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私学助成金の簡単まとめ

たびたびあさ8で言及されている私学助成金 。
これまでの流れや情報をなるべく公的機関からの資料を基にまとめました。賛否に関わらず、情報のみを羅列していき、最後に私見を含めて記載します(私見については有料としています)。
種々様々な参考資料を利用しているため、多用する文書においては各章の文頭に明示しておきます。
また参考資料については別のnoteに記載します。

目次

  1. そもそも私学助成金とは何か

  2. 私学助成金の構成とこれまでの金額推移

  3. 助成を受けている大学と依存度

  4. 主な大学における学生数、外国籍学生数、教職員数

  5. 私学振興助成法の成立背景と議論

  6. 私見

  7. 最後に

 参考資料はこちら

1.そもそも私学助成金とは何か

正式名称は私立大学等経常費補助、私立高等学校等経常費助成費等補助、私立学校施設・設備の整備の推進を総称して所謂“私学助成金”と一般に呼ばれています。
このnoteにおいても、私学助成金としますが、主に“私立大学等経常費補助”を取り合げて記載します。私学助成金は私立学校振興助成法(以下、私学助成法)に基づき決定されています。

 私学助成金とは、日本私立学校振興・共済事業団 私学振興事業本部(以下、私学事業団)によれば下記の目的をもって支給されるものになります。

【私立大学等の教育条件と研究条件の維持向上及び在学生の修学上の経済的負担の軽減並びに経営の健全化等に寄与するため、国から私立大学等経常費補助金の交付を受け、これを大学等を設置している学校法人に交付しています。昭和45年度から令和4年度末までの交付額は、13兆6,075億円に達しています。】

この補助金は、教職員の給与費、教育と研究の経費等を対象とする一般補助のほか、特定の分野や課程等に係る教育・研究の振興を図るために特別補助の枠が設けられています。

 また【私立大学に対する国の補助は二分の一以内】と私学助成法 第四条に記載があり、1975(昭和50)年7月1日の参議院 文教委員会にて、私立学校振興助成法に対する付帯決議案 一【できるだけ速やかに二分の一とするよう努めること】という内容が決議されていますが、現状は10%程度で推移しています。本付帯決議は、当時の自由民主党 藤浪孝生 衆院議員の発案となっています。

 

2.私学助成金の構成とこれまでの金額推移

令和四年度交付額は2980億円強で文科省予算が5兆2818億円なので5.6%程度を使用しています。
(私学助成関係予算全体は4094億円、7.7%)

余談ですが、無利子奨学金の予算は1015億円、高校生等への就学支援は4300億円です。
この辺りは別にします。

 

私学助成金は①一般補助と②特別補助があります。
①は教育研究に係る経常的経費の支援
②は自らの特色を生かして改革に取り組む大学を重点的に支援
という目的の補助になっています(②は本記事では取り扱わない)。

 補助金額の算出について概要を見ていきます。
一般補助金は、専任・非常勤教員・専任職員の給与、教職員の福利厚生費、教育研究経常費、厚生補導費、研究旅費などから構成されています。
それぞれ個別に算定基準がありますが、おおよそ下記のようになっています。

給与に対する補助:専任教員は4-500万円x人数、専任職員は3-400万x人数、非常勤講師は授業時間数x4-5000円、

福利厚生費(労災保険、雇用保険、退職金など)に対する補助:教職員数x4-7万円

教育研究経常費:研究機器や図書、入学者の募集のための教育内容の充実や私立大学等の安全性等を広報するための経費(定員割れの場合)など

厚生補導費:学生指導、課外教育又は保健管理に要する経常的経費など

研究旅費:専任教員等の研究のために要する旅費

 *研究経常費は医歯学部の場合、他学部に比べ学部生は+1万円、院生は+10万円の補助が出るため、高額になりやすくなっています。

交付される学校(以下、交付校)は大学、短期大学、高等専門学校の3種で、交付校のおおよそ60-70%が大学、30-40%程度が短期大学です。
(私立高等専門学校は2023年時点で4校しかなく、。サレジオ工業(東京)、国際(石川)、近畿大学工業(三重)、神山まるごと(徳島))

今回は全体の金額を見ていきます。
では、近年の推移を表とグラフで見てみましょう。
(データは私学事業団HPにて確認できる2003-2023年で作成)

 

資料.1 私学助成金の交付総額と交付学校総数の推移

見てわかる通り、予算自体はそれほど大きく増減せず、3100±300億円以内、交付校数は870±20以内になっています。

学校種別区分ごとの総数は私立大学623校、私立短期大学297校、私立高等専門学校4校(2022年度は3校、神山まるごとが2023年4月開校)ですので、9割以上の学校が助成を受けていることが分かります。 

 

3.助成を受けている大学と依存度

2022年の補助金額ランキングをみると、早稲田大学(90億円強)、慶応大学(84億円弱)、昭和大学(60億円弱)、立命館大学(60億円弱)、順天堂大学(57億円強)と続いています。
各校の2023年度学生数(学部生+院生)は順に、約47000名、約33000名、約3700名、約38000名、約8000名となっていますので、学生一人当たりへの助成金額はこの5校だけでも15~160万円強と大きな開きがあります。
これは各学校のもつ学部や専門性、開学からの期間によるもので、医学系であったり、開学から間もない学校に対しては学生一人当たりの助成金額は大きくなる傾向にあります。
※助成金自体は学生数に対してのものではないので、参考程度になります。 

