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MTG『カラデシュリマスター』ドラフト環境備忘録

1. 本稿について

 2020年11月12日にMTGA(MTGアリーナ)で実装されたカラデシュリマスター(以下、KLR)のドラフト環境についてまとめる。通常の新弾に比べてドラフトのプレイ可能期間が短いため、次回の再プレイ可能期間のための備忘録とすることが主目的となる。
 リミテッドに関する内容であるため、注釈が無い限りは基本的にアンコモン以下のカードについて言及する点には注意してほしい。

2. 筆者・記事の信頼度について

 筆者は「カラデシュ」「霊気紛争」の頃に復帰したプレイヤーで、当時はリミテッドに注力していない。当時の環境を知るプレイヤーの配信や記事を参考にしつつミシックランクになるまでカラデシュリマスターをプレイし、初実装のドラフト・チャレンジも完走した。
 普段は新弾が出るたびにミシックランクになるまでMTGAリミテッドのラダーをプレイし、その環境のピック譜をニコニコ動画に投稿するというスタイルでリミテッドを楽しんでいる。そのため、リミテッド環境理解のための下地はある程度整っているものと推測されるが、あとは記事の出来栄えで判断して貰えればと思う。

3. 環境概要

 KLRは先行有利の環境である。これは「攻撃時のメリット能力が多く」、「コンバットトリックに介入できるコモンが少ない」ことに起因する。
 また、直近の新弾に比べてボムゲー土地事故が起こりやすい。これらの問題に付き合う必要があるため、ロングゲームは目指すべきではない
 そのため、攻撃的なビートダウンを目指すのが今環境の基本方針となる。

 以下、上述の内容についてそれぞれ確認し、各アーキタイプの統計データも参照しながら上記内容の妥当性を確認する。

4. 攻撃時のメリット能力

 攻撃時のメリット能力としては以下が挙げられる。

1. 戦闘前の強化
2. 攻撃時の誘発
3. タップ時の誘発
4. ブロック制限
5. プレイヤーへのダメージ解決時の誘発
6. 戦闘後の「紛争」

 このうち、まず「2. 攻撃時の誘発能力」について特筆する。攻撃時誘発能力持ちは以下のとおり。

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(画像クリックで拡大。以下同様)

 上図のうち、機体以外の各色クリーチャーは「エネルギー・カウンター」(以下、エネルギー)を消費して霊気装置トークンを生成したり、サイズアップしたり、といったメリットを得られるようになっている。
 特に、2ターン目に着地させた工匠で霊気装置を生成する動き、あるいは、3ターン目に着地させた《亢進するサイ》を3/4にサイズアップする動きは今環境の基本ムーブである。これらを止める術は限られており、先行有利の一因となっている。

 数は多くないが「3. タップ時の誘発能力」が存在するのも今環境の特徴である。これは攻撃時だけでなく、機体への搭乗時にも誘発する。

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 このタップ誘発能力が、《移動駐屯所》の攻撃時誘発能力と特に相性が良いことはぜひ覚えておきたい。駐屯所の攻撃後に再搭乗することも可能だ。

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 「2. 攻撃時の誘発能力」の一覧図に複数の機体が存在していることからも、機体を絡めた攻撃的な動きは先行有利の理由のひとつになっている。

 また、下図のとおり、アンコモン以上かつ数枚しか存在しないが、「5. プレイヤーへのダメージ解決時の誘発能力」も無視できない要因である。

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 これらはいずれも明確な脅威で、特に《牙長獣の仔》は対処されなければそのままゲームを決められる自己完結の能力を持っている。
 「2. 攻撃時の誘発能力」では緑青赤のティムールカラーのエネルギー能力持ちが目立っていたが、ここで取り上げたアンコモンが青と緑であることからも、ティムール系エネルギーデッキが攻撃面で優れていることが分かる。

 以上のように、今環境では攻撃時のメリット能力が多数収録されており、先行有利の要因になっている。

 なお、「霊気紛争」収録メカニズムの「6. 紛争」も攻撃後に機能しやすい能力ではあるが、狙いすぎると不自然なアタックになりがちで、紛争の達成がうまくいかない場合も多いため、先行有利にはあまり結び付いていない。

