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きょうの素問 玉機真蔵論篇 第十九(6) 2024/1/11

早いもので、年明け2回目の投稿となりました。
今回も玉機真蔵論を読んでいきます。
さて、前回は病が五臓間を伝変するには様々なパターンがある、ということが述べられていましたが、それを受けてこの段落は、具体的な病証・病態に落とし込んで、病の伝変を確認しなおしているような感じがします。
恐らく、ある一つのパターンに着目して、その伝わり方の例を示していると思われるのですが、なぜか五臓配当については全く伏せられています。
後世の人に、これが分るかな?と挑戦を突き付けている感じもしますが、落ち着いて整理しながら読んでいきましょう。


大骨枯槁 大肉陷下 胸中氣滿 喘息不便
其氣動形
期六月死 真藏脈見 乃予之期日
(大骨、枯槁し、大肉、陷下し、胸中、氣滿ち、喘息して便ならず、其の氣、形を動かすは、六月を期して死す。 真藏の脈見わるるは、乃ちこれに期日を予う。)

※ 大骨枯槁
王冰の注。
「皮膚乾著し、骨間の肉陥るを大骨枯槁し大肉陷下すと謂うなり。諸々の骨に付くの際及び空寙(クウユ:すかすかの状態)の処も亦其の類に同じきなり。」
張景岳の注。
「肩・脊柱・腰・膝などはみな大骨である。」

「槁」は説文解字では「木の枯るるなり。」
水分を失って固くなり、色も褪せて白くなったような枯れ木のこと。

※ 大肉陷下
張景岳の注。
「尺膚・臀肉はみな大肉である。」

※ 其氣動形
「氣=邪気」とすれば、邪気の侵入によって、身体が病み、「形」が衰えて変化することを指すと思われる。
「氣=呼吸」とすれば、病によって呼吸困難になり、息をするにも、体を大きく動かして、努力呼吸が必要な状態を指すと思われる。

※ 予
もともとは右側に「象」が入る。
たのしむ、よろこぶ、あらかじめ、の意味がある。
『周易』には「雷地予」の卦があり、以下の言葉がかかっている。

豫 順以動 故天地如之 而況建侯行師乎
天地以順動 故日月不過 而四時不忒
聖人以順動 則刑罰清而民服
豫之時義大矣哉
(豫は、順もって動く。故に天地もかくのごとし。しかるを況んや侯を建て師を行るをや。
天地は順をもって動く。故に日月過たずして、四時忒(たが)わず。聖人、順をもって動けば、すなわち刑罰清くして民服す。豫の時義、大いなるかな。)

 
大骨枯槁 大肉陷下 胸中氣滿 喘息不便
内痛引肩項
期一月死 真藏見 乃予之期日
(大骨、枯槁し、大肉、陷下し、胸中、氣滿ち、喘息して便ならず、内痛みて肩・項に引くは、一月を期して死す。真藏見わるるは、乃ちこれに期日を予う。)

※ 内痛
胸中の痛み。胸の痛みが肩や項に放散する、というのは心臓疾患を疑ってしまいますね。
 
大骨枯槁 大肉陷下 胸中氣滿 喘息不便
内痛引肩項
身熱脫肉破䐃 真藏見 十月之内死
(大骨、枯槁し、大肉、陷下し、胸中、氣滿ち、喘息して便ならず、内痛みて肩・項に引き、身熱し、脫肉・破䐃し、真藏見わるるは、十月の内に死す。)

※ 脫肉破䐃(ハキン)
王冰の注。
「䐃は肉の高いところである。脾は肉を主る。だから(脾が病むと)肉は落ち尽くしたようになり、䐃は破れ損なわれたようになる。」
肘や膝、股関節など、よく動かすため筋肉が発達して隆起した部分をさして、「䐃」と言っている。
「破䐃」はそうした䐃部が痩せ衰えて、損なわれることを言っている。
ちなみに、右側の「囷」は、『説文解字』では「廩の円なるもの」とあり、円形の穀物を貯める倉を字義とする。(方形の倉が廩)。

 
大骨枯槁 大肉陷下
肩髓内消 動作益衰 真藏來見
期一歲死 見其真藏 乃予之期日
(大骨、枯槁し、大肉、陷下し、肩・髓、内に消え、動作益ます衰え、真藏來たり見わるるは、一歲を期して死す。其の真藏を見わすは、乃ちこれに期日を予う。)

