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【MTG】主にVOW環境アルケミーフォーマットにおける、連続タップインを防ぐマナベース構築のための確率計算

1. はじめに

 現在のVOW環境アルケミーフォーマットでは、基本的に以下の土地でマナベースが構成されている。

  1. 基本土地

  2. 2色両面土地(ZNR・KHM)

  3. ボルトイン可能な裏面土地(ZNR)

  4. 確定タップインの裏面土地(ZNR)

  5. 氷雪ミシュラランド(KHM)

  6. 有色ミシュラランド(AFR)

  7. スローランド(MID・VOW)

  8. 見捨てられた交差路(Y22)

VOW環境アルケミーフォーマットのマナベース
※ なお、シャドウランド(STX)は基本的に採用されないため、今回の話から除外する。

 上記のうち、4・7・8は先手2ターン目まで、後手ならば4・7が確定タップインの土地となる。

 しかし、先手で2ターン連続スキップすることは先手の有利を手放すものであり、後手の場合でも押し負ける原因になるため、これらのタップイン土地を引き過ぎるマナベースは避けるべきと考えられる。実際にそのような初手を引いた場合マリガンを検討するだろう。

 本稿では、土地の連続タップインを避けるために、「確定タップイン土地の枚数からその発生確率を求める方法」、「想定ゲーム数で実際に何回マリガンが起こり得るか」の計算方法をまとめる。

2. マリガンチェックの確率計算

2-1. 初手の土地枚数

 例えば25枚の土地を採用した60枚デッキで、初手7枚のうち2枚が土地である確率は以下の組み合わせの計算 nCr : combin(n, r) で求められる。

 combin(25, 2) * combin(35, 5) / combin(60, 7) = 0.252

 この式は、「土地25枚の中から2枚を引き、土地以外35枚の中から5枚を引く組み合わせの数」を「60枚から7枚引く組み合わせの数」で割って確率を計算している。

 上記の式はMS-ExcelやGoogle Spreadsheetでそのまま計算式として使用可能なので、地力でマナベースを構築したい人は試してほしい。Excel等のオートフィル機能を使用して確率表を作るのは簡単で、以下のように初手の土地枚数を計算できる。

土地25枚の60枚デッキの初手7枚で、土地がN枚である確率

 上表から、25枚の土地を採用した60枚デッキで、初手7枚のうち土地が2~4枚である確率は77.8%と分かる。

 なお、記事の内容を簡略化するため、本稿では「初手の土地が2~4枚」を基本的なキープ基準とする。

2-2. 確定タップイン土地の枚数毎の計算

 続いて、連続タップインの場合もマリガン対象と設定し、確定タップイン土地の採用枚数毎に、連続タップインになる確率を計算する。

 例えば、土地25枚のうち確定タップイン土地を8枚採用した60枚デッキで、初手7枚に含まれる3枚の土地全てが確定タップインである確率は以下の組み合わせの計算で求められる。

combin(8, 3) * combin(35, 4) / combin(60, 7) = 0.008

 この式は、「確定タップイン土地8枚の中から3枚を引き、土地以外35枚の中から4枚を引く組み合わせの数」を「60枚から7枚引く組み合わせの数」で割って確率を計算している。

 初手の土地枚数の計算と同様に、これもExcel等のオートフィル機能を使用すると簡単に確率表を作成できる。

確定タップイン土地の採用枚数毎の連続タップイン確率

 上表から、例えば確定タップイン土地の枚数が8枚の場合、マリガン確率が3.2%増えることが分かる。3.2%は、約30回のマリガンチェックのうち1回程度起こる事象ということを意味する。

2-3. 想定ゲーム数に対する許容マリガン回数の検討

 ここまでで以下の計算方法と結果をまとめた。

  • 初手の土地が2~4枚である確率

  • その際に連続タップインとなる確率

 具体例として、25枚の土地を採用した60枚デッキで、確定タップイン土地を8枚採用している時の確率は以下である。

  • 初手の土地が2~4枚である確率 = 77.8%

  • その際に連続タップインとなる確率 = 3.2%

 連続タップインの場合もマリガン対象とするとキープ確率は「74.6%」、マリガン確率は「25.4%」となる。

 それぞれの発生確率が分かったので、実際に何回程度のマリガンが必要になるのか、想定するゲーム数から簡易計算する。MTGAでは7勝するか3敗するまでのマッチ戦のイベントが多いので、最大27ゲーム、つまり27回のキープが必要と考えてマリガン回数を求めてみる。

