僕が二十歳の頃の闇バイト
以前より『闇バイト』なる言葉が飛び交うようになった。むかしからある出し子や受け子、かけ子も似たようなものなのだろうが、「宝石店のガラスをブチ割って宝物をパクる」や「狛江で強盗殺人実行犯」などというシャレにならないものが目立ってきた。
これらの闇バイトはSNSなどで募集をかけられ任務につく。「宝石パクれるやつ募集!学歴不問!」みたいな感じなのだろうか。
応募者の多くは15〜25歳ぐらいの若者だそうだ。
そしてバイト後の彼らは逮捕され、警察は指示役の人物にはたどり着かない。
こんな落語のような世界観があちこちで発火している。
しかしそもそも闇バイトが成立するのは、今の二十歳に需要があるからだ。「金は欲しいが金はない」のが青少年というものである。だからリスクを犯す。リスクをヘッジする能力はないのだが犯す。
じゃあむかしの若者はどうしていたのか。僕が二十歳頃の話をしたい。
僕がいまの闇バイターたちと同世代だった時代は、平成19,20年頃になる。
ライブドアショックや闇サイト殺人などが世間を騒がしていた。ソフトバンクモバイルの元年となり、スマホはまだこの下記画像レベルなので、闇バイトの募集などできない。
じゃあ僕たち「金は欲しいが金がない若者」は立ち向かったのだろうか。SNSがなかったあの時代、すべての情報は「電柱の張り紙」にあった。
僕は当時、大阪の十三に住んでいた。朝から晩まで散歩ばかりしていた。
金もないし明日もない。夢も希望もないので、基本的に外をウロウロするしかやることがなかった。徘徊以外の選択肢がないため、やたらと電信柱を眺めていた。
当時の電柱はやけに張り紙が多かったのだ。
そもそも電柱に何かを貼ることが合法なのか違法なのか知らないが、やけにいろいろ募集していた。
こういった張り紙がたくさん貼られていた。一つの電柱に対して4,5枚は貼っていた気がする。
ヒマかつ警戒心もゼロだったので、僕はこういったものに軒並み電話をかけていた。「もしかしたら奇跡の仕事があるのでは……!」と祈りながら携帯のボタンをポチポチしていたのだ。
たとえばこの張り紙を見たことがあるひともいるだろう。これはあの当時から存在した。もちろん僕はためないなくかけた。
「どういう仕事なの?」
「金持ちお姉さんの話し相手や遊び相手をするだけ」
「それでお金もらえんの!?すごいじゃん!」
「うん。どのお姉さんにするかリスト送るね」
「わかった!ありがと!」
「ちなみにこのリスト3万円するから」
「え!金払うの!?」
「でも仕事はじまったら3万なんてすぐだよ!」
「そうなの?」
「お姉さん達は金持ちだからさ、100万円とかもらえるよ!」
「マジで!?」
「じゃあ送るね。住所教えて!」
「わかった!」
こんな感じで3万円をパクられるのである。住所もバレるので、次々と詐欺の提案が送られるようになってしまった。
たぶん「ここに住んでるやつは馬鹿だから引っかかる」と思われたのだろう。「もう引っかからないぞ!」と誓いつつも送付資料はどれも魅力的だったので、一応すべてに目を通した。
アホ丸出しなのだが、そもそも19,20歳ぐらいの男というのはアホなのだ。これは令和の世でも平成の世でも変わらない。騙す側も騙すなら賢者よりアホを狙うに決まっている。
他にも違法風俗のポスティングなどの仕事があった。これは闇バイトにあたるのだろうか。
結末としてはシンプルにチラシ配りをサボって殴られ、それまでの賃金が払われなかった。さらに慰謝料をカツアゲされて一万円を奪われた。完全無欠の強盗である(労働した分を支払わないのは契約上違反)
他にもいろんな募集があった。
「ヤミ金の電話番!日本語が話せればOK‼️」
「東梅田駅で全身白ジャージで立っているだけ!180cm以上歓迎‼️」
「とぼけるフリが上手い人!一度連絡下さい!」
などというスパイシーな神バイトがゴチャゴチャしていた。大阪にある電信柱はキャッチコピーのアミューズメントパークだった。
こうした荒波に揉まれ、僕は大人になっていったのだが、平成の二十歳と令和の二十歳の差はこの「細かく騙される」という経験ではないだろうか。
きっと脳みそのレベルは大差ない。
「わしらのほうが今のやつらより賢かった!」なんて言うつもりはない。むしろ劣っているエピソードが多いと思う。
僕たちの時代がラッキーだったのは「いきなり大リーグ級の犯罪に巻き込まれる」みたいな悲劇がなかったことだ。僕にとっての日常である電信柱から繋がる先は、ショボイものばかりだった。
令和の世はみんなの手のひらに収まる日常の窓から強盗まで一直線だ。
警戒心や知的水準というものを養うのは経験だ。
僕だってこの時代ならば「一発で人生詰み!」なんて落とし穴にハマっていたかもしれない。細かく騙されたあの日々が今の自分を作っている。
そしてあの電柱に張り紙をしていたひとたちは、今どこで何をしているのだろう。東梅田に立っているだけのバイトは見つかったのだろうか。当時見えていたもののほとんどが、今は跡形もなく消えている。
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