きょうの素問 診要經終論篇 第十六(2) 2023/11/9

診要經終論篇の2回目です。
今回は、四時(季節)に応じない刺入深度で施術してしまった時の誤治について主に論じている部分を読んでいきます。
まず、前回論じられた四季に応じた刺入深度(部位)についての確認です。

春:散兪(経脈の兪)と分里(分肉の腠理)を刺す
夏:絡兪を刺す
秋:皮膚や循理(肌肉の分理)を刺す
冬:兪竅を分理に刺す

これを仮に浅いところから深いところまで並べ変えてみます。

秋(金・肺):皮膚や循理(肌肉の分理)を刺す
夏(火・心):絡兪を刺す
春(木・肝):散兪(経脈の兪)と分里(分肉の腠理)を刺す
冬(水・腎):兪竅を分理に刺す

このように見てみると、ちょうど背部兪穴の上から下への並びにも通じと言えるかもしれません。
では、本文を読んでいきましょう。

夏刺春分 病不愈 令人解墯
夏刺秋分 病不愈 令人心中欲無言 惕惕如人將捕之
夏刺冬分 病不愈 令人少氣 時欲怒
(夏に春分を刺せば、病愈えず。人をして解墯せしむ。
夏に秋分を刺せば、病愈えず。人をして心中、無言なることを欲し、惕惕として人の將にこれを捕えんとするが如くせしむ。
夏に冬分を刺せば、病愈えず。人をして少氣ならしめ、時に怒ることを欲せしむ。)

※ 解墯
「解」は「懈」とし、つかれるの意。だるく、無力な状態。

※ 心中欲無言
呉崑の解説。「肺は声を主る。秋分を刺して肺を損傷したため、無言となりやすい。」

※ 惕惕
「惕」はおそれる、うれう。
『周易』の乾為天九三の爻辞には「君子終日乾乾 夕惕若 厲无咎」とあり、「ゆうべにまた反省して、おそれ慎むことを忘れなければ」と訳されている。

※ 令人少氣 時欲怒
張景岳の解説。「夏にその腎を傷れば、精は虚して気を化することができなくなって、人を少気にさせる。水を欠くと木は滋養されることなく、そのために肝(木)気は益ます強くなり、怒りたくなるのである。」

 
秋刺春分 病不已 令人惕然欲有所為 起而忘之
秋刺夏分 病不已 令人益嗜臥 又且善㝱
秋刺冬分 病不已 令人洒洒時寒
(秋に春分を刺せば、病已えず。人をして惕然としてなす所あることを欲するも、起てばこれを忘れしむ。
秋に夏分を刺せば、病已えず。人をして益ます臥するを嗜み、又且つ善く㝱みせしむ。
秋に冬分を刺せば、病已えず。人をして洒洒として時に寒せしむ。)

※ 㝱
「夢」におなじ。

※ 洒洒(ソンソン)
寒さにおののくさま。
ちなみに、私は「ソンソン」といえばこれを思い出します。
懐かしい。



 冬刺春分 病不已 令人欲臥不能眠 眠而有見
冬刺夏分 病不愈 氣上 發為諸痺
冬刺秋分 病不已 令人善渴
(冬に春分を刺せば病已えず。人をして臥するを欲するも眠ること能わず、眠れば見ることあらしむ。
冬に夏分を刺せば、病愈えず。氣上り、發して諸痺となる。
冬に秋分を刺せば、病已えず。人をして善く渴せしむ。)

※ 眠而有見
張景岳の解説。「肝は魂を蔵する。肝気が傷られると、神魂が散乱する。そこで、横になって眠りたいのに眠ることはできず、あるいは眠っても何かを見てしまう。奇怪なものを見るということである。」

 
凡刺胸腹者 必避五藏
中心者 環死
中脾者 五日死
中腎者 七日死
中肺者 五日死
中鬲者 皆為傷中 其病雖愈 不過一歲必死
刺避五藏者 知逆從也
所謂從者 鬲與脾腎之處 不知者反之
刺胸腹者 必以布憿著之 乃從單布上刺 刺之不愈 復刺
刺鍼必肅 刺腫搖鍼 經刺勿搖 此刺之道也
(凡そ胸腹を刺す者は、必ず五藏を避く。
心に中る者は、環りて死す。
脾に中る者は、五日にして死す。
腎に中る者は、七日にして死す。
肺に中る者は、五日にして死す。
鬲に中る者は、皆傷中となす。
其の病愈ゆると雖も、一歲を過ぎずして必ず死す。
刺すに五藏を避くる者は、逆從を知るなり。
いわゆる從なる者は、鬲と脾・腎の處なり。
知らざる者は之に反す。
胸腹を刺す者は、必ず布憿を以て之に著し、
乃ち單布の上より刺す。之を刺して愈えざれば復た刺す。
鍼を刺すに必ず肅す。腫を刺すに鍼を搖がす。
經刺には搖がすこと勿れ。此れ刺の道なり。)

※ 中心者 環死
呉崑の解説。「心は天君の官であり、損傷できない。刺す者が誤ってその心にあててしまうと、経気は身体を一周行ってその人は死ぬ。人は一昼夜の中に営衛の気が身体を五十周し、一日を百刻として計算すると、約二刻で経気は一周循環することとなる。」
張景岳の解説。「刺禁論篇が説く五蔵の死期はとりわけ詳細であるが、本節とは多少異なる。この節には四蔵についての説明だけで、肝に及んでおらず、必ずや脱簡があろう。」

※ 布憿
「憿」は「巾に激の右側」であり、布のこと。ここでは「巻き付ける」の意。

※ 刺鍼必肅
「肅」は筆を手に持って淵にのほとりに立ち、身の引き締まるさまを示す。
鍼を刺すときは、そのように安静、厳粛な気持ちで行うべきことを説いている。

※ 搖鍼
張景岳の解説。「揺らしてその竅を大きくし、瀉を速くする。」
鍼孔を拡大して、内部の邪気を外に出す手法。

今回はここまでになります。
次回、この続きで、十二の経脈の気が尽き果てた際の病態について見ていきます。
最後までお読み頂きありがとうございました。







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