 上の例だとキープ確率は「74.6%」であった。これについて単位を書くと計算が分かりやすくなる。

0.746 [キープ / マリガンチェック]

 これを逆数にすると、1.34 [マリガンチェック / キープ] となるため、想定ゲーム数の27[キープ] を掛ければ、27回のキープまでに発生するマリガンチェック回数を求められる。

1.34 [マリガンチェック / キープ] * 27[キープ]
= 36.2 [マリガンチェック]

 また、「連続タップインとなる確率」は 0.032 [マリガン / マリガンチェック] だったので、求めたマリガンチェック回数を掛けると、この場合のマリガン回数を求められる。

0.032 [マリガン / マリガンチェック] * 36.2 [マリガンチェック]
= 1.17 [マリガン]

 なお、土地枚数が2~4枚ではない場合のマリガン回数は以下となる。

36.2 - 27 - 1.17 = 8.02 [マリガン]

 ここまでの手順は以下の通りである。

  1. キープ確率の逆数を求める。

  2. 想定ゲーム数(キープ回数)を掛けてマリガンチェック回数を求める。

  3. 連続タップイン確率にマリガンチェック回数を掛けて、
    連続タップイン理由のマリガン回数を求める。

  4. 残りの、土地が2~4枚ではないことが理由のマリガン回数を求める。

 これを確率表に反映させると以下になる。

想定ゲーム数に対する、確定タップイン土地の採用枚数毎のマリガン回数

 上表から、25枚の土地を採用した60枚デッキで、27回のマリガンチェック(9マッチの場合の最大回数)を想定した時の、確定タップイン土地の枚数毎の連続タップイン理由のマリガン回数を確認できる。

 確定タップイン土地の枚数をNとすると、N=8でマリガンが1回を超え、N=10で2回を超える。個人個人でマリガンの許容回数は異なると思うが、イベント完走までに2回以上の連続タップイン理由のマリガンがあるのはマナベース構築の失敗を疑うべきではないかと筆者は考える。

 また、連続タップイン理由のマリガンが増えるとキープ確率が下がるため、土地枚数理由のマリガンが増える点も考慮すべき点である。

 今回の例;25の土地を採用した60枚デッキで9マッチ最大27ゲームを戦う想定の場合だと、2ターン連続タップイン理由のマリガンを減らすために確定タップイン土地はできれば7枚以下、多くとも9枚以下にすべきであろう、という風にここまでの結果から考えられる。この考え方は土地の枚数を変更した際にも同様である。

2-4. 後手の場合の《見捨てられた交差路》の考慮

 前節で確定タップイン土地の適正枚数を概算したが、アルケミー環境には後手の場合はアンタップイン可能な《見捨てられた交差路》が存在する。これを採用する場合は先手と後手を考慮する必要がある。

《見捨てられた交差路》

 これについては前節の導出を流用できる。例えば9マッチ27ゲームを戦う場合、先手・後手の確率はそれぞれ5割と考えられるので、半分の「13.5回」の場合でキープ回数を計算すれば良い。前節の27掛け箇所を「13.5」に置き換えるだけである。

先手・後手を考慮した場合のマリガン回数

 例えば、スローランドを5枚、《見捨てられた交差路》を3枚採用しているマナベースの場合、先手13.5回のキープ中に連続タップイン理由でマリガンする回数は、確定タップイン土地の枚数が「8」の列を参照して「0.58」。
一方で後手13.5回の場合は、確定タップイン土地の枚数が「5」の列を参照して「0.17」。これらを合算すると、27回のキープ中に連続タップインが理由でマリガンする回数は実際の値で「0.76」となる。

 この時、タップイン土地枚数毎のマリガン回数を縦横に並べた加算表は以下のようになる。「スローランド5 + 交差路3」の場合はタップイン土地枚数が(8, 5)の箇所を確認すれば良い。該当箇所の周辺を見ると、連続タップイン理由のマリガン回数を1回以下に抑えたい場合、あと1・2枚はマナベースに余裕があることが分かる。

