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きょうの素問 診要經終論篇 第十六(3) 2023/11/16

診要經終論の3回目です。
今回は急に話が変わって、「十二経脈を流れる脈気が尽きたらどうなるか」の話です。今までの話の流れはどこへ行った。(笑)
では、気を取り直してみていきましょう。
今回は様々な病態を表す表現が出てきますが、『素問』や『霊枢』などの他の篇でどのように取り上げられているかを主に見ていきます。

帝曰 願聞十二經脈之終 奈何
(帝曰く、願わくは十二經脈の終わるやいかなるかを聞かん。)

※ 終
『説文解字』では「きゅうしなり」とあり、糸を締める、末端を結んで終結するの意。一方で十二経は全体として繋がっていて、「端の無き環の如し」と何度も述べられているので、「終わる」だと辻褄が合わない。
柴崎先生は、「終」を糸を巻いた球とし、そこから貯える意味が内包されているので、貯えが無くなる、尽きる、の意で読むことを提案している。

 
歧伯曰 太陽之脈 其終也戴眼反折瘈瘲 其色白
絕汗乃出 出則死矣
(歧伯曰く、太陽の脈、其の終わるや、戴眼にして反折、瘈瘲し、其の色、白、絕汗乃ち出づ。出づれば則ち死す。)

※ 戴眼
張景岳の解説。「戴とは、上に戴せること。瞳が仰視したまま動かないこと。」
王冰の解説。「戴眼とは、睛転せずして仰視するを謂う。然して足の太陽の脈は目の内眥より起り、額に上り巓上に交わり、巓より入りて脳を絡う。還って出で分かれて項に下り肩膊の内に循い脊を挟み腰中に抵る。」
 
『素問』三部九候論
足太陽氣絕者 其足不可屈伸 死必戴眼

『霊枢』終始
太陽之脈其終也 戴眼 反折 瘈瘲 其色白 絕皮乃絕汗
絕汗則終矣

※ 反折瘈瘲
馬蒔の解説。「手足、身体がそりかえることをいう。」

『素問』骨空論
督脈為病 脊強反折
『霊枢』経筋
足太陽之筋・・・脊反折
『霊枢』熱病
風痙身反折 先取足太陽及膕中及血絡出血 中有寒
取三里
『金匱要略』雜療方
救卒死而張口反折者方
灸手足兩爪後十四壯了 飲以五毒諸膏散

『霊枢』邪氣藏府病形
心脈急甚者為瘈瘲
『霊枢』熱病
腰折 瘈瘲 齒噤齘也 凡此九者 不可刺也
『傷寒論』辨太陽病脈證并治法上
風溫為病・・・微發黃色 劇則如驚癇 時瘈瘲

※ 絕汗
王冰の解説。「汗がにわかに出て、しかも流れず、たちまち乾くものをいう。」

『霊枢』経脈
六陽氣絕 則陰與陽相離 離則腠理發泄 絕汗乃出
故旦占夕死 夕占旦死

『難経』二十四難
陽氣俱絕者 則陰與陽相離 陰陽相離 則腠理泄
絕汗乃出
大如貫珠 轉出不流 即氣先死


少陽終者 耳聾百節皆縱 目𦊷絕系 絕系一日半死
其死也 色先青白 乃死矣
(少陽の終わりなる者は、耳聾し、百節皆縱み、目、𦊷して絕系す。絕系すれば一日半にして死す。其の死するや、色先ず青く、白にして乃ち死す。)

※ 耳聾
『素問』藏氣法時論
厥陰與少陽 氣逆 則頭痛耳聾不聰頰腫
耳聾嗌乾 取其經 太陰足太陽之外厥陰內血者

『素問』熱論
三日 少陽受之 少陽主膽 其脈循脇絡於耳
故胸脇痛而耳聾

『素問』繆刺論
邪客於手陽明之絡 令人耳聾時不聞音

『霊枢』終始
少陽終者 耳聾 百節盡縱 目系絕 目系絕 一日半則死矣
其死也 色青白 乃死

『霊枢』経脈
小腸手太陽之脈/是動則・・耳聾 目黃 頰腫
三焦手少陽之脈/是動則病耳聾渾渾焞焞 嗌腫 喉痺

『傷寒論』辨太陽病脈證并治
未持脈時 病人手叉自冒心 師因教試令欬而不欬者
此必兩耳聾無聞也
所以然者 以重發汗 虛故如此
發汗後 飲水多 必喘以水灌之亦喘
發汗後 水藥不得入口為逆 若更發汗 必吐下不止
發汗吐下後 虛煩不得眠
若劇者 必反覆顛倒 心中懊憹 梔子豉湯主之