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5. コンバットトリック

 今環境が先行有利である要因として、「コンバットトリックに介入できるコモンが少ない」ことを挙げた。より厳密に言えば、「クリーチャー強化系のコンバットトリックのスタックで除去できるコモンの選択肢が少ない」、となる。以下でコンバットトリックをまとめながら確認する。

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 白は1マナの2枚が実質3種類の役割を持っており、臨機応変に戦える。横並びデッキでは、全体強化も強く使えるだろう。
 一方で、解答側のコモンスペルは《絶妙なタイミング》に限られるが、
・レンジストライクであるためシステムクリーチャーに触れない
・相手にブロックさせる必要があるためアグロでは使いづらい
・3点であるため緑の中堅クリーチャーや機体に対処しづらい
などの問題を孕む除去であるため、除去としての信頼度はやや低く、デッキに複数枚採用しづらい。
 アンコモンまで見れば《空鯨捕りの一撃》という優秀な除去があるものの、アンコモンはドラフト卓内で1枚出るか出ないかという確率になってくるため、コモンのコンバットトリックが通りやすいことはイメージし易い。

KLRのアンコモンは97種類。ドラフト卓内のアンコモンは8*3*3=72枚で、
特定のアンコモン出現確率はざっくり計算して 72/97 ≒ 0.74 と1を下回る。

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 続いて青。コモンのコンバットトリックは全てバウンスになっている。
 《抜き取り検査》は1マナのためコンバットトリックに対応しやすいが、相手の動きに合わせて唱えないとハンドアドバンテージを失う短所がある。自身が攻撃側だった時に使いづらい点も気になる。
 《置き去り》についてはキャントリップ付きであるものの、4マナが重いため、相手の動きに上手く対応するのが難しいという問題がある。
 《上天の貿易風》がコストと効果でバランスが取れていて、キャントリップ付きのパーマネントや、除去オーラが貼られたパーマネントを回収しながらコンバットトリックに対応する、という動きを狙いやすい。ただし、構築時点で回収用のパーマネントを意識しておく必要がある。
 いずれのスペルも一長一短で、プレイングと構築の質が要求されるため、コンバットトリックを試みる側が有利と言って間違いはないだろう。今環境に「製造」やエネルギー獲得のETB能力持ちが多いことも、バウンスの使いづらさに繋がっている。

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 また、打ち消しはコモンに2種類存在するが、2マナ要求の《革命的拒絶》はリミテッドにおいて後半腐りやすく、基本的に採用されない。
 一方の《金属の叱責》は、アーティファクトが並ぶ今環境では即席によって1マナで唱えられる可能性もあり、常にケアが必要な打ち消しと言える。ただし、コンバットトリックに対する解答としては、1対1の交換であるため、相手のアクションを咎められるスペルとは言い難い。

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 黒のコモンは2種類。
 《隠然たる襲撃》はタフネス1のクリーチャーを除去できるが、範囲が狭いため、クリーチャー強化系のコンバットトリックとして使われることのほうが多い。除去の範囲に、先制攻撃や接死持ちが含まれる点は優れている。
 《活力の奔出》は絆魂付与によってライフレースをひっくり返せるポテンシャルがあり、破壊不能付与もあって使いどころが多い。
 直近の新弾と異なり、黒コモンのインスタント除去が無いのは今環境の特徴だろう。アンコモンまで見れば除去の種類は増えるが、コモンではタフネス2以上を除去する手段が無いため、黒単体で見るとコンバットトリックを仕掛ける側が優位と判断できる。