先手・後手を考慮した際のマリガン回数を縦列に並べた加算表

 このように、想定ゲーム数の半分の場合でマリガン回数を計算し、先手・後手それぞれのマリガン回数の合計が許容値以下になるように、確定タップイン土地と《見捨てられた交差路》の枚数の組み合わせを検討すれば良い。

2-5. 作成された確率表について

 ここまでの作業で、以下のような確率表を作成することができた。

連続タップインについての確率表

 この確率表の入力変数は、赤枠で囲った「デッキの枚数」「土地の枚数」「ゲーム数」の3つのみである。必要に応じてこれらの値を変更することで、連続タップインしにくいマナベースを計算することができる。

 なお、「土地の枚数」を変数としているのは、アルケミーフォーマットには特定のカードタイプの枚数を参照するカードが存在するためである。場合によってはデッキの枚数を61枚以上にすることもあり得るだろう。

《審問官の隊長》、《激情の霊潰し》

3. 実際のデッキリストに対する評価例

 得られた確率表を使用して、実際のデッキリストに対しての評価を試す。

 以下は、MTG Arena Zoneに公開されている、1月9日時点でミシック349位のジェスカイアグロデッキである。

https://mtgazone.com/deck/alchemy-jeskai-aggro-by-micronaut25-349-mythic-january-2022-ranked-season/

 2ターン目に赤、3ターン目に白白と青が必要なデッキで、7枚のスローランドと4枚の《見捨てられた交差路》、加えて4枚の《玻璃池のミミック》を採用したマナベースになっている。

 《玻璃池のミミック》も土地として数えると合計土地枚数は27枚で、27ゲーム戦う場合の確率表は以下になる。

土地27枚の60枚デッキで27ゲーム戦う場合の連続タップイン確率表

 先手の場合に2ターン目までタップインとなる土地は15枚で、この時の連続タップイン確率は「13.2%」。後手の場合は11枚で、連続タップイン確率は「5.6%」。マリガン回数の加算表の(15, 11)の箇所を確認してみると「3.83」となっている。つまり、このデッキで27ゲーム戦おうとすると、4回弱は連続タップインが理由でマリガンしなければならないということである。アグロデッキである分、タップインの影響も大きいはずで、このマナベースには問題があると筆者は考える。

 改善策としては以下のようなことが挙げられる。

  • 青マナ要求を減らすことで青白スローランドを0枚にする。

    • 《スレイベンの守護者、サリア》のせいで打ち消しは構えづらい。
      マナベース負担減のためにも打ち消しは採用しないようにする。

    • 《玻璃池のミミック》は《審問官の隊長》からのめくれを意識した採用で、3ターン目に出すことはほぼ無い。

 仮に上記のようにリストを簡易修整すると以下のようになる。

マナベース負担軽減案

 この時、先手の場合に2ターン目までタップインとなる土地は12枚で、連続タップインの確率は「7.1%」。後手の場合は8枚で、連続タップインの確率は「2.4%」。マリガン回数の加算表の(12, 8)の箇所を確認してみると「1.80」となっている。27ゲームを想定した場合、元のマナベースに比べて連続タップイン理由のマリガン回数を2回程度減らせる構成になっている。

 このように、マナベースに負担が生じていないか検討する材料として、今回作成した確率表を活用することができる。

4. おわりに

 今回、主にVOW環境のアルケミーフォーマットで活用可能な、連続タップインを防ぐマナベース構築のための確率計算の手順をまとめ、実際のデッキリストについてその方法でマナベースの評価を試した。これにより、マナベースに負担が生じているか確認することができた。

 今回の計算はあくまで連続タップインを防ぐことを主目的としており、色マナが出るかという確認は行っていない。ただし、色マナについても基本的には組み合わせの計算で確率を求めることが可能で、例えば先手3ターン目ならば、9枚引いた中に目的の土地が存在する確率を求めれば良い。

 今後のメタゲームやカードの調整次第では連続タップインが許容される環境にもなり得るし、新弾で強い土地が収録されることもあり得る。その際にはこの記事の内容は半分ぐらいは無駄になると思うが、その時はその時でまた必要な計算をしていきたいと思う。

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