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ウメハラ信者をやめた話

 どうも、なんとかかんとか男坂から帰ってきたたくさんです。今回はタイトルの通り私がウメハラ信者をやめた話です。どんどんゲーム攻略から遠ざかっている上に、(私の中では)シリアスな話になりますが、お付き合いいただければ幸いです。

 また、最初に言っておきたいのですが、私はウメハラさんのことは今でも応援しています。どちらかというと「盲目的に何かにのめり込むことの危うさについて身をもって知ったよ」てことを伝えられれば良いなあと思っています。

1.ウメハラさんという人

 この記事を読んでいるようなコアな方なら知らない人はいないでしょうが、改めて言うと日本人で初めて格闘ゲームのプロゲーマーとなった人として広く知られているお方です。

 「格闘ゲームのことはよくわからないけどウメハラは知っている」なんて人もいるくらい有名な方ですね。

ウメちゃんカッコいい

 ウメハラさんの功績等については今さらすぎるのと情報量が多くなりすぎるので今回は割愛します。

2.趣味「ウメハラ」の時代

 少し自分語りになりますが、私は仕事の都合で2014年に地元から東北の片田舎へ転勤しました。辞令はいきなりで待ったなし、親せきや友達はおろか知り合いすら一人もいない場所への転勤、しかも田舎。正直言って憂鬱でした。

 仕事が忙しく格ゲーをやり込む時間は無い、知り合いもいない、ついでに金も無かった私はわずかな休日をニコニコ動画やYoutubeを観て過ごす日々を送っていました。

ちなみに当時最も私を笑顔にしてくれたのはとある号泣会見の動画でした

 私がウメハラさんにどっぷりハマったのはそんな時です。同時に、ストリートファイター4がシリーズの末期に差し掛かり、プロゲーマーの方々を中心にプレイが相当に円熟していた時期でもあります。

 そんなハイレベルなプレイヤーが集う中でも滅茶苦茶強かったウメハラさん。ウルトラストリートファイター4ではリュウから殺意の波動に目覚めたリュウにキャラ変えし、数多くの大会で結果を残していました。

その強さは正に「真・DAIGO」

 その頃の私は、毎日ウメハラさんのニュースをチェックし、珍しく配信に出た時は繰り返しその配信を見返しました。出場している大会も逐一チェックを入れ、海外の時間差を気にせずリアルタイムで追いかけます。

 また、ウメハラさんは当時、毎年のように著書を発行しており漫画「ウメハラファイティングゲーマーズ」の連載も開始したころでした。当然の如く全ての書籍を購入した私は、バイブルとして何度も読み返していました。

当時格ゲーはバブルのような盛り上がりがありました

 格ゲーマーなら誰もが夢想したゲームを仕事にすることを体現しただけでなく、講演会を開催したり各メディアへ出演するなど、その活躍の幅が大きく広がっていたウメハラさん。

 そんな格ゲーの新たな可能性を生みだしたウメハラさんに、私は熱狂的にのめり込んでいきました。もちろん、以前からウメハラさんのことは知っておりましたが、私が心細くなったタイミングとウメハラさんが活動の幅を広げた時期が重なったことが大きな原因と思います。

 私はストリートファイターでも格ゲーでもなく、正に「趣味はウメハラ」というべき状態になっていました。信者爆誕の瞬間です。

ありがたや~

3.講演とガイル

 そんな病的なウメハラ信者として日々を過ごしていた私ですが、とある日のウメハラさんの配信で、その時出演していた同じくプロゲーマーのふ~どさんがおっしゃっていたとある言葉にドキッとさせられたことがありました。どういう流れで出たのかも覚えていませんが、こんな内容です。

ふ~どさん
「人って、他人の分からない部分を自分の理想で埋めるじゃないですか」

 細部は異なるかもしれませんがこんな感じだったと思います。ちなみに、配信上では割とサラッと流された発言でした。ウメハラさんも「あぁ、まあそうだよね」といった軽いリアクションだったと思います。