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 今環境で最もコンバットトリックが充実しているのが赤である。
 赤は1マナ域に2種類の強化スペルがある。サイズの大きい機体をインスタントで対処する手段が少ないため、《撃砕確約》は機体軸アグロのフィニッシュ手段として優秀だ。《正確な一撃》は修正値が小さい弱点はあるが、防御的にも使いやすいのでそれほど悪くはない。
 除去について言えば、3+α点の《溶接の火花》の存在が大きい。ここまでの確認で、《溶接の火花》がコモン・インスタントの中で最強の除去ということが分かるかと思う。おおよそ4点は与えられるため、除去範囲は広い。
 2点分割火力の《チャンドラの螺旋炎》も小粒が多い今環境ではプレイアブル。本体火力にもなるので、最後の詰めで使うこともできる。
 アンコモンのスペルもいずれも優秀で、総じて赤は攻守どちらのコンバットトリックも揃っていると言える。

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 最後に緑。
 ディッチャスペルの《人工物への興味》があることが特徴的。機体アグロに対してクリティカルに刺さる除去で、オーラ系の除去が多いことからも今環境では重要なスペルになっている。
 クリーチャー強化スペルは、《高峰の注入》が優秀。エネルギー2個は霊気装置トークン1体や+1/+1カウンター1個と等価であるため、修正値含め使いやすい。
 《飾りの勇気》はパワーの修正値が小さいが、緑のファッティをアンタップすることで相手のアタッカーを討ち取れることもある。
 ほぼ余談だが、フォグスペルの《祝祭の開幕》はBO3で白系横並びデッキ相手にサイドインできる可能性がある。基本的に採用されないフォグであるため、意識の外から相手のフルパンを咎められることがある。

 ――KLR環境のアンコモン以下のコンバットトリックは以上となる。
 1・2マナ域の優秀なクリーチャー強化スペルがある一方で、それらを咎めるコモンのスペルが少ないことが見て取れたかと思う。特に、黒コモンの確定除去が無いのは今環境の特徴で、大型クリーチャーとコンバットトリックの組み合わせを止めるのは容易ではない。クリーチャー強化系のスペルが除去として機能することも珍しくなく、先にクリーチャーを展開できる先行が有利という状況に繋がっている。

6. 直近の新弾との比較

 カラデシュリマスターの環境を理解するに当たって、直近の新弾との違いを理解しておくことが助けになる。特に、新弾に慣れているプレイヤーだと見落としやすいポイントがあるため、先にそれらを確認しておく。

 6-1. レアリティ間のカードパワー格差

 2019年1月に発売された「ラヴニカのギルド」以降の新弾では、「F.I.R.E」理念が採用され、コモンのカードパワーが上昇している。例としては、基本セット2021の《ラノワールの幻想家》が分かりやすい。スタンダード構築でも白緑ヨーリオン等で採用された実績がある。

ラノワールの幻想家

 また、「灯争大戦」以降、プレインズウォーカーにも対処できるコモンの除去が収録されるようになっており(例:《とどめの一撃》)、直近の新弾では「強いレアを引いたら勝ち」という、いわゆる「ボムゲー」が若干発生しづらくなっている。ボムへの対処手段が充実し、デッキ全体の完成度が要求されるようになったのが直近の新弾のリミテッド環境と言えるだろう。

 しかし、2016年9月発売の「カラデシュ」、翌年1月発売の「霊気紛争」には、「F.I.R.E」理念が採用されていない。そのため、リマスターとしてカードの取捨選択は行われているものの、レアリティ間でカードパワーの差が明確に存在しており、リミテッドで嫌われがちな「ボムゲー」が起こりやすくなっている。アンコモンの中にも以下のような「対処できなければ負け」というカードが存在しており、押し付ける側が有利な環境になっている。

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 6-2. 土地事故の起こりやすさ

 リミテッドで同様に嫌われるものとして、以下の「土地事故」がある。

1. マナフラッド
2. マナスクリュー
3. 色事故

 直近の新弾ではこれらの土地事故を防ぐ様々な試みが行われている。
 まず、マナフラッドについて、以下のような対策メカニズムが存在する。

・出来事 (エルドレインの王権)
・脱出 (テーロス還魂記)
・キッカー (ゼンディカーの夜明け)
・両面カード (ゼンディカーの夜明け)

