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きょうの霊枢 雑病篇 第二十六(2) 2023/3/30

雑病篇の2回目です。
今回も、病態とその際に選択する経絡が淡々と挙げられていきます。
経穴(ツボ)はほとんど明示されず、ついでに補瀉もわかりません。ただ経絡が提示されます。
当時はこれだけでも具体的な内容が伝わったのかもしれません。
今となっては手探りですが、想像しながら見ていきましょう。

喉痺不能言 取足陽明 能言 取手陽明
(喉痺して言うこと能わざるは、足の陽明に取り、能く言うは、手の陽明に取る)

のどが腫れて話すことができないのは、足の陽明胃経をとり、 のどが腫れているけれど話すことができるのは、手の陽明大腸経をとる。

※経絡の流注をみると、足の陽明胃経はしっかり喉を通っていますし、手の陽明大腸経も喉の外方ではありますが、横頸部を通っています。

瘧不渴 間日而作 取足陽明 渴而日作 取手陽明
(瘧して渴かず、日を間てて作(おこ)るは、足の陽明に取り、 渴きて日び作るは、手の陽明に取る)
 
瘧(マラリア様の発熱を繰り返す状態)で口が渇かず、日を開けて発作が出るのは、足の陽明胃経にとり、口が渇いて毎日発作をおこすようであれば、手の陽明大腸経にとる。

※瘧の発作が日をあけて、ということであれば、現在の熱型の考えで言うと「間欠熱」か「周期熱」になり、確かにマラリア感染が疑われそうです。
毎日発作が起きる、ということで「弛張熱」とみなすなら、化膿性の疾患や敗血症、ウィルス性の疾患まで、様々な感染症が疑われるように思います。

齒痛 不惡清飲 取足陽明 惡清飲 取手陽明
(齒痛みて、清(つめた)き飲を惡まざるむは、足の陽明に取り、清き飲を惡むは、手の陽明に取る)

歯が痛み、冷たい飲み物が平気であれば、足の陽明胃経をとり、冷たい飲み物を飲めないときは、手の陽明大腸経にとる。

※今のように冷凍庫があったり、氷が手軽に使えるわけではないと思うので、どの程度冷やされた飲み物なのかが不明です。
 
聾而不痛者,取足少陽;聾而痛者,取手陽明
(聾して痛まざる者は、足の少陽に取り、聾して痛む者は、手の陽明に取る)

耳が聞こえないが痛まないものは、足の少陽胆経をとり、耳が聞こえなくて痛むものは、手の陽明大腸経にとる。

※足の少陽胆経の流注は耳の周りを巡っているので、耳の症状との関連は高そうです。耳が聞こえなくて痛むのは中耳炎でしょうか。咽頭炎から耳管を通じて中耳に炎症が波及していると考えると、手の陽明大腸経は関連がありそうです。
 
衄而不止 衃血流 取足太陽 衃血 取手太陽
不已 刺宛骨下 不已 刺膕中出血
(衄して止まず、衃血流るるは、足の太陽に取り、衃血するは、手の太陽に取る。已えざれば、宛骨の下を刺す。 已えざれば、膕中を刺して血を出だす。)

鼻血が止まらないで、凝固した(黒色の)敗血が流れ出る場合は足の太陽膀胱経をとり、敗血が固まって滞る場合は手の太陽小腸経をとる。それでも治らないときは、腕骨穴を刺す。それでも治らないときは膝窩(委中)を刺して(瘀)血を出す。

※衃(はい)はくされち、こりち。
※「腕骨」は手の太陽小腸経の原穴。原気が多く集まるところ。
※「委中」は足の太陽膀胱経の合土穴。逆気を主治するので、敗血が詰まってなかなか治らない状態に合いそうです。


腰痛痛上寒取足太陽陽明 痛上熱取足厥陰
(腰痛み、痛みて上寒ゆるは、足の太陽・陽明に取り、 痛みて上熱するは、足の厥陰に取る)

腰痛があって、(上半身が?)冷えるのは足の太陽膀胱経、足の陽明胃経をとり、(上半身に?)熱があるのは足の厥陰肝経にとる。

※「上」の意味がやや不明ですが、張介賓は「上寒 上熱はみな上体をいう」としています。
上半身が冷えているとして、下半身の状態が気になりますが、とりあえず足から頭まで全身的に走行している、膀胱経と胃経を用いるというのは、気を巡らすうえでもなるほどと思います。
※後半の上半身の熱は肝陽上亢の類とすると、肝経を用いるのも頷けます。
 
