きょうの素問 骨空論篇(3) 2023/1/19
骨空論の3回目。
今回は10個の症状と、それに対する施術部位がテンポよく出てきます。
どちらかというと臨床メモのようだ、という声もあり、なるほどと思いました。
それでは見ていきましょう!
其上氣有音者 治其喉中央在缺盆中者 其病上衝喉者治其漸 漸者上俠頤也
(其の上氣して音ある者は、其の喉の中央、缺盆中に在る者を治す。其の病、上りて喉を衝く者は、其の漸を治す。漸なる者は上りて頤を俠むなり。)
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左右の缺盆穴の間にあり、咽の中央ということで、天突穴とされています。前正中線上、頸窩(胸骨上窩)の中央にとります。
王冰注
中とは缺盆両間の中、天突の穴を謂う。頸の結喉の下、同身寸の四寸、中央宛宛たる中に在り。陰維と任脈との会なり。
「漸」は、王冰の注によると「大迎」とのことです。
王冰注
陽明の脈は、高く頤に上って唇をめぐる。そこで頤を侠んでいることから名付けて漸(高い)というのであり、ここでは大迎穴をいう。
大迎は足陽明胃経に所属し、咬筋前縁、顔面動脈拍動部にとります。
ところで、易経の観点から見ると、「風山漸」という卦があります。
☴ 漸 女歸吉 利貞
☶ 山上有木 漸 君子以居賢德 善俗
山の上にそびえる大木を「見上げる、仰ぎ見る」という意味がありますが、人体に当てはめるとどこになるでしょうか。
実は「頤」も、易経では「山雷頤」という卦があります。
☶ 頤 貞吉 觀頤 自求口實
☳ 山下有雷 頤 君子以慎言語 節飲食
艮の山(☶)は「止まる」の意味が強いので、上顎骨とし、
震の雷(☳)は「動く」の意味が強いので、下顎骨として見立てられています。
そうすると、「風山漸」は上顎より上を意図しているようにも思えます。
例えば、3爻~5爻にかけては「離 ☲」の卦になりますが、これは「目」を意味したりもします。そのように考えますと、大迎はちょっと合わないようにも感じます。
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蹇膝伸不屈治其楗
(蹇膝にして伸びて屈せざるは、其の楗を治す)
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さらに追い打ちをかけるように、「蹇(ケン)」が出てきます。
易経では、「水山蹇」として有名です。
☵ 蹇 利西南 不利東北 利見大人 貞吉
☶ 山上有水 蹇 君子以反身修德
蹇は説文解字でも「跛(あしなえ)のことである」とありますが、それにしても易の卦にある言葉が3つ連続で配置されているのをみると、何か意味があるのだろうかと、気になってしまいます。
ちなみに、日本史で有名な資料として『蹇々録』があります。
明治時代の外務大臣陸奥宗光が執筆した外交記録で、陸奥の晩年の1892年(明治25年)以降に執筆されましたが、外務省の機密文書を引用しているため長く非公開とされて、1929年(昭和4年)にようやく初めて公刊されました。明治外交史上の第一級史料として有名です。
それはさておき。
「楗(ケン)」は股関節周囲のことを指すようです。
張景岳の注
股骨を楗という。其の楗を治すとは、膝の輔骨の上、前陰部の横骨の下を治療することをいい、おそらく股中の足陽明髀関穴などの穴位を指す。
「楗」は、かんのき・かんぬき(門を閉ざす横木)の意味もありますので、確かに大腿骨頭が股関節にはまり、大腿骨頸部のラインをみると、かんぬきのように見えなくもない感じがします。
髀関穴は足陽明胃経上にあり、大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜張筋の近位部の間の陥凹部で、上前腸骨棘と膝蓋骨底外端を結ぶ線上で、大転子頂点の
高さに取る。(大腿直筋上)
膝関節の屈曲・伸展制限に対して大腿直筋に鍼をするのは確かにアリな気がします。
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坐而膝痛治其機
(坐して膝、痛むは、其の機を治す)
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「坐」はもちろん座るの意味ですが、2000年前にどのように座っていたのかはやはりよくわかりません。
白川先生の「字通」によれば、「坐」は土の神様を、人が向かい合って跪いて座っている様子とあります。
そのような痛みかたをする場合には「機」を用いるとのこと。
張景岳の注
臀部を侠んだ両側で、骨縫の動く所を機といい、とりもなおさず足少陽経の環跳穴である。
環跳穴は足少陽胆経上にあり、大転子頂点と仙骨裂孔を結ぶ線上、大転子頂点から1/3のところに取ります。
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立而暑解 治其骸關
(立ちて暑・解あるは其の骸關を治す)
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骸關は、王冰の注によれば、膝の関節裂隙ではないかと思われます。