 マナスクリューについては、以下の対策メカニズムが存在する。

サイクリング (イコリア)
・両面カード (ゼンディカーの夜明け)

 また、2019年4月からロンドン・マリガンが採用されており、初手のマナスクリューは起こりにくくなっている。加えて、MTGAのBO1であれば、初手補正の仕組みも存在する。

 なお、色事故についての明確な対策メカニズムは存在しないが、コモンの多色土地の収録や、ダブルシンボルのカードの減少によって対策されていると筆者は考えている。後者については、イコリアの《血液凝固》が例として挙げられる。CMCは異なるが、メリット付きの《殺害》がシングルシンボルになったのは、色事故対策として調整されたものだと思われる。

血液凝固

 さて、直近の新弾は上記のような土地事故対策の試みが行われているが、カラデシュリマスターはどうかというと、「ほとんど対策されていない」のが実情である。マナフラッドは頻発するし、スクリューへの対策も少ない。

 唯一、色事故については複数のコモンがマナサポートとして働く。しかし、上述した《血液凝固》との比較になるが、《果敢な爆破》のようなダブルシンボルのカードはそのままなので、色事故のリスクは直近の新弾に比べて高いと捉えられる。

果敢な爆破

 こういった事情があるため、今環境では土地事故に強い構造のデッキが求められる。例えば、以下のような要素を含むアーキタイプが望ましい。

1. アグロ軸でマナフラッドする前に相手を倒せる。
2. マナフラッド受けを自然に組み込める。
3. 占術でマナスクリュー・フラッドの両方に対応できる。
4. マナサポートで色事故を防げる。

7. 中間まとめ

 ここまで確認した内容をざっくりまとめる。

1. 攻撃時のメリット能力が多いため、ティムール系のエネルギーデッキ、
 あるいは、機体軸のアグロデッキが先行有利を取りやすい。

2. コンバットトリックに介入できるコモンが少ないため、
 クリーチャーを先に展開できる先行が有利。
 特に赤のコンバットトリックが優秀。
3. 対処札よりもボムが強い環境であるため、ボムを使って圧倒する、
 あるいは相手のボムが機能する前に相手を倒すことを意識する。
4. 土地事故が発生しやすいため、デッキに構造的な強度が求められる。
 (アグロ軸、フラッド受け、占術、マナサポート等)

 以上の確認事項から、攻撃的なビートダウンを目指すことに理がある、ということが分かる。これらを前提とし、続いてKLR環境の各アーキタイプについて確認していく。

8. 統計データを読む

 MTGAリミテッド向けのトラッカーツール「17Lands」では、ユーザーログから得られた統計データを公開している。これを確認することで、環境のアーキタイプ毎の強弱をある程度理解することができる。
 下表は、BO1ドラフトの勝率、BO3ドラフトの勝率、ドラフト・チャレンジのトロフィー数をアーキタイプ毎にまとめたものである。一番右の列の「Rank」は独自のもので、アーキタイプ毎の強弱を可視化するために用意した参考値になっている。なお、通常だと全体勝率は5割になるが、この統計データは「17Lands」を導入しているプレイヤーのログを集計したものであるため、全体勝率が5割を超えている点に注意して欲しい。

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※2020年12月初めにデータ取得

 上表の統計データでアーキタイプの強弱を判断すると、以下のようにグループ分けできる。

A+:ボロス、イゼット
A:グルール、ラクドス
B:ゴルガリ、ティムール
C:セレズニア、シミック
C-:オルゾフ、アゾリウス
D:ディミーア

 上位2グループを赤が独占しており、中位を緑が押さえている。白青黒のエスパー系アーキタイプが下位に固まり、環境のカラー強弱が読み取れる。

赤 > 緑 > 白青黒

 赤の強みは、エネルギー活用で先行優位を取れること、機体を活用しやすいこと、コンバットトリックが優れていることである。これらは確認済。
 緑の強みは、エネルギーを使って先行優位を取れることと、他の色に比べてクリーチャーのサイズが一回り大きいことである。例えば下図の《亢進するサイ》、《ピーマの先導》は緑の中核コモンクリーチャーだが、これらが順番に着地するだけで決着するゲームも時々見られる。