※ 肩髓内消
張志聡の注。
「肩髄とは脊椎骨の骨髄で、上は脳につながっている。だから項の骨がずれたものは治すことができず、死亡する。」
テキストでは、骨髄が減少した結果、動作に障害が出る、と現代語訳している。
 
大骨枯槁 大肉陷下 胸中氣滿
腹内痛 心中不便
肩項身熱 破䐃脫肉 目匡陷 真藏見 目不見人 立死
其見人者 至其所不勝之時則死
(大骨、枯槁し、大肉、陷下し、胸中、氣滿ち、腹内痛み、心中便ならず、肩・項・身、熱し、破䐃・脫肉し、 目匡陷り、真藏見われ、目、人を見ざるは、立ちどころに死す。其の人を見る者は、其の勝たざる所の時に至りて則ち死す。)

※ 目匡陷
Hippocratic face(ヒッポクラティック フェイス)
癌末期などの瀕死状態に特徴的な顔貌。 眼が落ち込む、頬がくぼむ、無気力な表情などを呈する。


急虛身中卒至 五藏絕閉 脈道不通 氣不往來
譬於墮溺 不可為期
(急に虛し、身に中ること卒に至れば、五藏絕閉し、脈道通ぜず、氣、往來せず。墮と溺とに譬う。期をなすべからず。)
其脈絕不來 若人一息五六至 其形肉不脫 真藏雖不見
猶死也
(其の脈絕えて來たらず、若しくは人、一息に五六至るは、其の形肉脫せず。真藏見われずと雖も、猶お死すべきなり。)

※  急虛身中卒至
高士宗の注。
「急に虚すとは、正気が一時に急激に虚すことである。「身に中る」とは、外邪がにわかに身に中ることである。卒に至るとは、外邪がにわかに蔵に及ぶのである。」

※ 脈絕不來
アダムス・ストークス症候群
不整脈により心拍出量の急激な低下をきたし,それにともなう脳血流減少によりめまい,意識消失(失神),痙攣などの一過性の脳虚血症状を引きおこした病態をさす。病名は1800年代前半にAdams RとStokes Wがそれぞれ徐脈にともなう失神発作の症例を報告したことに由来しており,古くは完全房室ブロックにともなう失神や痙攣発作に対してのみ使われていた。しかし現在では,洞房ブロックなど他の徐脈性不整脈によるものに加えて,心室頻拍などの頻脈性不整脈によるもの,洞機能不全症候群(sick sinus syndrome)など徐脈・頻脈混合型不整脈による場合も含めている。(日本救急医学会)

※ 譬於墮溺
王冰の注。
「堕墜と没溺とに譬えること。ともに突然のことで、死期を予測できない。」

※ 人一息五六至
『新校正』では「人は一息(一呼吸)する間に脈の拍動5,6回で、どうして死ぬことがあろうか。息の字は必ず誤りである。息を呼とすれば通じる。」
このあたりは、『難経』の十四難に整理されています。

至之脈 一呼再至曰平 三至曰離經 四至曰奪精
五至曰死 六至曰命絕 此死之脈
何謂損 一呼一至曰離經 二呼一至曰奪精 三呼一至曰死
四呼一至曰命絕 此謂損之脈也

確かに、息を呼とすれば内容的にも合致します。


さて、繰り返しの部分と、死ぬ時期について整理してみます。
まず繰り返し出てくる部分です。

大骨枯槁 (a) 「腎」の病態?
大肉陷下 (b) 「脾」の病態?
胸中氣滿 (c) 「心」の病態?
喘息不便 (d) 「肺」の病態?

これらが、実際どのように伝わっていくと想定するかは、母子関係、相剋・相侮の関係など、いろいろと言えるところだと思います。

死ぬ時期については、一月、六月、十月、一年、たちどころに死すの5パターンに分けられていますので、時系列に並べ替えてみますと、以下のようになります。

期一月死 a ~ d+内痛引肩項
期六月死 a ~ d+其氣動形
期十月死 a ~ d+内痛引肩項+身熱+脫肉破䐃
期一歲死 a ~ b+肩髓内消+動作益衰
立死   a ~ c+腹内痛+心中不便+(肩項)身熱+破䐃脫肉+目匡陷

このように整理してみると、病が五臓の間を伝わっていく中で、様々な病態を示しながら悪化していく様子が記述されています。当時なりに、臨床での観察記録をまとめて整理していることが伝わってきて大変興味深いです。

さて、このように病状が悪化したときに、脈がどのようになるのか、というのがこの続きになりますが、それは次回に読んでいきたいと思います。
今回はここまでになりますが、最後までお読み頂きありがとうございました。





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