ジョハリの窓で言えば、他人が気づいていないはずの窓も勝手に理想で埋められていると

 何故この話をしたのかというと、ウメハラさんを盲信していたときの私がまさにそうだったからです。上記の配信は私が信者状態の時に行われたものでしたが、その時の何気ない言葉を未だに覚えているということは、やはりどこかで自覚はあったんでしょう。

 そして本題、私がウメハラ信者をやめた話なんですが、直接のきっかけはウメハラさんが2017年1月19日に慶應丸の内シティキャンパスで行った講演直後に、リュウからガイルへキャラ変えしたことでした。

 少し詳しくお話しすると、その前月の2016年の12月にストリートファイター5が調整され、ウメハラさんが使っていたリュウがけっこうな弱体化をして、一方でサブで使っていたガイルがもの凄く強化されました。

 「1日ひとつだけ、強くなる。」ウメハラさんの著書の題名にもなっていたこの講演の中で、ウメハラさんが語った内容を記事から引用します。

 現在のストリートファイター5は、2016年12月のバージョンアップで、それまで梅原氏がメインに使っていたキャラクターのリュウが相対的に弱くなった。そして、氏がサブで使っていたガイルが強くなった。普通なら強くなったサブキャラをメインにする。プロならなおのこと、実績も求められるし、周囲の期待もあるため、1%でも勝率が上がるキャラを使うべきだ。

 だが、ガイルを使っても、つまらなかった。一方で、前のパートナーであるリュウを使うと、弱いながらも、子供の頃感じてた充実感が返ってきた。久しぶりの感覚だった。その時は、理由は分からなかったし、理屈にも合わないけれど、リュウを使ってしまう。

 最近になって分かったのが、ガイルをつまらないと感じたのは、使うことを「自分で決めていなかった」からだった。

(中略)

 ガイルは全部を持っている。だが、その全部持っているというのは、他人が決めたこと。学歴が高い方が良いと言うのは、人の価値観だ。人の価値観に合わせて、自分の感情を押し込めるのは愚かなことだ。

 今の梅原氏にとってリュウは、ちょっとだけ面白いキャラ。たったそれだけのことだ。だが、今のリュウを使っていて、ここ2年くらい退屈だった気持ちが晴れた。毎日楽しくてしょうがない。人生って楽しいものなんだなと再認識した。

 今まで自分は、人の価値観に流されていないつもりだった。だが、上手くいって持ち上げられた末、知らず知らずのうちに人に合わせていた。定石に従ってガイルを使っていたら、人生がつまらなくなるところだった。

やじうまPC Watch記事より抜粋 (https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/yajiuma/1040266.html)

 そして、プロゲーマーとして周囲からの活躍を期待されることに対して、こう締めくくっていました。

「あなたの思う形、想像の範囲では、期待に応えませんよ。自分のやり方で期待に応えます。」

 この講演は大きな反響を呼び、この講演をきっかけとしてウメハラさんを知った方も多くいたようです。もちろん、信者だった私も大変感銘を受けた記憶があります。

 いくら大好きなゲームであろうと、仕事としてやるようになると面白くはなくなるものなのでしょう。そんな人生を後悔しないように、自分の使うキャラは自分で決める。その後の配信等でも、その結果としてスポンサーが無くなってもしょうがない、というようなことまで話していました。

 なんてカッコいいんだ、弱キャラとなってしまったリュウでどんな活躍を見せてくれるんだろう、とワクワクが止まらなかった私は後に衝撃を受けることになります。

4.ガイルへのキャラ変え

 講演から翌月の2月、国内では最大規模の大会である「第6期TOPANGAリーグ」のオンライン予選が行われました。宣言通りウメハラさんの使用キャラはリュウ!しかし、ウメハラさんは予選で一勝も出来ず早々に姿を消してしまう結果となります。

※格ゲーチェッカーさんより引用させていただきました

「まあこれはしょうがない」
「弱キャラで頑張る以上こういった可能性は十分にあった」
「結果が出るまでには時間がかかるだろう」
「ウメハラさんもこうなることくらい分かっていたはずだ、ここからだ。」