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 ただし、青系アーキタイプのフィニッシャー《歯車襲いの海蛇》や機体といった、緑よりもサイズの大きなクリーチャーが環境に存在しているため、地上のゴリ押しだけでは勝ちづらい緑は中位に落ち着いている。

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9. KLR環境のアーキタイプ

 以下、前章の勝率表の順番に各アーキタイプを見ていく。先に紹介するアーキタイプほど勝率が高く、後に紹介するアーキタイプほど勝率が低い、という認識でおおよそ正しい。
 各アーキタイプについて概要を話した後、その色のアンコモンのマルチカラーカードとトロフィーデッキのサンプルに軽く触れる。

 9-1. ボロス(赤白)

 ボロスは機体を絡めたアグロデッキ。アグロであるため、相手のボムが機能する前にゲームエンドを狙うことができ、マナフラッドにも耐性がある。機体による一点突破以外にも、赤のエネルギーや白の製造から霊気装置トークンの横並びプランを取ることもできる。赤の優秀なコンバットトリック含め、強く攻めていけるアーキタイプと言える。

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 アンコモンのマルチカラーカードはどちらも機体と組み合わせることで真価を発揮するが、一方は占術持ち、もう一方はタップ誘発能力持ちということで、機体がなくても十分な活躍をしてくれる。どちらも打点が高く、攻撃的なデッキと非常に相性が良い。

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(サンプルトロフィーデッキ。以下同様)
機体と横並びの2軸で戦う形で、《破壊的細工》はフィニッシャーにもなる

 9-2. イゼット(青赤)

 イゼットはエネルギーからトークンを生成して盤面を作り、即席系の能力を持つ大型クリーチャーによって蓋をするミッドレンジ。コモンベースで組めるため再現性が高く、緑に負けないサイズのクリーチャーを高速展開できる点が優れている。特に《歯車襲いの海蛇》が優秀なフィニッシャーで、今環境の青コモンの中でTOP3に入る強さがある。

歯車襲いの海蛇

 色事故に対して《改革派の地図》《予言のプリズム》、マナスクリューに対して占術や即席、マナフラッドに対して占術や《歯車襲いの海蛇》といったカードが揃っており、土地事故に対して強い構造を持っている。

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 アンコモンのマルチはいずれも飛行機械トークンの生成能力持ちで、即席と非常に相性が良いグッドスタッフ。《つむじ風の巨匠》のトークン生成能力はエネルギーを3個使用するため、エネルギーの使い道が複数ある時には用途を間違えないように気を付けたい。

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工匠が多く、即席の種にもなる《発明者のゴーグル》がポイント

 9-3. グルール(赤緑)

 グルールは「サイズの緑」と「コンバットトリックの赤」を組み合わせた押し付け能力の高いビートダウンで、アグロとミッドレンジの中間ぐらいの速度感のデッキになる。エネルギーに寄るとアグロの性質が強くなり、+1/+1カウンターに寄るとミッドレンジの性質が強くなる。

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 アンコモンのマルチは一方がエネルギー能力持ちの優秀な低マナクリーチャー。もう一方がいわゆる「小走り」と呼ばれるパワー2以下にブロックされない能力持ちの猪。今環境ではサイズの大きなクリーチャーを接死が睨む、という構図が頻出するが、小走り能力持ちはこれを乗り越えることができる。ただし、接死持ちの多くはタフネス1であるため、《チャンドラの螺旋炎》といった分かりやすい突破手段があり、コモンの《ピーマの先導》と同サイズということもあって、《辺境地の猪》の存在感は薄い。

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攻撃的なクリーチャーを火力でバックアップする骨太のビートダウン

 9-4. ラクドス(黒赤)

 ラクドスはアーティファクト・クリーチャー軸のアグロと、大量の除去で盤面を掃除しながら殴っていく除去ミッドレンジの2種類が存在する。このうち、前者のアグロ軸が特徴的なアーキタイプと言える。

