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LOG ENTRY: SOL 17

 今日は8:30から、福利厚生のオリエンテーションがある。2週間に1度開催されているそうだ。通年で新入社員がやってくるので、通年で開催しているのだろう。2週間前は、早速プロジェクトのミーティングがかぶったので、今日来ることにしていた。珍しく霧雨が降っていた(本当に珍しいのか?)ので、ストラクチャーに車を停める。

 健康保険、生命保険、年金(退職金)制度、医療貯蓄口座。。。その他いろいろなサービスの割引など、1時間半かけてひとつひとつ説明してくれたが、正直よくわからない。。僕はアメリカでも日本でもろくに社会人経験がないので、このあたりの知識が欠落しているし、健康保険も生命保険も年金も選択肢がありすぎて、どれを選んでいいか見当もつかないのだ。まぁどれを選んでもひどいことにはならないようになっているのだろうけど。。しかも、就職後31日以内に登録しなければならないという。。教えて、グーグル先生。。

 僕のハーフタイムは火星ローバーのシステム設計で埋まったことは以前書いたが(SOL 3参照)、もう半分のハーフタイムも決まりそうだ。最悪何も仕事がなくても、新入社員は最初の数ヶ月間、人事部が用意してくれているHRDFという名のお金で食いつなぎながら、事前研究をしたり、JPL内で営業をかけたりできるような設計になっていて、ちょっとした失業保険にも使えるわけだ。初日のオリエンテーションでは教えてくれなかったけど怒。

 というわけでこの2週間くらいは、50%は火星ローバー、50%は人事部のお金を使っていたわけだが、ありがたいことに、2つのプロジェクトから声が掛かった。ひとつは、来年打ち上げ予定のとあるミッションの故障保護の最終チェック。僕のシステム安全やハザード解析の研究歴を買ってくれたのだろう。この話を持ちかけてきたのは、同じセクションの別グループのスーパーバイザーN.D.だ。N.D.曰く、ハーフタイムで4〜6週間でやってほしいとのこと。かなり短い期間だ。ミッションのスケジュールがタイトに決まっているからだろう。しかしこれだけ短い時間で、全く知らなかったミッションをゼロから勉強し、システムの故障保護解析ができるのだろうか。正直自信はない。。

来年打ち上げ予定のとあるミッションのモックアップが展示されていたのでパシャ。珍しい形の衛星だな。地球の重力の微小な変化を測定して、水の活動分布を追跡するのだそうだ。

 もうひとつは、2020年打ち上げ予定のMars 2020の着陸候補地の分析。こちらは、25%を僕と同僚のA.N.の間で割り降るという話になっているが、A.N.が他のプロジェクトで忙しく、例えば僕に20%、A.N.に5%のように、僕重めで、という話になっている。こちらは、最初に決まった火星ローバーの話ともつながるし、ぜひとも関わっておきたいプロジェクト。

 しかし、これはどうしたものか。Mars 2020のプロジェクトに20%の時間を割くとしても、50%+50%+20%=120%になってしまう。ところが120%働くからといって、給料は2割増しにはならない。うまく調整して合計が100%になるようにする必要があるわけだ。これは上司J.H.に相談に行くしかない。

 J.H.にこの事情を全て話すと、彼はホワイトボードにそれを書き留めて、少し考えてこう言った。「Juggle around.」。つまり、ジャグリングのごとく「3つとも何とか帳尻を合わせてうまいことやれ」ということだ。君はまだ新人だからコネを作ったり評判を稼いでおいた方がいい、安全解析のプロジェクトは短期間だ、まだ家族が来てないんだったら多少の無理(残業)は利くだろう、Mars 2020は主要なプロジェクトだからそれに関われることは良いことだ、火星プログラムの誰々には私から言っておく、どれに何%の時間を割くかなんて誰も気にしちゃいない、成果が出せればそれで良いんだ、などなど。あぁ、そういうからくりか。うん、なんとなくわかってきたぞ。

"ジャグラー王"に おれはなる!!!!

 その後は、ベンチャーキャピタルが「なぜ今、技術系VCは宇宙に群がるのか」という講演をするというので行ってきた。起業にも興味がある身としては、投資家たちのお金がどのような考えに基づいて宇宙系スタートアップに流れるのか知っておきたかったからだ。宇宙業界はアメリカを先頭に民間企業の時代がやってきている。今はまだロケット打ち上げや地球周回衛星などの段階ではあるが、彼らのスピード感は目を見張るものがある。マーケットが十分見込め、ビジネスになり得るものなら、もはや民間でやる方がフロンティアに立てるだろう。

 最後に、セクションの「All Hands Meeting」なるものに参加。All Hands Meetingとは、全社会議とでも訳すのだろうか。この場合は、セクションの全員(約130人)が対象だ。何の会議か分からないが、全員集合と言われているので行くしかない。行ってみると、広いホールにまばらに7、80人くらい集まっていただろうか。セクションマネジャーがステージに立って、なにやら大画面にスライドを映し出している。ゆるい会議なのかな。

 いきなり給料の昇給幅の話から始まった。なるほど、そういう会か。確かに、アメリカの会計年度末は9月だ。10月から新しい年度が始まり、皆の給料が査定に応じて数%上がるという話だ。こんなにあけっぴろげにこういう話をするものなのか。日本もそうなのかな。その後は、セクションの新入社員を写真で紹介(この1年で僕含む13人)、他部署に昇進して去っていく人の話、オフィスやパティオの模様替え案、などの話が続いた。ふーん。

夕方、セクションのとある部屋に火星儀があったので、ジャグラー見習いらしく指の上でくるくる回してパシャ。SNSのプロフィール写真でも更新するか。ちなみにこれは火星の各地点の標高を色で表したもので、可視光では全くカラフルではありません。


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