番外編 Interview with 弁護士 竹下 博將 PART1 (「ヘドバンギャー’s Journey」(自由と正義2023年10月号掲載)の「仕事環境」・リモートワークなどについて)

まえがき

 「自由と正義」2023年10月号巻頭の「ひと筆」(以下「ひと筆」)。のタイトルは、「ヘドバンギャー’s Journey」で執筆者は竹下博將先生(以下「竹下先生」。)でした。(竹下先生のX(旧Twitter)のプロフィールに「「養育費・婚姻費用の新算定表マニュアル」代表執筆者」とあるように、こちらの分野でもご活躍されています。こちらのリンクもご覧ください。)
 タイトルだけでBABYMETALとA HEADBANGER'S JOURNEYにちなんでいることが分かり、即X(旧Twitter)で反応してしまいました
 竹下先生の事務所である弁護士法人つくしのウェブサイトに掲載されている竹下先生の経歴と、ひと筆のメタル遍歴を拝読し、個人的な興味をくすぐられ、竹下先生の業務のやり方をうかがえば、海外フェスに参戦する方の参考になるような記事になり、また、メタル談義ができるのではないかと考え、竹下先生に打診したところ、快諾いただいたという次第です。
 PART1ではリモートワーク関連のお話を、PART2では海外フェス参戦やメタル遍歴などのお話をうかがいました。
 法曹とメタル、第2弾です。お楽しみいただければ幸いです。

リモートワーク環境の構築について

橋本(以下「」) ひと筆では、「リモートで仕事ができる環境」として、データの送受信はスマートフォン(以下「スマホ」)のテザリング機能を利用、とありましたが、海外でのデータの送受信で気を付けているところはありますか?

竹下先生 スマホのテザリング機能を利用しているので、相当低額で(又は追加料金不要で)利用できています。行った先のWi-Fiを利用しているときはVPNを利用しています。
 携帯電話は、キャリアによって海外でのデータ利用の料金体系が大きく異なります。例えば、ドコモの場合、追加料金(1日だと980円)が必要ですが、Ahamoであれば追加料金は不要です(ただし、国内と同様のサービスが受けられるのは連続して15日まで、かつ、合計20GBまでです。)。
 スマホを利用するため、必要に応じ、現地でSIMカードを調達し、又は事前にSIMカードを購入しています。通話は、Teams電話(筆者注:Microsoft社のサービスの一つでクラウドPBXシステムを提供している。)その他データ通信を利用するので、データ通信に特化したSIMカードで十分です(通話機能がない分、割安です。月額2000円程度で10GB程度のものを事前購入できます。)。Teams電話は、データ通信を利用しているので、国際電話料金はかかりません。

 ひと筆では、メールはGoogle Workspaceを利用してブラウザで送受信し、とあるのですが、少し具体的に教えてください。

竹下先生 Google Workspaceを契約して、業務でgmailのシステムを利用するようにしています。送受信はウェブブラウザからウェブメールを利用したり、スマートフォンのアプリを利用したりして行っています。クラウド上にメールデータがあるので、端末を問わずにメールの受送信・確認ができます。
 Google Workspaceは、Business Standardであればクラウドストレージを1ユーザーあたり2TB使えるので、Gmailの容量を気にせず使用することができます。Outlookの場合は50GBが上限で、拡張しても100GBが上限のようで、この制限があるため、Gmailに乗り換えました。

 ひと筆では、Wordファイルその他のデータはSharepointを利用してクラウドストレージで保存・編集し、とあるのですが、ここについても補足をお願いします。(筆者注:ひと筆によれば、竹下先生の事務所では、判例調査や書籍についても、可能な範囲でクラウドサービスを利用するようにしているそうです。)

竹下先生 事務所内にファイルサーバーを設置してインターネット経由でアクセスするという方式ではなく、Microsoft社のSharepointというクラウド上でのデータ保存・管理を行うサービスを利用してファイルを管理するようにしているので、インターネット環境があればどこからでもアクセスできるようにしています。セキュリティについては多要素認証で確保しています。
 Sharepoint上でWord等を編集する場合、Google Drive同様、同時に複数人がアクセスして共同編集できるのも便利です。一方、各自がファイルをダウンロードして各端末で編集する場合、同一のファイルを複数人で同時に編集することができないので、テレワークという側面からみると、SharepointやGoogle Driveが便利だと思います。

 事件記録もデジタル化してSharepointで保存・管理ということでしょうか?

竹下先生 そうですね。記録は、とにかくなんでもかんでもデータ化(スキャンしてPDF)し、紙の記録は、訴訟記録の控あるいは原本保管のような位置付けになってます。

 リモートワークの悩みの一つは、クライアント等との電話ですが、ひと筆では、Teamsを利用してスマートフォンで内線化(クラウドPBX)し、と書かれています。補足説明をお願いします。

竹下先生 当事務所は、固定電話回線もFAX回線も引いておらず、固定電話番号はTeams電話と紐付けてスマホで利用していますので(弁護士も事務局も。スマホが子機となって転送等ができます。)、海外にいても、内線のように電話を転送してもらうことが可能です。 なお、FAXもクラウドにPDFをアップロードする形で送信するサービス(受信はPDFファイルが添付されたメールを受信する)を利用していますので(どこでもMyFAX)、FAXについてはそもそも紙で扱うことがありません。
 Teams電話は、残念ながら、スマホでの動作が不安定なときがたまにありますが、PCであればそのようなことはありませんので、AirPods等のヘッドセットをBluetoothで接続してPCで利用するのがお勧めです。両手が空くので、電話しながらメモを取ったり調べたりするのがとても楽です。

 FAXについてそもそも紙で扱っていないということですが、送信のときの印影はどうしていますでしょうか?