 ラクドスには機体に搭乗(タップ)するだけで相手のライフを削るカードが2種類あるため、他のアーキタイプに比べて盤面の膠着にも強いという特徴がある。ただし、コンボ的な性質を孕むため、クリーチャーと機体の枚数を適正値に調整する構築のバランス感覚が要求される点には注意が必要だ。

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 アンコモンのマルチは一方はアーティファクト・クリーチャーの強化、もう一方は今環境で貴重なインスタントの完全除去で、コントローラーへのダメージも付いてくる。どちらもアグロ軸で非常に使いやすい。

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3体の《夜市の見張り》が同時に搭乗するだけで3点ドレイン

 9-5. ゴルガリ(黒緑)

 ゴルガリは緑の高スタッツクリーチャーを黒の除去でバックアップしていくミッドレンジ。+1/+1カウンターに関するシステムが存在しており、相手に対処を要求する力が最も強いアーキタイプになっている。

 弱点として、黒と緑の両方にダブルシンボルのカードが存在するため、色事故が若干起きやすいというものがある。《霊気との調和》といったマナサポートを組み込んでマナベースを強固にし、色拘束の強いパワーカードを叩きつけることが勝利の鍵となる。

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 アンコモンのマルチは、カウンターを追加で1個置く強力なシステムクリーチャーである《巻きつき蛇》と、カウンターが乗っていないクリーチャー全体への-2/-2修整。前者は特に押し付け性能が高く、相手が対処できなければそのまま勝ちに直結する。後者については、今環境ではトークンの横並びが発生するため、相手のアーキタイプ次第ではゲームエンドカードになる。

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 なお、全体マイナス修整系は黒のアンコモンとレア以上に2枚ずつある。緑含みには刺さりにくいが、主に白含みの横並び軸に睨みを利かせている。

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蛇を対処されなければ勝ち。神話レアはほとんどオマケ

 9-6. ティムール(赤緑青)

 今環境で唯一多くプレイされている3色アーキタイプがティムールである。ティムールはエネルギーの要素が強いカラーリングで、カードパワーの高いマルチカラーのカードをタッチする形で組まれることが多く、グッドスタッフ・ミッドレンジの性質が強い。

 マナサポートには、緑軸の場合は《霊気との調和》が、青赤軸の場合は即席の種になる《予言のプリズム》がよく使われる。

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《抽出機構》もあってエネルギー供給は途切れない

 9-7. セレズニア(白緑)

 セレズニアは、スタッツに優れる緑のクリーチャーと白の飛行クリーチャーを組み合わせる場合と、紛争や製造等による横並びから全体強化でゲームを終わらせにいく場合の、2つのミッドレンジプランが存在する。

暁羽の鷲

 特に白コモンの《暁羽の鷲》が優秀で、「全体強化・警戒付与・フライヤー」と3拍子揃っている。そのため、横並びプランが選ばれることが多い。
 ただし、土地事故に対して構造的にあまり強くなく、ゴルガリの全体マイナス修正系のスペルがクリティカルに刺さるという弱点を持っている。

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 アンコモンのマルチは、紛争時に墓地からCMC2以下のパーマネントを戻すETB能力持ちクリーチャーと、単体強化・全体強化の2モードがあるソーサリーの2種類。前者はモダン環境等での採用実績があるが、リミテッド環境では釣り上げたいパーマネントが少ないため力不足感がある。後者は重いソーサリーのため、あれば嬉しい程度の存在。他の色に比べてマルチのカードが若干弱いのがこの色の特徴だ。

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鷲4枚を採用した分かりやすい横並びデッキ

 9-8. シミック(緑青)

 シミックはエネルギーを軸にしたミッドレンジである。場面に応じて、クリーチャーをサイズアップさせたり、霊気装置トークンを生成したり、占術でドローの質を向上させたり、といったエネルギーの使い分けが得意であり、エネルギー獲得手段が多いこともあって、細かくポイントを稼げるところに強みがある。

