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今こそ読みたい神マンガ

あしたのジョー

これである。

その名を知らない人はいないんじゃないかと言うぐらい有名なボクシング漫画であり、その固有名詞の浸透度合いは「タモリ」や「読売巨人軍」に匹敵するだろう。そして、僕はこの『あしたのジョー』にこれ以上ないぐらいインスパイアされまくった。

ケンドーコバヤシさんなどは引っ越しの際には「まず最初にどこに『あしたのジョー』を並べるか」から考えるらしい。

しかしこの『ジョー』
その知名度のわりに意外と読んでいる人は少なく、発行部数も2000万部と控えめだ。同じ2000万部前後のコミックを見てみよう。

『アイシールド21』
『ツバサ』
『魔法先生ネギま!』
『D.Gray-man』などなど。

いや、どれも著名な作品だし名作揃いだ。だが「ジョー」の知名度はこれらに並ぶだろうか。客観的に見てもこの中で、ケタ違いの知名度を誇っている。

「ジョー」の発行部数を調べた時に「少なっ!」と思ったのが正直な感想だった。1億ぐらい刷られてると思っていた(ワンピは3億2000万部、タッチ、鉄腕アトム、ドラえもんなどが1億部)

僕が『あしたのジョー』と出会ったのは小学生の頃だった。コミックを読みあさりまくっていた小僧の時期だ。

あの頃世の中はどんどん効率化が進んでいた。

消費税は5%に引き上げられ、アクアラインや高速道路が日本中に誕生した。WindowsというOSのおかげでパソコンは瞬く間に普及し、次第にノート型のパソコンまで発売された。
自分の感情を抑制できずに怒りが爆発する事は「キレる」という言葉にまとめられ、美容院やショップの魅力的な店員は、カリスマという言葉の枠に収まった。

「賢く効率的であることが何よりも正しい」
そんな時代だった気がする。

その最中、「ジョー」は僕のもとにやってきた。
文庫版が発売され、それを父親が僕に買い与えたのだった。1970年前後の作品の読み味は当時連載されていたコミックとはまったく違ったものだった。ジョーの生き様は90年代後半の時代とは明らかに逆を行くものだった。

イップスで首から上が打てなくなっても、吐き続けて戦う。成長期を迎え、減量が厳しくなっても階級を上げない。パンチドランカー症状で脳障害が末期になってもリングに上がる。そしてジョーは灰になるまで戦って廃人になった。

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一昨日、三団体統一王者になった井上尚弥くんとは大違いだ。彼は格闘家というか、むしろアスリートのような雰囲気がある。階級は同じだが、まったくジョーっぽくない。

「効率的に成果をあげる」が最高のステータスであった時代、僕にとってジョーの考え方、行動原理、生き様は衝撃的だった。

有名になることや、経済的に成功すること、健康に長生きすること、愛する人と生きていくこと。

それらは僕のまわりの大人や、世間が素晴らしいと賞賛することだった。子どもの僕にはそれらが素晴らしいことなのか、イマイチ分からなかった。そして、ジョーはそれらを何一つ欲していなかった。

ちなみにジョーも世間的に認められて、後半は経済的に潤っていく。

それでもジョーの安息の場所は孤独の中にあったし、長く生きることに価値を見いださない。それがなんか良いのだ。

世界戦の控え室で白木葉子の告白を受けるシーンや、乾物屋の紀子にボクシングを辞めるよう諭されるシーン。皆、ジョーの身を案じていた。だが、ジョーは一言礼を添えて、戦い続け、そして灰になる。

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今思えば、あの時ジョーが紀子の言いなりになっていたら僕は読むのを辞めただろうし、葉子を抱きしめでもしたらガッカリしただろう。

ジョーのすべてが、僕の知っていた世間とは逆を行った。そしてそれが不思議とシンプルに僕の胸を打った。

ジョーの試合は鬼気迫るものばかりであり、本能的に訴えかけるものがあった。
矢吹丈は「どうしたら自分の中の燃える炎を燃やし尽くせるか」を最優先に考えている。

そして最終回、完全に自分の中の炎を燃やし尽くし、自己実現を達成した。ジョーは有名になることや、経済的に成功すること、健康に長生きすること、愛する人と生きていくことに目もくれず、「灰になる」という一つの目的を達成した。

僕は『あしたのジョー』と出会ってから「効率よくやる」ということに、あまり価値を見いだせなくなった。その代わり、自分の中にある目的のために生きていくことに大きく価値を見いだすようになった気がする。

「自分の中のスピリッツを燃やして生きていきたい」と思うようになったのだ。

「自分に嘘をつかずに生きる」
「信念の道をまっとうする」

いろんな言葉が世の中にはたくさんある。

それを僕の前で分かりやすく体現してくれたのは矢吹丈だった。僕は人の感情を動かしたくて音楽を始めた。自分がジョーに心を動かされた時のように、誰かの心を動かせたら嬉しいとずっと思っている。

「どこまで燃やし尽くせるか」

これからもそう思って生きていきたい。


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