不可以俛仰 取足少陽
(以て俛仰すべからざるは、足の少陽に取る)

(腰痛のせいで)うつむくことも、仰向くこともできない場合は、足の少陽胆経をとる。

※ 「不可以俛仰」は体位変換もままならないほど痛いわけで、ぎっくり腰のような状態かと思います。ここでは胆経をとるとしています。


中熱而喘 取足少陰膕中血絡
(中熱して喘ぐは、足の少陰と膕中の血絡とに取る)
 
内部に熱があって、ぜえぜえ喘ぐ場合は、足の少陰腎経と膝窩(委中)の絡脈中の(瘀)血を取る。

※困った時の委中の刺絡、という感じです。刺絡を「瀉血」という鍼灸師さんも多いですが、膝窩で「瀉血」だと、膝窩静脈を切開するイメージになりますので、言葉選びも慎重に行いたいものです。


喜怒而不欲食 言益小 刺足太陰 怒而多言 刺足少陽
(喜く怒りて食を欲せず、言益ます小なるは、足の太陰を刺し、怒りて多言なるは、足の少陽を刺す)

怒りっぽくて、食欲が無く、黙っていることが多いのは、足の太陰脾経に刺し、怒りっぽくてよく喋るのは足の少陽胆経を刺す。

※いわゆる木剋土で、怒りの感情は食欲に影響しますね。
 
顑痛 刺手陽明與顑之盛脈出血
(顑痛むは、手の陽明と顑の盛脈とを刺して血を出だす)

あごが痛むのは、手の陽明大腸経と、足の陽明胃経の頬車穴を刺して(瘀)血を出すのが良い。

※「顑之盛脈」の「顑」は甲乙経では「頷(あご)」としている。そこから、足の陽明胃経の頬車穴と解釈されている。(刺絡するとなると耳下腺にかからないのか気になる所です。)
 
項痛不可俛仰 刺足太陽 不可以顧 刺手太陽也
(項痛みて俛仰すべからざるは、足の太陽を刺し、以て顧るべからざるは、手の太陽を刺すなり)

うなじが痛み、うつむいたり仰向いたりできないときには、足の太陽膀胱経を刺し、頸が回らず振り向けないときは、手の太陽小腸経を刺す。

※うなじの痛みはやはり太陽膀胱経。頸回りはいくつか経絡が走行していますが、ここでは手の太陽小腸経が選択されています。流注が肩甲骨を巡っているのがポイントでしょうか。
 
小腹滿大 上走胃至心 淅淅身時寒熱 小便不利 取足厥陰
(小腹滿ち大にして、上りて胃に走り、心に至り、淅淅として身時に寒熱し、小便利せざるは足の厥陰に取る)

下腹部の脹満や膨満感が胃から心に及んで、悪寒戦慄して、小便が通じないときには足の厥陰経を取る。

※「淅淅」はテキストでは「洒淅」として解釈し、悪寒戦慄するとしています。
 
腹滿 大便不利 腹大亦上走胸嗌 喘息喝喝然 取足少陰
(腹滿ち、大便利せず、腹大にして亦た上りて胸嗌に走り、喘息して喝喝然たるは、足の少陰に取る)

腹部が膨満し、大便が通ぜず、腹の膨満感が上って胸や喉にまで及んで、喘ぎ声が漏れ出てしまう状態は、足の少陰腎経にとる。

※「喝喝」は大声で叫ぶ。ここでは喘いでいるときに漏れる声のこと。
 
腹滿食不化 腹嚮嚮然 不能大便 取足太陰
(腹滿ちて食化せず、腹、嚮嚮然として、大便すること能わざるは、足の太陰に取る)

腹部が膨満して食物が消化せず、腹が大いに鳴って、大便が通じないときは、足の太陰脾経をとる。

※「嚮然」音のひびくさま。
※消化不良には足の太陰脾経がちょうど良さそうです。

淡々と内容を見てきましたが、今回はここまでになります。
この続きは、雑病篇の3回目で扱っていきます。
最後までお読み頂きありがとうございました。




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