 青を含むので《歯車襲いの海蛇》が採用されるパターンもあるが、霊気装置トークンを並べても有効活用しにくいため、豊富なエネルギーを活かしてビートダウンしていく方針のほうが色の特徴を出しやすい。

 ただし、「エネルギーを獲得するばかりで消費する方法が無い」ということも発生しがちであるため、エネルギーを有効活用できる蛇口をきちんと用意しておくことが重要になる。

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 アンコモンのマルチは、エネルギー獲得と1ドローのETB能力持ちと、プレイヤーへの戦闘ダメージでエネルギー獲得の能力を持つフライヤー。どちらもエネルギー獲得の能力も持っているグッドスタッフであり、ドラフト中は色空きのシグナルになる。

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エネルギービートダウンの形。除去の弱さをサイズでカバーする

 9-9. オルゾフ(白黒)

 オルゾフは紛争を含みにした、横並び軸の低速ミッドレンジになることが多い。先行を取っても有利盤面を作りにくいという弱点はあるが、絆魂が最も多いカラーであるため、後攻でも巻き返しを図りやすいのが一つの強み。
 ただし、セレズニアと同じく、土地事故に対して構造的にあまり強くなく、全体マイナス修正系のスペルが刺さりやすいという弱点を持っている。

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 アンコモンのマルチは、クリーチャーかアーティファクトの墓地回収ETB能力持ちクリーチャーと、紛争した自ターン終了時に霊気装置トークンを生成するエンチャント。どちらも、攻撃よりもアドバンテージ稼ぎを重視したカードであり、じっくり戦うカラーリングであることを示している。

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やはり鷲が優秀なフィニッシャー。絆魂クリーチャーも頼もしい

 9-10. アゾリウス(白青)

 アゾリウスはエネルギーや製造によって霊気装置トークンを横並びさせて《暁羽の鷲》《歯車襲いの海蛇》に繋げるプランと、霊気装置トークンをチャンプブロッカーとして運用して豊富なフライヤーで殴り勝つプランを使い分けるミッドレンジ。バウンスやブリンクといったスペルでETB能力を使い回してアドバンテージを稼ぐことも狙える。

 アゾリウスの抱える問題としては、パワーの低いクリーチャーが多いため大型機体を動かしにくく、今環境の緑のサイズ感にどう立ち向かうかが難しいというものがまず挙げられる。
 また、タフネスの小さいクリーチャーが全体マイナス修整で流されてしまうという白系共通の問題も存在している。

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 アンコモンのマルチはどちらも使い勝手の良いETB能力持ちフライヤー。ブリンクする価値が高く、使いまわせる手段を構築時点で意識しておくことが望ましい。なお、《雲先案内人》はタッチしたいクリーチャーとしてアゾリウス以外にもピックされてしまうことが多く、アゾリウスの手元に流れてこない可能性があるというリスクも抱えている。

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バウンスでテンポを奪って差し切る展開を目指した形

 9-11. ディミーア(青黒)

 ディミーアはマルチカラーカードの性質から、アーティファクトや即席を軸にしたコントロール寄りのデッキで組まれることが多い。青の除去オーラや黒の確定除去で盤面を押さえ、《歯車襲いの海蛇》等の大型クリーチャーに繋げることが基本的方針になる。

 ただし、前述のとおり先行ビートダウンの強い環境であるため、青黒コントロールという形は環境にフィットしていないという問題がある。なんらかのボムがある場合にはボムを引くまで長期戦をする、というプランを取っても問題無いが、「安いからこのカラーにいく」という方針は基本的に取るべきではない。

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 アンコモンのマルチは、絆魂と占術持ちの高タフネスクリーチャーと、どんなアーティファクトも5/5のクリーチャーに変化させるオーラ。前者は非常に守りに長けており、4マナまでのクリーチャーの多くを止められる。後者は機体に貼れば無人機として動き出すし、ETBやPIG能力持ちのアーティファクトに貼れば使い回してアドバンテージを得ることができる。

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ビートダウンが意識された形。《自己組立機械》は優秀なフラッド受け

