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きょうの霊枢 雑病篇 第二十六(1) 2023/3/23

今回から雑病篇にはいります。
雑病といえば「傷寒雑病論」が頭に浮かびますが、そこまで内容が雑多であるかというとそうでもなく、基本的には経脈と経脈病証に沿った内容になっているように思います。テキストでは弁証論治に当てはめて解釈していますが、どんな感じか実際にみていきましょう。


厥挾脊而痛者至頂 頭沈沈然 目𥆨𥆨然 腰脊強
取足太陽膕中血絡
(厥して脊を挾みて痛む者、頂に至り、頭沈沈然とし、
目𥆨𥆨(こうこう)然として、腰脊強きは、足の太陽を膕中の
血絡に取る。)

「厥」は今までにも何度も出てきましたが、流れが止まって虛したり逆流したり、おかしくなったりするとして、厥陰、痿厥、厥狂、厥逆などといった形でよく用いられます。

『素問』 五藏生成
臥出而風吹之 血凝於膚者為痺
凝於脈者為泣 凝於足者為
 
『素問』 厥論
太陽逆 僵仆嘔血善衂 治主病者 

原文では「厥挾脊」とあるところを、テキストの現代語訳は「経脈の気が厥逆し、」と丁寧に訳しています。

頭、目、腰背の症状を膕(ひかがみ、膝窩)でとるとしていますが、足太陽膀胱経の流注を考えると自然な感じがします。
ちなみに、『霊枢』経脈篇での、足太陽膀胱経の是動病を挙げておきます。

是動則病沖頭痛 目似脫 項如拔 脊痛 腰似折
髀不可以曲 膕如結 踹如裂 是為踝厥
(気が上衝して頭痛し、眼球は脱けるように痛み、項部は抜けるように痛む。脊背は疼痛して、腰は折れるように痛み、大腿は屈伸ができなくなり、膝窩部は緊縛されたようで、ふくらはぎは裂けるように疼痛する。これを踝厥病という)

次は足の陽明胃経の厥逆。

厥胸滿面腫 唇漯漯然 暴言難 甚則不能言 取足陽明
(厥して胸滿ち、面腫れ、唇漯漯(とうとう)然として、暴かに言うこと難く、甚だしければ則ち言うこと能わざるは、足の陽明に取る。)

以下は『霊枢』経脈篇での、足陽明胃経の是動病。

是動則病洒洒振寒 善呻 數欠 顏黑 病至則惡人與火
聞木聲則惕然而惊 心欲動 獨閉戶塞牖而處
甚則欲上高而歌 棄衣而走 賁嚮腹脹 是為骭厥
(悪寒戦慄し、よく呻吟し、しばしば欠伸し、額が黒くなり、病気が重くなれば人と火に会うことを嫌がり、木の響きを聞くと恐れて、心が動揺して不安定となり、門を閉じて窓を閉め、室内で一人でいることを望む。甚だしくなると高いところに登って歌を唄い、衣服を脱ぎ捨てて走ろうとし、かつ腸が鳴り、腹が張る。これを骭厥という。)

おなじみの「狂」の症状が挙げられていますが、雑病篇の病症とはあまり合わない感じです。
それよりも、雑病篇の方は言語障害が出てしまっているのでちょっと心配な病態です。
 
さて次は足の少陰腎経の厥逆。

厥氣走喉而不能言 手足清 大便不利 取足少陰
(厥して氣喉に走りて言うこと能わず、手足清え、大便利せざるは、足の少陰に取る。)

喉がつかえて言葉が出ない、手足が冷える、便秘、というのはありそうな病態ですね。
 以下は『霊枢』経脈篇での、足少陰腎経の是動病。

是動則病飢不欲食 面如漆柴 咳唾則有血 喝喝而喘
坐而欲起 目𥆨𥆨如無所見 心如懸若飢狀
氣不足則善恐 心惕惕如人將捕之 是為骨厥
(飢えているのに食欲がなく、顔色が黒くて光沢がなく、咳唾すると血が混じり、ぜいぜいとした呼吸となり、座っていて急に立とうとすると、目に見えるものが曖昧模糊としてはっきりしなくなり、心に気がかりがあって飢えているように見える。気が不足すると恐懼し、心中びくびくして人が彼を捕捉しようとしているかのようになる。これを骨厥という。)

