見出し画像

年収の壁とは? たくさんある基準をわかりやすく整理(後編)

こんにちは! たくろうです。
前回に引き続き、「わかりやすい税金シリーズ」の4回目、「年収の壁」の後編をお届けします。

前編の基礎知識を前提として、「年収の壁」に関する最近公表された政府(厚生労働省)の対策(「年収の壁・支援強化パッケージ」)や今後の課題などについて、わかりやすく解説していきます。


年収の壁に関する政府の対策

配偶者の扶養に入り、一定の年収額を超えた場合、税金や社会保険料の負担による手取り収入が減少するため、働く時間を抑制する「就業調整」を行うケースが多く発生するという問題がありました。

このことが短時間労働者の労働意欲を低下させ、企業の人手不足を加速させているという指摘が各方面からありました。

就業調整をすることなく、慢性的な人手不足を解消し、希望する働き方を選べるようにするためには、一時しのぎではなく中長期的な抜本改革の方向性を示す必要性が求められています。

また、長年の就業により高いスキルとノウハウを持つパート従業員が多く、仕事の内容や責任が正社員と変わらないにもかかわらず、待遇面のバランスがとれていないという企業側の課題と労働者の不満も改善すべきです。

さらに、2023年10月から地域別最低賃金が改定され、すべての都道府県で賃金の引き上げが実施されます。さらに、年末の繁忙期を迎え、就業調整が加速するとの経済界の懸念に政府が重い腰を上げました。

岸田首相の「社会保険料を国が実質的に軽減し、各種の年収の壁を超えても、収入の増加に応じて手取り収入が増加するようにする」との言葉を受けて、厚生労働省が「年収の壁・支援強化パッケージ」をまとめました。

パート・アルバイトなどの短時間労働者が年収の壁を気にせずに、自分の意思で自由に働ける環境づくりを支援することが目的です。

106万円の壁に対する対策

配偶者の扶養に入る労働者が、従業員101名以上の企業で一定の要件を満たした場合、年収が106万円を超えると社会保険への加入義務が発生します。

このことの対策として、労働者の収入増加の取組みを行った事業者に対して、従業員一人につき最大50万円の助成金を支給することとしました。取組みの具体例は次のとおりです。

社会保険適用促進手当の支給(社会保険料の算定の対象外とする)
・賃上げによる基本給の増額
・所定労働時間の延長

ここで、「社会保険適用促進手当」とは、短時間労働者の社会保険加入を促進するため、事業主が労働者の保険料負担を軽減するために支給することができる手当のことです。

この手当は、給与・賞与とは別に支給され、社会保険料算定の基礎となる標準報酬月額の算定には含めないとされています。

130万円の壁に対する対策

配偶者の扶養に入る労働者の年収が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れ社会保険の加入義務が発生します。

この130万円の壁に対する対策として、さまざまな理由による一時的な増収が発生し、年収の見込みが130万円以上となる場合であっても、そのことがあくまで一時的であることを事業主が証明することで、配偶者の扶養から外れないこととしました。

要するに、年収が130万円を超えても連続した2年以内に限り、事業者の証明と健康保険組合などの認定があれば、配偶者の扶養にとどまることができるということです。

これが実現すれば、企業側にしても年末などの業務の繁忙期において人手不足を解消でき、従業員シフトに頭を悩ませる必要がなくなります。

さらに、配偶者の扶養範囲内で働きたい短時間労働者にとっても、130万円の壁を意識し、就業調整をしなくてもいいというメリットがあります。

ただし、今回の特例は連続した2年間のみ適用され、増収の理由が一時的でない場合は適用されず、130万円の壁がなくなった訳ではありませんので注意が必要です。

では、130万円を超えどれだけ収入が増えても、この適用を受けられるのでしょうか? この点について、年収の上限を設けない方向で検討しているとしつつも、具体的にはまだ公表されていません。

被扶養者認定

この配偶者の扶養者であることの認定は、事業主が人手不足による労働時間延長などに伴う一時的な増収であると証明し、企業の健康保険組合などの保険者が認定する必要があります。

あくまでも一時的で特別な事情として認定を行うことから、原則として連続2回(2年間)が上限となります。

この手続については、迅速で簡素な手続を想定しているようですが、現段階では具体的な手続方法について公表されていません。

配偶者手当への対応

一般的に企業で支給されている「配偶者手当」には年収要件が規定されている場合が多く、このことが年収の壁として、配偶者の就業調整につながっているとも指摘されています。

そこで政府は、支給を受けている人にとって不利益にならないように、この手当の廃止や縮小などの見直しを促進する必要性があると指摘しています。

具体的には、配偶者手当の見直しが円滑に進むよう見直しの手順やフローチャートなどのわかりやすい資料を作成・公表するとしています。

また、配偶者手当の位置付けや支給する企業が減少傾向にあることを企業団体などを通じて周知し、地域で開催するセミナーで説明していく方針です。

公平性を保てるか

「年収の壁」問題の根源は、現行の年金・社会保険制度が世帯主である夫が働き、その妻を扶養するという過去の家父長的な社会構造を、いまだ前提としていることにあるといえます。

社会保険の原則は、一定以上の勤務時間による収入があれば、保険料を負担することが前提です。しかしながら、この対策が実施されると、短時間労働者が本来負担すべき保険料を、実質的に国が肩代わりすることになります。

年収106万円には「助成金50万円」、年収130万円には「0円」となり、公平性を保つことができるのでしょうか?

さらに、夫婦で保険料を支払う共働き世帯、収入に関係なく国民年金保険料を支払う自営業者の妻との公平性に欠けるとの指摘もされています。

短時間労働者に多い主婦パートの優遇策であり、一部の人だけが保険料負担がなくとも利益を得られる政策は、国民の不満を招きかねません。

まとめ

いろいろな批判を受けながらも「暫定措置」としてスタートした「年収の壁・支援強化パッケージ」。

政府の取組みとして一定の評価ができるとしても、2023年10月から実施するには、まだ決まっていない詳細が多くあり、政策の進め方としてお粗末であるといわざるを得ません。

年末の繁忙期を迎える企業やパート労働者にとっては、今後の人材確保や働き方を方向づける重要な道筋であり、期待を持たせる政策であるため、一刻も早く具体的な手続などを示すべきです。

公平性を保ちながら、早急に具体的な手続方法などを明確にし、今後の年金や社会保障制度の抜本的改革の筋道を示し、国民にわかりやすく説明することが必要不可欠です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?