10. アーキタイプ振り返りとピック方針

 以上、ティムールを含む11のアーキタイプを勝率表の順番に確認した。
 前半は序・中盤の攻め手が確保された攻撃的なアーキタイプが続いたが、後半になるほど攻撃にシフトするまでに時間が掛かる遅いアーキタイプになっていくことが見て取れたかと思う。
 攻撃的なアーキタイプの勝率が高く、防御的なアーキタイプの勝率が低いというこの事実は、前提事項として確認していた「攻撃的なビートダウンを目指すことに理がある」ということの裏付けになっている。

 ここまでに得られた情報から、以下のピック方針を導き出せる。

1. 赤か緑を中心に手を進める。
2. どちらの色も空いていない場合、強いカードの流れてくる色に移動する。
 ただし、漫然と青黒を目指すことが無いように注意。
3. 基本的に攻撃的なビートダウンを目指し、どのように攻めるのか意識して
 デッキを完成形に近づけていく。
4. 土地事故の起きやすい環境のため、マナサポートや占術を採用したり、
 ダブルシンボルや低マナのカードが多い色に寄せたりという調整をする。

 なお、「強いカード」と記述したが、これは「17Lands」が公開している直近のトロフィーデッキによく採用されているカードを見たり、カードレーティングのATA(Avg. Taken At;平均ピック手順)が早いカードを見たりすることである程度理解することができる。例えば、ATAの早いコモンのカードを抜き出してみると以下のTOP3を抜き出すことができる。各アーキタイプのトロフィーデッキに含まれていたカードが多いことに気がつくだろう。

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 これらのコモンはアンコモンに続いて、場合によってはアンコモンよりも優先的にピックすべきもので、色の空き判断の材料になる。自分がピックしている色の優良コモンはできる限り流さないように注意しよう。

11. まとめ

1. KLR環境は先行有利のビートダウン環境である。
 コンバットトリックやボムの押し付け等、攻めを意識することが重要。
2. 色の強弱は「赤 > 緑 > 白青黒」で、赤と緑の優先ピックが望ましい。
3. 土地事故が起きやすい環境であるため、土地基盤の調整と、
 マナフラッド対策が必要。フラッドについてはアグロも選択肢のひとつ。

12. 最後に

 ここまで述べたことはKLR環境の「基本方針」である。リミテッドの主戦力となるコモン・アンコモンを中心に話を進め、まとめに到った。

 しかし実際のリミテッドでは、途中でも少し触れたが、下図のようなボムレアに蹂躙されることも珍しくない。ある程度割り切りが必要な場面にも遭遇するので、そうした時には少し休憩して、気持ちをリフレッシュさせることをおすすめする。環境に慣れてきたら、ボムレアのケアや、イレギュラーパターンのピックも意識し始めると良いだろう。

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 本稿の執筆にあたり、リミテッダー向けトラッカーツール「17Lands」の公開情報、および画像作成のために「MTG Decklist Viewer」を大いに活用させていただいた。感謝を申し上げる。

 今回「アーキタイプ紹介」よりも先に進んだ「環境まとめ」に初挑戦し、自分の知識整理と環境理解度の向上に役立てられた一方で、「統計データが信用できるのはある程度環境が進んだ後になるため、分析手法については改善の余地がある」ということを認識することができた点が良かった。
 今後はカードプールからある程度環境を推測した後、統計データの推移を追い掛けるといった手法を取ることで、自分自身の環境理解能力を向上させられるのではないかと考える。

 なお、次環境以降の記事執筆については今のところあまり考えていない。KLR環境はMTGA独自の特殊な環境ということもあって、参考になる日本語記事をあまり見つけられなかったことが執筆の動機になった。通常の新弾であれば、おそらくいつも通りバットリまとめとピック譜をニコニコ動画に投稿するのではないかと思うが、記事執筆の作業負荷は思っていたよりも高かったし、他に執筆される方もいらっしゃるだろうから、今回のようなカッチリしたものは評判が良ければ続けるかもしれない、ぐらいで考えておきたい。

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