※ 目𦊷絕系
王冰の解説。「驚いたように直視する様子をいう。」
両眼が直視して驚き恐れている様相。
『霊枢』の大惑論篇に「筋骨、血気の精をつつみこんで脈と併せて系となっている。上部では脳に属し、後部ではうなじの中間に出る。」とあるところから、目は直視しているが、目系中の脳に属する気はすでに絶えてしまっていることを言っていると思われる。

陽明終者 口目動作 善驚妄言 色黃 其上下經盛 不仁
則終矣
(陽明の終わりなる者は、口目、動作し、善く驚き、妄言し、色黃たり。其の上下の經盛んにして、不仁なれば則ち終わる。)

※ 口目動作
『霊枢』終始
陽明終者 口目動作 喜驚 妄言 色黃
其上下之經盛而不行 則終矣

※ 善驚
『素問』刺瘧
肺瘧者 令人心寒 寒甚熱 熱間善驚 如有所見者
刺手太陰陽明
『素問』厥論
陽明厥逆喘欬身熱 善驚衂嘔血
『素問』奇病論
病生在腎 名為腎風
腎風而不能食善驚 驚已 心氣痿者死
『素問』四時刺逆從論
陽明有餘病脈痺身時熱 不足病心痺 滑則病心風疝
濇則病積時善驚
『素問』至真要大論
少陽之勝 熱客於胃 煩心心痛 目赤欲嘔 嘔酸善飢
耳痛溺赤 善驚譫妄

※ 妄言
『素問』陽明脈解
陽盛則使人妄言罵詈不避親踈 而不欲食 不欲食
『素問』厥論
陽明之厥 則癲疾欲走呼 腹滿不得臥面赤而熱
妄見而妄言
『霊枢』刺節真邪
大熱遍身 狂而妄見妄聞妄言 視足陽明及大絡取之
虛者補之 血而實者寫之

ここからは陰経の脈気が尽きた場合ですが、『霊枢』経脈篇にも詳細な記述があるので、参考までに挙げておきます。

『霊枢』経脈篇
手少陰氣絕 則脈不通 脈不通 則血不流
血不流 則髮色不澤 故其面黑如漆柴者 血先死
足少陰氣絕 則骨枯
 
少陰者 冬脈也 伏行而濡骨髓者也
故骨不濡 則肉不能著也
骨肉不相親 則肉軟卻
肉軟卻 故齒長 髮無澤
髮無澤者 骨先死
 
手太陰氣絕 則皮毛焦
太陰者 行氣溫於皮毛者也
故氣不榮 則皮毛焦
皮毛焦 則津液去皮節
津液去皮節者 則爪枯毛折
毛折者 則毛先死
 
足太陰氣絕者 則脈不榮肌肉
唇舌者 肌肉之本也
脈不榮 則肌肉軟
肌肉軟 則舌萎人中滿
人中滿 則唇反
唇反者 肉先死
 
(手厥陰氣絕は欠落)
足厥陰氣絕 則筋絕
厥陰者 肝脈也
肝者 筋之合也
筋者 聚於陰氣 而脈絡於舌本也
故脈弗榮 則筋急
筋急則引舌與卵
故唇青舌卷卵縮 則筋先死

では、本文に戻ります。

少陰終者 面黑齒長而垢 腹脹閉 上下不通而終矣
太陰終者 腹脹閉不得息 善噫善嘔 嘔則逆 逆則面赤
不逆則上下不通 不通則面黑皮毛焦而終矣
厥陰終者 中熱嗌乾 善溺心煩 甚則舌卷卵上縮而終矣
此十二經之所敗也
(少陰の終わりなる者は、面、黑く、齒、長くして垢あり。 腹脹りて閉じ、上下通ぜずして終わる。
太陰の終わりなる者は、腹脹りて閉じ、息することを得ず。善く噫し、善く嘔す。嘔すれば則ち逆す。
逆すれば則ち面赤く、逆せざれば則ち上下通ぜず。通ぜざれば則ち面、黑く、皮毛焦れて終わる。
厥陰の終わりなる者は、中、熱し、嗌乾き、善く溺し、心、煩す。甚だしければ則ち舌、卷き、卵、上り縮みて終わる。此れ十二經の敗らるる所なり。)