竹下先生 FAXは、印影が必要であれば、印刷→押印→スキャンしますが、押印自体をほとんどしなくなりました。

 携帯電話番号をクライアントに教えている場合、こちらの状況に関わりなく、クライアントから電話がかかってくるということも予想されますが、こちらはどのようにされていますか?

竹下先生 携帯電話の番号を知っている顧客もいますが、「そもそも、携帯電話はマナーモードにしていて、かかってきても気付かないことが多く、対応しないようにしています。」ということをクライアントには伝えていて、電話で話がしたければ事務所宛に電話をしてもらうようにしています。

 海外フェスに参戦している場合では、日本との時差があるので、事務所内外との連絡にタイムラグが生じることも多そうに思われます。このあたりについて、何かケアをしていることがありますでしょうか?

竹下先生 これは難しいですね。 時差が7~8時間あるので、会議その他リアルタイムでやり取りが必要なものは、現地時間の朝6~7時に起きて対応しています。 フェスの会場にいると、昼頃にはみんな起き出してきてネットに繋ぐので、繋がりにくくなりがちで、オンライン会議はできる限り現地時間の早朝に入れるようにしてます。

海外フェスに行く前の根回しなど

 海外フェスに参加するときの、仕事関係の事前準備を教えてください。参戦の予定を立てて、その近辺には予定を入れないというのは想像できるところですが、そのほかの、例えばクライアントや事務所内への根回しなど、どういう事前準備をしていらっしゃるでしょうか?

竹下先生 事務所の内外を問わず、海外フェスに行くことは日頃から公言しています。 クライアントにも事務所にも、メールや電話は繋がること、もっとも時差の関係でリアルタイムでやりとりすることは難しいこと、現地調査や法廷出頭等はできないこと(もっとも、他の弁護士において必要な範囲で対応できること)、などを伝えています。 裁判所には、夏休みをとる旨伝えますが、理解されなかったことはないと思います。長時間のフライトのときはほとんど対応できない(WiFiが使えるときもあるが、速くはない。)ことも伝えてますね。 

端末の紛失などの情報漏えい対策について

 海外に行くとなると、バゲージロストや盗難など、通常時にも増して、情報端末の紛失の危険性を考えておく必要があるように思われます。このあたりについてはいかがでしょうか?

竹下先生 基本的に業務に必要なデータはクラウド上にあるので、手元の端末に業務に関するデータがあるという状態ではなく、情報漏えいの危険は少ないと思います。もっとも、先に述べた多要素認証はスマホを利用しているので、スマホの紛失は致命的です。経験はないですが、スマホを紛失した場合、すぐにキャリアに連絡し、端末をロックしてもらうことになります。Androidであれば、「デバイスを探す」アプリで対応します。ノートPCについては、これも使ったことはありませんが、Microsoftアカウントの「デバイスを探す」を利用して対応します。
 荷物はなるべく減らしたいので、ノートPCはUSB-Cで給電できるものを選び、コンパクトな充電器を使用しています。USB-Cの充電器であればスマホの急速充電もできて、充電器を複数持つ必要がなくなりますし、日常的に使っています。
 充電器の点で荷物を減らしてはいるのですが、書面作成等については、モバイルディスプレイがあると便利です。Word編集その他の作業はノートPCで行い、記録はモバイルディスプレイで見る、といった使い方をしています。日頃からデュアルディスプレイ環境で仕事をしています。訴訟記録もデータで見るので、紙の記録を広げて仕事をすることはめっきり減りました。紙の記録を持ち歩かないというところも、情報漏えい対策の一つになっていると思います。

そのほかのリモートワークに役立つサービスの利用などについて

 内容証明郵便はすでにインターネットでの差出ができるようになっていますが、弁護士の業務であったり、事務所を運営したりという点で、先述のもの以外に、リモートワークとの関係で何かサービスを利用されていますでしょうか?

竹下先生 実際に海外で試したことはありませんが、Web郵便の活用も有用だと思います。電子内容証明に限らず、普通郵便や速達郵便もブラウザ経由で発送できます。実際に配達される紙面に多少癖があるものの、速達は、最寄りの郵便局から発送されるので、郵便局に持ち込むよりも早く届くケースもあります。
 このほか、業務で必要になる銀行振込等はネット専業銀行を利用しています。ユーザー/グループごとに送金上限額や取引内容を設定することができますし、承認権限等を活用すれば、高額な送金であっても窓口に行ったりする必要がなく(海外で承認すればよく)、また、入金や出金があれば指定したユーザーにメールですぐに連絡されるようにもできますし、とても便利です。送金手数料も低額です(一律150円程度)。このサービスは、クラウド会計(freeeやMoney Forwardなど)との相性もよいと思います。なお、クラウド会計は、請求書の作成・送付等もブラウザだけで行えるものがあり、これも便利です。
 事務所運営という意味では、勤怠管理システムをクラウドにすれば、海外にいても、事務局・勤務弁護士の勤怠確認や有休承認・慶弔休暇付与等も行えます。給与計算を自動でしてくれるので、連携したクラウド会計にそのまま取引データを登録し、用意された総合振込用のデータを銀行のWebサイトにアップロードすれば、給与の支払まで、海外にいながらすべてクラウドで完結します。


 いかがでしたでしょうか。テレワーク環境の構築に有益な情報をお話しいただけたのではないかと思います。PART2は海外フェスやメタル遍歴などのお話をうかがいます。こちらもお読みいただければ幸いです。