しかしながら各大学では助成金に対する依存度は、助成金額とは全く異なる並びになります。
東洋経済オンラインによれば、2021年度のデータでは、665学校法人合計の総経常収入に占める補助金割合(以下、経常補助金比率)は12.6%、2019年度が9.4%だったので大幅に跳ね上がったとあります。
2021年度の経常補助金比率が高い学校法人は函館大谷学園(北海道、65.6%)、響和会(和歌山、60%)と続きます(それ以下は有料記事のため記載しません)。
2016年度のデータでは経常補助金比率は最大57.2%(同函館大谷学園)なので、比率が上がっていることが分かります。

 

4.主な大学における学生数、外国籍学生数、教職員数

それでは2023年の補助金額ランキングトップ5と、東洋経済オンライン(2018年)の経常補助金比率が高い学校法人ランキングTOP5の学生数、外国籍学生、教職員の数を見ていきましょう。人数は各学校または法人HPや事業報告書を参照して記入しています。
また各単語の定義は下記の通りです。

  • 学生数:集計時点の総学生数(学部生、院生(博士前後期))。外国籍学生を含む。

  • 外国籍学生:外国人学生と外国人留学生の総和(学部生、院生(博士前後期))

  • 外国人学生:外国籍を持つ者(ビザが[留学]でない)。ただし永住者、特別永住者、定住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等 の在留資格を有する者は除く。

  • 外国人留学生:有効な在留資格「留学」を有する学生

  • 教員:専任、非常勤を含む教員(教授、准教授、助手、講師、研究員など)

  • 職員:専任、嘱託を含む(学校の開示方針により専任のみの場合もあり)

各人数非開示や発見ができなかった場合はN/Aと記載。

資料.2 各大学の学生数、外国人学生数、教職員数

*同法人の病院職員を含む(どこまでが学校に関わっているか不明のため合算)
**2022年度受入れ人数
***教員一人当たりの学生数からの概算

5.私学振興助成法の成立背景と議論

*本章では憲法89条後段と私学に対する公費助成(結城忠、2013)を主な参考資料として記述しています。

ここまでは私学助成金の現状を確認してきましたが、どうしてこの法律ができたのか、についても見ていきます。
関わる法律は[教育基本法][学校教育法][私立学校法]など多数あります。

 まず根本に1947(昭和22年)に制定された教育基本法と学校教育法があります。

この法律内では

  • 法律に定める学校は公の性質を持つ

  • 法律に定める法人のみが学校を設置することができる

  • 教員は全体の奉仕者として身分を尊重され、待遇は適正でなければいけない

  • 私学は規制に従い、かつ監督庁の認可を受け、命令に従う

としています。

つまり

  • 「私学とはいえ公共性がある」こと

  • 「私学の設置は特別法人に限定する」こと

  • 「政府に監督される」こと

を明記しています。

その後1949(昭和24)年に制定された私立学校法では、「私学の自主性」尊重の観点から、「学校教育法第十四条は適用しない」としており、設備・授業・その他の事項においては監督庁の命令に従う必要がないとされました。

したがって、設備・授業で法令違反があろうと所轄官庁は変更命令を出せないことになっています。

また私学の設置・経営主体については公共性を高めること、私学に対する公費助成の法的可能性を明確にすることが内容となっています。
この「公費助成の可能性」が私学助成金に繋がっている、という形です。
※第五十九条に「教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律で定めるところにより、学校法人に対し、私立学校教育に関し必要な助成をすることができる」とされています。

1960年代前半ごろまでは、私学への助成は税制優遇と長期低利融資が中心で、特定分野に対する部分補助で、金額も私学の全体収入から見れば小さいものでした(詳細数値不明)。
その後急激な大学進学率の増加(資料3)やインフレ(資料4)に伴い、人件費・管理コストの高騰などによる私学の財政悪化がおこりました。 


資料3. 高校・大学・大学院進学率の推移(社会実情データ図録より)
資料4. 小売り・卸売物価 対前月比のグラフ(日本銀行金融研究所より)

財政悪化を改善させるために、私学が学費と水増し入学を行いましたが、これにより国公立との学費の差、教員一人あたりの学生数の差が開き、[日本国憲法 第26条 教育を受ける権利]に照らし、機会や質の格差が問題となりました。
(大阪では公私高校の学費差が憲法違反だとして訴訟が起きているが、請求は棄却)

その後1968(昭和43)年に経常的教育研究費助成、1970(昭和45)年には人件費も補助対象とした私立大学等経常費補助金精度が創設されました。
しかしながら、私学財政悪化は好転せず、1975(昭和50)年に自由民主党の議員立法で私立学校振興助成法が制定されることになります。

私立学校振興助成法成立までの大枠の流れは上記の通りです。

ここから、私学助成に対する議論についてみていきます。
私学助成に対しては「違憲か合憲か」という議論があります。

これは日本国憲法89条後段において「公金その他の公の財産は、・・・公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」とあるため、“私学への公費補助は合憲か”という意見があります。
この意見に対し文科省HPには、「私立学校法は、わが国の私立学校制度に画期的な改革を行なったものであり、その後における私立学校の発展を制度的に保障したものであった。しかし、反面、従前と異なり、私立学校の公共性の維持・向上は、ほとんど理事等関係者の良識と自覚にゆだねられたため、一部には私学経営に好ましくない事例が生じても所轄庁の規制によりこれを未然に防ぐ方途を失うに至った」と記載されています。

つまり、「学校教育法」と「私立学校法」によるコントロール下にあるため、助成を行うことは憲法に違反しない、と明確な立場に立っています。

6.私見

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