王冰注
暑は熱の意味である。もし膝が痛み、立つと膝部の骨解中が熱するものは、骸關を治療する。骸關とは膝の骨解部をいう。
経穴が明示されていませんが、膝関節の関節裂隙上にあるというと、例えば犢鼻穴があります。
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膝痛痛及拇指治其膕
(膝、痛み、痛み拇指に及ぶは、其の膕を治す)
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痛みが足の母趾にまで響いている症状です。
膕(ひかかがみ)は膝窩に相当しますので、委中穴を指していると思われます。
足の母趾は、デルマトームではL4またはL5の支配領域になりますが、
委中の下を通る脛骨神経はL4~S3の神経根で構成されていますので、ある程度の対応関係はありそうです。
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坐而膝痛如物隱者治其關
(坐して膝、痛むこと物の隱るる如き者は、其の關を治す)
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馬蒔の注
膝の中でものが内部に隠れているように感ぜられる場合は、その関を治療すべきである。これは承扶穴のことではないかと思われる。
内部の痛みという事なので、深部感覚が伝える痛みのようです。
承扶穴は殿溝の中央にとりますが、深部に坐骨神経が走行していますので、ここもある程度の関連性がありそうです。
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膝痛不可屈伸治其背內
(膝、痛みて屈伸すべからざるは、其の背の內を治す)
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痛みによる膝の障害に対して、背中に施術するとあります。
呉崑の注
太陽経の気穴である背兪のたぐいをいう。
王冰の注
背内とは大杼の穴を謂うなり。所在、刺灸、分壮、
気穴と法を同じくす。
呉崑は背部の兪穴と、広くとっていますが、王冰は大杼と明言しています。
大杼穴は足の太陽膀胱経上にあり、第1胸椎棘突起下縁の高さ、後正中線の外方1寸5分にとります。
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連䯒若折治陽明中兪髎 若別治巨陽少陰滎
(䯒に連なりて折るるが若きは、陽明中の兪髎を治し、 若し別なれば、巨陽・少陰の滎を治す)
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「䯒(コウ)」は脛骨の上部。
大腿四頭筋が停止する脛骨粗面のあたりでしょうか。
兪髎は馬蒔によれば「足三里」を指すとのこと。
馬蒔注
䯒に連なり骨痛みて折るるが如き者は則ち足の陽明胃経の兪髎を治すのみ。蓋し三里の穴を指すなり。
巨陽・少陰の滎については、巨陽=足陽明膀胱経で、五兪穴(井・栄・兪・経・合)の考えから、足通谷穴と、然谷穴を指すと思われます。
(足)通谷は足太陽膀胱経の滎水穴で、第5中足指節関節の遠位外側陥凹部、赤白肉際にとります。
然谷は足少陰腎経の滎火穴で、足内側、舟状骨粗面の下方、赤白肉際にとります。
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淫濼脛痠不能久立 治少陽之維 在外上五寸
(淫濼して脛、痠み、久立すること能わざるは、少陽の維を治す。外、上五寸に在り)
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「維」とは「絡」のことで、足少陽胆経の絡穴である光明穴のことと思われる。
光明穴は、外果尖の上方5寸、腓骨の前縁にとります。
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輔骨上橫骨下為楗 俠髖為機 膝解為骸關
(輔骨の上、橫骨の下を楗となす。髖を俠むを機となす。 膝の解を骸關となす。)
俠膝之骨為連骸 骸下為輔
(膝の骨を俠むを連骸となす。骸の下を輔と為す)
輔上為膕 膕上為關 頭橫骨為枕
(輔の上を膕となす。膕の上を關となす。頭の橫骨を枕と為す)
ここまで出てきた部位の用語を急にまとめた感じです。
図で示すとこんな感じでしょうか。
今回は、局所的なアプローチや、経絡を考えたアプローチ、五兪穴の使用など、かなり多角的な視点がみられました。
確かに臨床メモのような内容にも思えましたが、関節痛に対するアプローチが興味深かったです。
さて、次回は急に浮腫みの話になったりしますが、とりあえず今回はここまでです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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