受付窓口担当の業務・不開示情報該当性の検討について(情報公開請求等の受付窓口担当だったときに考えていたこと その3)

受付窓口担当の業務のお話

 受付窓口担当としては、開示請求書を受け付けて、開示請求の対象文書を管理している部署に回して、スケジュール管理をする、ということで、基本的な業務は終わりになります。
 もっとも、受付窓口には開示請求者や請求を検討している人からの連絡・問い合わせが届きますから、これに対応するのも受付窓口担当の役割の一つでした。
 場合によっては、対象文書を管理している部署からの伝達事項を、受付窓口担当として、開示請求者に伝える、ということもしていました。

法曹資格を有する者として考え、アドバイスしていたこと

 私は、特定任期付公務員として、消費者庁に任用されましたから、求められていることは、法曹としての知識や経験を活かすことと理解して、業務遂行していました。
 情報公開請求は、行政手続法にいう「申請」であり、開示決定あるいは不開示決定はこれに対する行政処分ですから、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法を念頭に置いて、違法な行政処分を行うことの無いよう、また、手続において違法が無いように心がけていましたし、それを前提に窓口業務を行うとともに、行政文書を保管している部署に対してアドバイスをしていました。
 「その1」で受付段階のことを丁寧に記載しているのは、弁護士に復帰して行政庁のお話をうかがったときに、担当者がその場で悩んで対応しているという実情を知り、実際に担当者として動いていた私の考え方を示すことで、一つの示唆になればと思ったからです。
 情報公開請求の受付窓口には、様々な人からの連絡や問い合わせがあります。中には、対応に苦慮する例もあります。そういうときにイレギュラーな対応をしてしまうと、それ自体が行政手続法や行政手続条例に違反しているという状態を生み出しかねません。
 公務員の法令遵守義務を前提とする限り、法令や条例に違反する形で手続を進めるわけにはいきませんから、困ったときほど、原則を確認して対応するのが良い、というのが私の考えです。

不開示情報該当性の検討について(総論)

 少し横道に逸れましたが、現場の人が頭を悩ませる一番のポイントは、今回の請求の対象文書は、全面的に開示できるのか、それとも不開示部分があって、全面的あるいは一部を不開示にしなければならないのか、というところでしょう。
 「その2」でも少し触れましたが、対象文書そのものを見てみなければ、行政機関情報公開法や情報公開条例の不開示情報(条例によっては「非公開情報」という規定になっていることもあるようです)に該当する部分があるかどうかは判断不能です。
 このため、私の記事では、不開示情報の類型を示すことなどはせずに、受付窓口担当として行政文書を保有している担当部署から相談を受けたときに考えていたことや、実際に開示・不開示の案を作成する担当として業務を行ったときに考えたことを説明することにします。

 総務省の情報公開・個人情報保護審査会の答申や判決文では、文書中のある部分が特定の不開示情報に該当するとなった場合、そのほかの不開示情報に該当するか否かの検討をせずに(「その余を検討するまでもなく」という言い方がされています)、当該部分を不開示としたことは適法である、という判断を示すことが大半です。
 例えば、行政庁が法令や条例違反の摘発のために、被害に遭った人から事情を聴取して書面化したものについては、被害者が自身のことを話していますから、その書面はその被害者の個人情報が記録されているということにななります。
 一方、その書面は、先に示したように法令や条例違反の摘発のために作成したものですから、被害者から聴取した事情のうち、どういう情報を記録に残すか、ということを考えて作成しているわけで、こういう書面を複数集めると、行政庁が取締りにあたってどういうところに着目しているかということが判明するという側面があります。
 そして、行政機関情報公開法の開示請求の場合、誰でも請求できますから、それこそ、摘発を受ける可能性がある行為をしている事業者が、取締りを避けて違法あるいは不当な行為を継続するために、このような文書の開示を求めるということも可能ということになります。(請求者が誰であるかによって行政庁は対応を変えるわけにはいかない以上、行政庁としては誰であっても同じ対応をしなければならないわけです。)
 つまり、被害者から事情を聴取して書面化した行政文書については、被害者の個人情報が記録されているという側面もあれば、取締りの事務を行う行政庁の考え方が示されているという側面もあるわけで、この意味において、当該文書の同じ部分が、個人情報という不開示情報と、「公にすることで、取締りの事務を困難にするおそれがある情報」という不開示情報の両方に当てはまるということになります。

 ここで私が述べたいことは、ある不開示情報に該当したら、そのほかの不開示情報に該当しなくなるというわけではないので、不開示情報該当性については色んな切り口で検討する必要がある、ということです。

 また、行政庁の執務に支障を生ずるおそれがあるかどうかは、その担当部署でないとわからない、という側面がありますから、開示・不開示を検討する部署は、その文書に記録された情報が公になった場合に、どういうことが起こり、どういう形で執務に支障が出るのかという現場の声をきちんと聴いて検討する必要があるということも、強調しておきたいところです。

 不開示情報に該当して、マスキングされた状態で開示を受けるというのは、請求者にとっては不利益なことですし、行政機関が保有する情報というのは基本的には公開されるべきではあるのですが、一方で、個人情報であったり、行政庁の執務を妨げるおそれのある情報であったりが公開されてしまうと、当該個人の権利・利益が害されるとか、行政庁の執務が害されることで、行政庁の執務というサービスの提供が受けられなくなり、国民や市民に支障が生ずる、ということもあるので、行政庁としては慎重な検討が必要なのです。

 なお、行政機関情報公開法の不開示情報に関しては行政機関は公にしてはならない義務があるという条文解釈が示されていることからしますと、情報公開請求以外の場面で不開示情報に該当するものを公にするのは公務員の法令遵守義務違反となりかねませんから、この意味においても注意すべきということを記しておきたいと思います。
 もちろん、不開示情報に該当する情報を、公益目的で裁量的に開示するということはあるのですが、ある情報公開請求で誤って不開示情報を開示してしまうと、別の情報公開請求のときに不開示として、審査請求や訴訟でその点を争われた場合に、過去に開示した部分を不開示とする理由を説明する必要があることになって、なかなか大変になってきますから、開示・不開示の判断は慎重になされる必要があります。

 かなり長くなってしまったので、続きは別の記事で記すことにします。