※ 齒長而垢
張景岳の解説。「腎は骨を主り、腎が傷られれば骨も傷られることとなる。そこで歯根がしっかりしなくなり、長くなって垢がたまるのである。」
歯茎が縮み削られて、あたかも歯が長くなったようにみえること。

※ 善噫
『素問』陰陽別論
二陽一陰發病 主驚駭背痛 善噫善欠 名曰風厥

『素問』痺論
心痺者 脈不通 煩則心下鼓 暴上氣而喘 嗌乾善噫
厥氣上則恐

『霊枢』経脈
脾足太陰之脈/是動則病・・腹脹 善噫 得後與氣

『難経』十六難
假令得脾脈
其外證 面黃 善噫 善思 善味
其內證 當齊有動氣 按之牢若痛
其病 腹脹滿 食不消 體重節痛 怠墮嗜臥 四肢不收
有是者脾也 無是者非也
 
※ 中熱
『素問』玉機真藏論
肝傳之脾 病名曰脾風
發癉 腹中熱 煩心出黃 當此之時 可按可藥可浴

『素問』刺腰痛
上熱 刺足太陰 中熱而喘 刺足少陰

『素問』繆刺論
邪客於手陽明之絡 令人氣滿 胸中喘息 而支胠胸中熱
刺手大指次指爪甲上

『霊枢』終始
厥陰終者 中熱溢干 喜溺 心煩 甚則舌卷 卵上縮而終矣

『金匱要略』痓濕暍病脈證治
太陽中熱者 暍是也 汗出惡寒 身熱而渴
白虎加人參湯主之
 
※ 嗌乾
『素問』藏氣法時論
厥陰與少陽 氣逆 則頭痛耳聾不聰頰腫
耳聾嗌乾 取其經 太陰足太陽之外厥陰內血者

『素問』風論
肝風之狀 多汗惡風 善悲色微蒼 嗌乾善怒 時憎女子
診在目下 其色青

『素問』痺論
心痺者 脈不通 煩則心下鼓 暴上氣而喘 嗌乾善噫
厥氣上則恐

『霊枢』経脈
腎足少陰之脈/是主腎所生病者・・嗌乾及痛 煩心 心痛
肝足厥陰之脈/是動則病・・婦人少腹腫 甚則嗌乾 面塵

『霊枢』雜病
嗌乾 口中熱如膠 取足少陰
 
※ 心煩
『素問』繆刺論
邪客於手少陽之絡 令人喉痺舌卷 口乾心煩 臂外廉痛

『傷寒論』辨太陽病脈證并治法上
傷寒脈浮 自汗出 小便數 心煩 微惡寒 腳攣急
反與桂枝湯 欲攻其表 此誤也
得之便厥 咽中乾 煩燥 吐逆者 作甘草乾薑湯與之

『傷寒論』辨太陽病脈證并治寒論
傷寒下後 心煩腹滿 臥起不安者 梔子厚朴湯主之
 
※ 舌卷
『霊枢』経筋
手少陽之筋・・・其病當所過者 即支轉筋 舌卷

『難経』二十四難
足厥陰氣絕 即筋縮引卵與舌卷

※ 卵は睾丸のこと。

実は上記にも挙げてありますが、この段落の内容は『霊枢』終始篇にほぼ同じものがあります。
前段迄の、時期と臓腑の関係、季節と刺入深度についての論述から、急に十二経脈の尽きたときの病態に話が飛んでいるので、錯簡のように紛れ込んでしまったのではないか、という話になりました。
鍼灸師としては、患者さんの臨終に近い状態に立ち会うことはそう多くは無いと思いますが、重篤な状態につながる症状として、押さえておきたい内容だと思います。

では、今回は以上になりますが、最後までお読み頂きありがとうございました。
次週は勤労感謝の日で祝日なので、その次の週から、今度は「玉機真蔵論篇」を読んでいく予定です。


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