情報公開請求における請求者の属性と情報公開請求と個人情報開示請求の違い(情報公開請求等の受付窓口担当だったときに考えていたこと その4)

不開示情報の検討の前提のお話

 続きは次回と書いておきながら、話は若干遡り、「その3」で書いた『(請求者が誰であるかによって行政庁は対応を変えるわけにはいかない以上、行政庁としては誰であっても同じ対応をしなければならないわけです。)』というところについて、もう少し説明したいと思います。

 行政機関に情報公開請求をされる方の中には、請求そのもの(とそれに対する行政機関の対応)に意味があると考えていて、開示不開示自体はあまり気にしていないように見えるケースがありました。
 例えば、行政文書を保有していないとして不開示となったとしても、その事実自体が重要であり、それを報道するのだ、というようなケースであれば、開示不開示そのものというよりは行政文書を保有していないことであったり、行政文書を保有していないと説明したことであったりが重要というわけです。
 こういう報道目的だから、ということで、開示不開示の判断が変わることはありませんが、こういう方の場合、欲しい情報が明確なので、その情報を取得できる別の方法を教示すると、情報公開請求を止めるということがあります。

 また、窓口への苦情・抗議や、行政不服審査法に基づく審査請求、処分取消訴訟などの場面で、自分はこれこれこういう立場の者であるから、不開示となるのはおかしいという主張をされるケースに遭遇したことがあります。
 このケースについては、窓口担当者も開示不開示の判断をする人も、多少揺らぐことがあるので、少し丁寧にご説明します。
 
 行政機関情報公開法や地方公共団体の情報公開条例の場合、請求権を行使できる人については、現実に存在する人であることという条件のほかは、特段の制限がありません。
 現実に存在する人であることが必要なのは、請求権の帰属主体という意味合いと、行政処分の名宛人という意味合いの2つの面から出てくることで、法令や条例には明記されていませんし、あまりものの本にも書かれていませんが、法令や条例の趣旨から導かれる要件になると考えています。
 行政機関情報公開法や条例の場合、不開示情報(非開示情報)の定義のところに、「公にする」という記載がされているわけですが、この意味合いとしては、情報公開請求に応じて請求者に行政文書を開示するというのは、当該行政文書に記載されている情報を「公にする」、つまり、広く世に知れ渡る状態に置くということです。
 行政機関情報公開法や条例が請求権を行使できる人を特段制限していないというのは、請求権を行使する人は誰でも同じように扱うということを意味します。これは、行政機関に要求される「法適用の平等」という面からも、そのように扱うことが求められるということができます。
 そして、先に記載した「公にする」というところは、請求権を行使する人は誰でも同じように扱うことから、誰でもその情報を知ることができる状態、つまり、広く世に知れ渡る状態にするということにつながっているわけです。
 行政機関情報公開法や条例がこのような考えの下に制度設計されているので、請求権を行使する人の個別事情や属性というものは、開示不開示の判断には何ら影響しない、むしろ、影響させてはいけないということになるのです。

 請求者の属性というところについて、私の過去の経験を踏まえて、わかりやすくご説明します。
 消費者庁では、消費者安全法に基づいて、消費者事故等の情報の集約を行ったり、消費者庁内に設置された消費者安全調査委員会による事故等原因調査を行ったりしていて、それらの情報を保有しています。
 消費者事故に遭われた方は、自分の事例と似た事例や、消費者事故の事故等原因調査の結果について興味をお持ちだろうと思いますし、何らかの手掛かりを得たいというお気持ちは十分にわかるのですが、消費者事故の被害者であるという属性は、開示不開示の判断に影響することはなく、行政機関情報公開法の定める不開示情報に該当するか否かということで判断していくことになるのです。

個人情報開示請求との関係のお話

 行政機関情報公開法に基づく開示請求の場合は、請求者の属性は開示不開示の判断には影響しません。
 一方で、個人情報保護法に基づく個人情報の開示請求の場合は、請求者個人の情報が記載された行政文書の開示を求めるものですから、請求者個人の情報については不開示情報には該当しないということになります。
 つまり、個人情報保護法に基づく開示請求の場合には、請求者の属性は開示不開示の判断に影響を与えるということになります。

 消費者庁で窓口担当をしていたときに、請求を考えているという方から問い合わせがあった場合には、その方が欲しいと思っている情報、また、それが記載されていると思われる文書をお聞きして、行政機関個人情報保護法(当時)の手続の方が、開示される範囲が広くなる可能性があるということをご説明していました。
 行政機関情報公開法の場合、請求者の属性は開示不開示の判断に影響しませんから、請求者個人の情報が記載された行政文書について、請求者個人の情報であったとしても行政機関情報公開法の定める「個人情報」に該当し、不開示となるという結果になります。
 一方、個人情報保護法の場合、請求者個人の情報の開示を求めるものなので、そのほかの不開示情報に該当しないのであれば(この部分が極めて重要です)、請求者個人の情報を「個人情報」に該当するとして不開示にするということはあり得ません。
 念のために申し上げれば、例えば、行政機関が取締りのために行った事情聴取の内容を記載した文書について、自分が話した内容であるからと個人情報保護法に基づく開示請求をしたとしても、誰に事情聴取をするのか、また、どのような内容を聞き取るか、話した内容のうちどの部分を記録に残すかというところは、行政機関の取締りに関するノウハウであったり、取り締まる側がどのような点に着目しているのかというようなポイントを示す情報であったりするとして、不開示になると考えられ、これは行政機関情報公開法に基づく開示請求の場合でも全く同じですから、この場合には、どちらの法律に基づいても開示不開示の判断は同じ、ということになると考えられます。

 私個人が具体的に書くことについては守秘義務もありなかなか難しいところではあるのですが、以下に示す総務省のウェブサイトに掲載されている情報をご覧いただければ、ある程度具体的な情報を得られると思います。

総務省の「情報公開・個人情報保護関係 答申・判決データベース」

総務省の「情報公開・個人情報保護審査会」の答申状況のウェブサイト

 続きはまた次回。