 そんな私の思いは、次の2017年の3月から4月にかけて行われたアメリカの大会「Eリーグ」で覆されました。そう、その大会にウメハラさんは使っていて面白くないと言っていたガイルへ使用キャラを変更していたのです。

2017Eリーグの最終結果
※格ゲーチェッカーさんより引用させていただきました

 そして、ウメハラさんはガイルというキャラのおかげかベスト8に入ることが出来ました。結果だけを見れば英断だったと言えるでしょう。

「そうか、そりゃそうだよな、しょうがないよ、当たり前だ」
「やっぱりリュウじゃ無理だよな」
「プロなんだし、勝てるキャラを使わないほうがおかしいよな」

 そう思ってはみたものの、しかし、この時確実に私の中で、それまで燃えていたウメハラ熱というべきものが徐々に冷めていく感覚がありました。

5.キャラ変えの理由

 その後の配信等で、ウメハラさんは何度かガイルへのキャラ変えに至った経緯を説明していました。

 簡単にまとめます。

・リュウで何とか出来ると思ったがやはり無理だった
・このままでは今後何年も競技シーンから置いて行かれる可能性があった
・リュウでは最前線の選手は誰も真剣に勝負してくれなかった
・講演で語った内容は嘘じゃない、あの時はそう思った
・あっさり内容を覆せば周りからどう見られるかも分かっていた
・でも意地を張るのはやめようと思った
・めったにアドバイスされないマネージャーからEリーグは大事だと言われ考えた

Daigo The BeasTV等での発言より抜粋

 ウメハラさんも悩みに悩んだ末の決断だったのが分かります。

 そしてその選択は正しかった。ガイルへキャラ変えしていなければ今ごろウメハラさんはプロゲーマーとして現役を退き、ウメハラさんの言葉で言うなら達人枠の人として競技者ではなく、タレントとして格闘ゲーム界を布教するような立場になっていたかもしれません。

6.冷めた理由

 ガイルへのキャラ変更はしょうがないことだ。

 しかし、いくら頭でそう理解しようとしても、どうしても心のどこかでは納得できていない自分がいました。

「いくらリュウやめるにしても早すぎじゃね?」
「じゃああの講演なんだったんだよ」
「成長するために変化を続けるってこういうこと?」
「かっこ悪すぎるだろ」

 苦しい思いをしてでも、それでもトッププロとしての活動を続けるための選択をしたウメハラさん。講演で語った内容を撤回し、急遽大会までにガイルを仕上げる必要があったウメハラさんにも、相当な葛藤があったでしょう。当時の私は、信者を自称していながらそんなことにも思い当たりませんでした。

 また、多少時間が前後しますが2017年の3月31日にウメハラさんとプロモーション契約を結んでいた「Mad Catz」が破産します。2010年にウメハラさんがプロ格闘ゲーマーとなってから始まった「eスポーツバブル」とでも言うべき一連のお祭り騒ぎが、終わってしまったように私には思えました。

一つの時代が終わり、また次の時代へ

 そして私は、いつしかウメハラさんのことを追うのを辞めていました。
スト5で対戦したり、動画や配信を見たりする頻度も減っていき、半年もすると対戦も動画視聴もしなくなりました。

 そんなある日、私が珍しく部屋を掃除した際、寝室の片隅にUSBコネクタが錆びて、使えなくなってしまっていたTE2のアケコンが転がっているのを見つけました。どのくらい放置すればそうなるのか、3万も出して買ったそれが台無しになったというのに、その時の私は残念に思うことが出来ませんでした。

今思えば惜しいことをしたなあ…

7.それから一年経って

 2018年の3月10日にウメハラさんが主催する格闘ゲームイベント「獣道弐」が開催され、そこでウメハラさん自身がときどさんと10試合先取で争うことになりました。

 熱は冷めていたとはいえ、格闘ゲームの大きなイベントで何よりコンセプトマッチがメインの面白そうな対戦カードが目白押し。見ない選択肢はありませんでした。

当時のときどさんはEVO2017を制し実績も実力もトップと目されていました

 「この試合に負ければウメハラの天下は終わるのではないか」ウメハラさん自身も、見守っていた視聴者もそんな思いがありましたが、結果は見事ウメハラさんの勝利。その存在の大きさを改めて見せつける形となりました。

