山奥ニートという生き方【「山奥ニート」やってます。:書評】


#家賃0円 、#リモートひきこもり、#限界集落。嫌なことはせず1万8000円(月額)で暮らす方法。「なるべく働かずに生きていく」を実現したニートがつづる5年目の記録。(参考:amazon)


・山奥ニートという物語を一冊の本に凝縮した美味しいエッセイ

まず本書の著者である石井あらたさんにお礼を言いたいです。本書のような素晴らしいエッセイを執筆していただいてどうもありがとうございます。とても上質な読書体験をすることができました。

本書では山奥ニートの生き方が綴られています。この本の著者が参加している共生舎についてはyoutubeなどに動画があがっておりなんとなく内容については知っていました。
私個人も都会の忙しい仕事よりももっと安くて人間らしい生活ができる方法があると常々考えていました。共生舎では月々にかかるお金がものすごく安い、というところが書かれていますが、驚くところというよりも「やっぱりそれぐらいあれば生活できるよね」と安堵の気持ちの方が多きかったです。

それよりも共生舎の人々がどのような価値観、雰囲気で過ごしているのか、という情報に価値がありました。本書は「どうすれば山奥でニートができるか」というノウハウ本というよりは「山奥ニートの私達はこのように生きています」というエッセイでした。まるで私自身が本当に山奥で過ごしているような感覚がしてきて、本の内容に触れることで本の重要な役割である「追体験」をさせてくれる本でした。

・集団生活版Bライフ

本書では否定されていましたが、この本で綴られている生き方は「Bライフ」という生き方に近いように私には思えました。しかし集団生活を行うことで協力して生活をしているという点で、より現実的なBライフと呼べそうです。何が現実的かといえば、「ちょっと試してみようかな」というのができる点にあります。現在はわかりませんが、共生舎は見学も可能だそうで、「やろうと思えば長期連休でも実施可能」という簡易さがあります。

・自分たちの幸福を守るための積極的籠城

さて、私自身は「都会の忙しい仕事よりももっと安くて人間らしい生活ができる方法」を考えたときにどうしても「都会の便利さとのレバレッジを効かせるために都会に近い郊外に集団生活施設を建てるべきだろう」と考えていました。共生舎の運営している集団生活を行っている校舎は車で1時間ほど山道を行かなければ行けないそうです。これでは明らかに不便で、図書館に通うのも一苦労でしょう。日本に住んでいる意味があるのか、疑わしく思っていました。

ですが、本書を読むと、この人里から離れているという自然の壁が共生舎の人間関係を保持しているのではないか、と考えを改めました。

「安くて楽しい暮らし」をするためにはトイレやお風呂などが共同である必要があると考えています。ですが、そのような共同の設備は共同体の中に一人でも乱用するような「悪人」がいれば破損されてしまいます。このような共同体を維持していくためには「悪人」を組織に入れないことが最大の課題になります。

共生舎がうまく回っているのは、彼らの中に「悪人」がいないからだろうと思います。あまりにも町から離れているために「悪人」が利用しようとも思わない(決して悪い意味ではありません)。これは自然を防壁に見立てた城の中に引きこもる「籠城」にかなり近いように見えました。

こう考えると、私達現代人は自然という防壁もなく、誰彼構わず出入りする仕事というストレスを受けやすい環境にさらされて、日々消耗していっているようにも見えます(仕事、辛いですね)これでお金や便利さを手に入れているのかもしれませんが、果たして釣り合っているのだろうか、と疑い始めました。山奥ニートのほうが圧倒的に幸福なのではないか、と。

もちろん、頑張って働いている人がいるからこそ、山奥ニートの生活も成り立っています。医療やゲーム、その他のインフラについても、科学技術の粋を集めたものに他なりません。ですが、一個人の生き方は別です。おそらく著者を含めた山奥ニートの人たちも「全員が山奥ニートになればいい」なんて考えていないと思います。私は果たして幸福なのか、私の幸福を考えたときに、今より別の場所があるのではないか、と思わずにはいられませんでした。

・「山奥ニート」という選択肢があるから、明日からも仕事が頑張れる。

本書は本来であれば数年ほど過ごさないとわからないような「山奥ニート」という生き方を追体験させてくれるエッセイでした。本書を読んだおかげで「山奥ニートという生き方もありだな」と思うようになりました(今後も募集があるかは不定ですが)。

ですが、「逆説的に『山奥ニート』という選択肢があるから、明日からも仕事が頑張れる」とも思えました。これは「いつでも仕事をやめられるから、もう一日仕事するか」というのと同じ理屈です。

山奥ニートという生き方は楽しそうでしかたがありません。その楽しさを眺めて、「いつでも仕事をやめられる」と勇気をもらって、明日からも仕事を「やめる」という勇気も持たず、現状維持でなあなあと仕事を続けていきます笑。


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