をして、尚且つそれぞれのアカペラグループによって積み方にかなり個性が出ています。
個人的にボイシングが好きなアカペラグループはTRY-TONEAccentとかで最近よく分析していますが、実際にいろいろなプロアカペラグループを聴いてみて、自分の好みのボイシングやアレンジをするアカペラグループを見つけましょう。

*1 音の配置のこと、例えば、音の配置が下から「ドミソ」であるものと「ソミド」であるものはコードは同じであるもののボイシングが異なり、響きもやや異なるものとなる。 

④自分のアレンジに「裏テーマ」を設定する

僕は毎度アレンジを書く際、そのアレンジに取り入れてみたい要素を「裏テーマ」として設定してアレンジに混入させています。

その際に気をつけていることは2点。

・あくまで隠し味的な用法に留めること
これは、「自分の使い慣れているアレンジの技法」に比べると、新しく取り入れたい要素は扱い慣れていないことが多く、匙加減を考えないとアレンジの他の要素を「食ってしまう」恐れが大きいためです。

・とことん試行錯誤してその時の自分のベストを尽くすこと
これは、「裏テーマ」が設定されたアレンジは自分が①〜③でインプットした要素の貴重な実験場であり、とことん実験し尽くしてその要素を自分の血肉とするためです。

名称未設定2

※「ドリアンスケールを使用する」という裏テーマで書いた楽譜。
余談ですが、この楽譜は第二稿であり、第一稿は「思ってたアレンジと違う」と突き返された苦い思い出があります。

⑤絶対に書ききらなきゃいけない状況を作る

④を効果的に実践するためには、楽譜をより多く書いたほうが望ましいです。しかし、アレンジをはじめたての頃は特に、書きはじめた楽譜を書ききることって期限がなければ難しいです。
そこで、何らかのバンドで自分のアレンジを歌わなければいけない状況を作り、そのバンドが練習できるように楽譜を書ききらねばならない状況を作るのです。
勿論、初期のうちは「2曲同時に引き受ける」とかはやらないでください。あくまで、「楽譜を完成させる」という感覚をできるだけ早く掴むことが大事です。
僕は、1年生の頃の新人バンドを組んだ時に「楽譜?書くよ」と大口を叩いてしまったので、早速1曲完成させなければいけない状況が生まれていました。今思い返すと、その大口を叩いたことが自分がアレンジャーになるきっかけだったなぁ、と当時の自分には感謝しています。

⑥「イマイチ」という感覚を大切にする

楽譜が完成した、あるいは、楽譜を歌ってみると、「あれ、なんか違うな」って感じる時ってよくあります。特に初心者であれば間違いなくその状況に遭遇するでしょう。

その際、「なんか違うな」という感覚を、できるだけ具体的に言語化できるようにしてください。「どこの部分が、どんな風に、ダメだったのか。逆にそこ以外の部分はなぜ上手いこと行っているのだろうか」という具合です。アレンジが得意な先輩などに問いかけてみるのも良いでしょう。

この言語化をしておくことで②をはじめとしたインプットの際、自分のアレンジの至らない部分を解決する糸口を発見しやすくなりますし、「自分の拘りたい部分」という自分の感性に向き合うことにも繋がります。
そういう積み重ねをすることによって、はじめは上手くいかなくても徐々に自分のアレンジの好きな部分として誇れるようになってきます。

「アカペラアレンジ」と独創性

最近、「アカペラアレンジあるある」を曲にしたアカペラがtwitterで話題になりました。

(まだ聞いてない人は必聴です!近頃のアカペラアレンジのトレンド要素がふんだんに詰め込まれつつも細部に個性が散りばめられている素晴らしいアレンジとなっています)


僕はこのアレンジを見て「あるある」と共感したと同時に、ふと考えたことがあります。

- このような『あるある』と感じる部分にプラスアルファしてそれ以外の解を提示できるというのが、その人のアレンジャーとしての個性であり、強みなのだろうな。

冒頭に出てきた「彼」が友達に助けを求めた際、友達が「彼」の作品の個性を一切奪わずに手直ししたように、音楽理論やアカペラアレンジの手法というのは、十人十色の感性を潰さず生かすためのツールであってほしいなぁと思うものです。


さて、#アカペラアドベントカレンダー、まだまだ続きます!

14日目はけんたさん!一体どんな記事になるのでしょうか。とても楽しみです。

最後に、ここまで読んでくださったみなさん、この記事を書くきっかけとなったアカペラアドベントカレンダー関係者のみなさん、本当にありがとうございました!!

皆さん、自分だけのアレンジを極めてハッピーアカペラライフを送りましょーそれではまた!!

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