※格ゲーチェッカーさんより引用させていただきました

「やっぱりウメハラはすげえや!!」

 一度は気持ちの離れた私ですが、このウメハラさんの再起とも言える活躍を見てあっさり手のひらを返したくなりました。

 しかし、いくら愚かな私でもさすがにその時の自分の中の罪悪感と醜さに気づかないふりをすることは出来ませんでした。都合の良いときだけ寄って行くくせに、自分の理想から外れた瞬間に離れていく、そんな歪な応援の仕方はあまりにも自分勝手で間違っているように思えたのです。

 そして、その時改めて私は自分の気持ちを整理してみようと思いました。自分で自分の考えていることが分からず、スッキリしないのが嫌だったからです。

8.何を見ていたのか

一つの真理ですよね、このセリフ。

 そして、しばらく考えた末に出た答えは、結局私は梅原大吾という人を見ず、「ウメハラという偶像を追いかけていただけ」なんだという結論に至りました。

 だから、悩んだり、間違ったり、人として当然あるはずのそれらを許容できなかった。ずいぶんと都合のいい「信者」です。

 そして、同時にそんな私のようなファンは、これまでもウメハラさんの前に幾度となく現れては消えて行ったのだろうということにも思い当たりました。だから前述のふ~どさんのセリフに改めて反応もしなかったのでしょう。そんな当たり前なこと確認するまでもないんだから。

 また、これは私がウメハラさんをずっと見ていて気付いたことなんですが、彼は多くのファンに囲まれていても、喜ぶ素振りを全く見せません。

「あんなに多くの人に囲まれていい気分になったりしないのだろうか?」
不思議に思ったことがありましたが、その答えが分かった気がしました。

 自称ファンの頭の中には、その人の理想で空白部分を埋められた「ウメハラ」像しかありません。勝手に期待して近づいてきて、勝手に失望して離れていく、ウメハラさんは恐らく10代の頃から何度も何度もそういう経験をしてきたのでしょう。だから、そんな自称信者には価値を見出さないのです。

 彼は講演で周囲の期待には応えない、と言いました。大切なのは自分で決めること、そうでないと後悔することになる。だから、周りからどう思われても戦い続けるために、一番現実的な道であるガイルへのキャラ変えという選択をしたのでしょう。

そのような考えに至った時、こう思いました。

「何だ、じゃあオレが悪かっただけなんだな。」

 ただただ、その時心の拠り所が欲しかっただけの弱い人間が勝手に熱くなれる対象を見つけて、勝手に騒いで、勝手に冷めただけ。私の中のウメハラさんへの怒りや失望といった気持ちは、そのまま全て私自身への嫌悪感と空しさに変わっていきました。

9.その後

 信者状態を抜け出して、フラットな状態に戻った私は、何となくやる気がしなかった格ゲーも少しずつまた触るようになりました。

 そして、2021年に私が最も好きな格闘ゲームであるギルティギアシリーズの新作「ギルティギア ストライブ」が発売されると、本格的にやり込むようになり、それは今も続いています。

面白いゲームですよ

 また、ウメハラさんのことも「信者」ではなく、一視聴者として配信を観たりするようになりました。そうして改めて思うことがあります。

 それは、やっぱりウメハラさんはすごい、ということ。
素直にそう思います。

 昔のように、ただ楽しいだけでゲームをするわけでなくなっても、苦しくても、時に間違っても自分で進む道を決め、今も第一線でウメハラさんは格闘ゲームの勝負の世界に身を置き続けています。

どこかの格闘ゲーム好きな誰かが言いました。

「ウメハラのことを嫌いなプレイヤーなんていない」

「あれはオレたちがなりたくてなれなかった自分の姿なんだから」

と。

 神格化するのは後世の人たちだけで良い。彼と同じような年代に生まれ、共に同じ格闘ゲームの歴史を歩める幸せを嚙み締めよう、私はそう考えています。


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