雑病篇の冒頭にあった「目𥆨𥆨」がここでも出てきていますね。
とはいえ、ちょっと病態は一致していない感じがします。

次は足の太陰脾経の厥逆。

厥而腹嚮嚮然 多寒氣 腹中穀穀 便溲難 取足太陰
(厥して腹嚮嚮(きょうきょう)然として、寒氣多く、腹中穀穀(こくこく)として、便溲難きは、足の太陰に取る。)

腹が膨張して鼓音がし、寒邪が入り込んで、お腹の中で水が流れるような音がして、2便が通じない時は、足の太陰脾経の経穴を用いる、としています。
 以下は『霊枢』経脈篇での、足太陰脾経の是動病。

是動則病舌本強 食則嘔 胃脘痛 腹脹 善噫 得後與氣
則快然如衰 身體皆重
(舌根の運動が柔軟でなくなり、食後すぐに嘔吐し、胃部が痛み、腹が張り、しばしば噫気し、大便あるいは放屁をした後は病が治った時のように身軽に感じられる。また全身が重苦しく感じられる。)

腹部症状としてはある程度一致がみられますね。

さて、今回の範囲の以下の2文は錯簡ではないかと言われています。
 ① の文は、先ほど見た「・・・取足少陰」の続きではないかと言われています。確かに同じ足少陰の病態を述べていますね。

① 嗌乾 口中熱如膠 取足少陰
(嗌乾き、口中熱して膠の如きは、足の少陰に取る。)

ちなみに、 『霊枢』経脈篇での、足少陰腎経の所生病との一致が見られます。
是主腎所生病者 口熱 舌乾 咽腫 上氣 嗌乾及痛 煩心
心痛 黃疸 腸澼 脊股內後廉痛 痿厥 嗜臥 足下熱而痛
(口が熱し、舌が乾き、咽部が腫れ、気が上逆して喉が乾いて痛む。心中が煩悶して痛み、黄疸し、下痢し、脊背や大腿の内側の後縁が痛み、足が萎えて厥冷し、よく眠りたがり、足心が熱して痛む。)

②の文はこの篇の最後の方にある、足陽明胃経の病症について再度述べているところ、「腹痛 刺臍左右動脈 已刺按之 立已」の次にあった文ではないかと言われています。

② 膝中痛 取犢鼻 以員利鍼 發而間之
鍼大如氂 刺膝無疑
(膝中痛むは、犢鼻に取り、員利鍼を以てし、發してこれに間つ。鍼の大きさ氂の如く、膝を刺して疑うこと無かれ。)
 
「刺膝無疑」で「疑いも無く最も適切な方法」と力強く強調していますが、
「員利鍼」は『霊枢』九鍼十二原で提示される9種類の鍼のうちの一つです。

九鍼之名 各不同形
一曰鑱鍼 長一寸六分
二曰員鍼 長一寸六分
三曰鍉鍼 長三寸半
四曰鋒鍼 長一寸六分
五曰鈹鍼 長四寸 廣二分半
六曰員利鍼 長一寸六分
七曰毫鍼 長三寸六分
八曰長鍼 長七寸
九曰大鍼 長四寸
 
員利鍼者 大如釐 且員且銳 中身微大 以取暴氣
(員利鍼なる者は、大なること釐(牛または馬の尻尾の毛)の如し。 且つ員、且つ銳、中身は微かに大にして、以て暴氣を取る)

員利鍼の用法については以下のような記述があります。

『霊枢』 厥病
足髀不可舉 側而取之 在樞合中 以員利鍼 大鍼不可刺
(足の太ももが挙げられなくなったら、患者を横向きに寝させて、脾樞の環跳穴を取る。員利鍼を用いて刺し、大鍼を用いてはいけない。)
 
『霊枢』 刺節真邪
刺癰者 用鈹鍼
刺大者 用鋒鍼
刺小者 用員利鍼
刺熱者 用纔鍼
刺寒者 用毫鍼也

員利鍼

現在の員利鍼はこんな形とされていますが、当時は実際どんな形だったのでしょうね。

さて、雑病篇の1回目はここまでとなります。
今回も最後までお読み頂きありがとうございました。


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