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マクドで落ちこぼれたことを生かして経営し

僕が当時バイトをしていた頃のマクドナルドは軍隊のような階級区分があった。

下からCクルー、Bクルー、Aクルー、トレーナー、スター、スウィングマネージャー、マネージャーという順番だ。

Cクルーは将棋で言うところの『歩』である。歩には前進あるのみ!ひたすら肉を焼き続けたりソースをかけたりしてバーガーを製造する。

Bクルーは中堅。このランクになると花形である「ポテター」に就くことができる。Bクルーの質で店内の雰囲気が決まる。将棋で言うところの桂馬や香車だが、能力には個人差があるように思う。

そしてAクルーは戦闘員であるクルーの最上階級。彼らは将棋の飛車や角にあたる最強のバーガー製造マシーンだ。

クルーが地球上に何人存在するのか知らないが、このAクルーといういただきに到達できる割合は5000人に一人ぐらいな気がする。このレベルになると全員が大リーガーと考えても差し支えなく、紛れもないバケモノクラスになる。

トレーナーはその名の通り、クルーを調教するコーチ。昼のピーク時(エキスパートと言う)にナゲットや会計も含めたいくつかあるポジションを高い水準でこなせないと昇格を持ちかけられない。

スターはカウンターに一人は立っている綺麗なデザイン服を着たお姉さんを指す。すべての技術が高いレベルで搭載されており、トレーナーという立場であることもスターの条件になる。女性がなることがほとんどなので、チェスでいうところの最強の駒、クイーンと言える。

スウィングマネージャーは玉将。バイトでも社員同等の権限が与えられ、シフトなどを決める。そしてすべてを手に入れることができる。

このCクルーの一個下に「ニュークルー」という存在がいるのだが、僕はこれだった。クルーとして数えられないレベルの五軍みたいな存在だ。

マクドでは一ヶ月ぐらい働いたが、僕は永久にニュークルーのままだった。一緒に入った同い年のなつきちゃんは二日でCクルーになっていた。

ある日曜のエキスパート時、僕は自殺しそうな顔でバンズにケチャップやらマスタードやらを打ち込んでいた。信じがたい速度で運ばれてくるバンズの真ん中に、何種類ものソースを打ち込む。

ベーコンレタスバーガーにはBLBソース。ビッグマックにはビッグマックソース。フィレオフィッシュにはタルタルソース、てりやきにはマヨネーズ&てりやきソースと、音ゲーのHARD MORDのごとくパンが飛んでくる。

申し訳ないのだが速すぎて全然真ん中に決まらなかった。ソースの三分の一ほどがバンズにカスるだけで、殆どがラップにべちょりとなっちゃうのだ。

余談だがマクドを買うと、たまにバンズの外側にケチャップとかが付いていることがないだろうか?素手で持てないほどのレベルのものもある。あれは僕が作っているのだ。

とにかくバンズの猛スピードに付いていくのが必死だった。

無酸素運動のように全力でソースをかけていたその時、隣りでタマネギをぶっかけていたタカシくんという高校一年生のCクルーに「平井さん、仕事なんだからちゃんとやってくださいよ」と吐き捨てられた。

「やりなおし。俺、こんなバーガーにオニオン乗せられないっす」と言われ、僕の途中まで仕上げたバーガーはゴミ箱に捨てられた。

昼時になり、事件は起きた。

僕がてりやきの準備を怠っていたせいで、セサミバンズの大渋滞が起きた。

てりやきマックバーガーのオーダーが入りまくっているのに、マヨネーズも無いわ、てりやきソースも無いわ、レタスも無いわで、ゴマのついたパンだけがトースターからポコポコ出てきては山積みになり、被災地みたいになっていた。

タカシは「ちょっとー!なんで用意してないんすか!頭悪いんじゃないすか!てりは出るっしょ!?どう考えても!ていうか何で作れないの分かってて、バンズ焼くんすか!」とキレまくっていた。

僕は「なんでこんなうんこみたいなやつにこんなこと言われなきゃならないんだ……!」と的外れなことを思い、半泣きになった。視界がぼやけ、当たらないケチャップはさらに外れていった。ラップはもうべちょべちょ。

しかしこいつは本当に嫌な野郎なんすよ。
しかも店内にはAクルーの兄(21)がいるせいで将来を熱望されているホープ。スターのお姉さんにもかわいがられてたし、「ウィー」が口癖なんすよ。

ナゲットの注文が入ると「ウィー!ワンナゲットォォォプリーズ!」などと訳の分からない大声を出しすんすよ。お前に言われんでも作るがな。

そんな挫折ばかりのクルー時代なのだが、この経験を生かして、僕はエネルギー事業をjuJoeや「さよなら、バンドアパート」の時間の合間にやっている。

ちなみに電気代の値上げがすごいことになっているのはご存知だろうか。去年の1月と比較すると同じ使用量なのに4000〜5000円近く高くなっていることもザラだ。

消費税の増額どころの騒ぎではないので、洞窟を掘ってロウソクや薪を焚いて暮らす生活がいいんじゃないかとさえ考えてもいる。

そんな電気を使わない原始的ライフスタイルがベストなのだが、やはり電気ナッシングな暮らしにシフトしたとすると、このnoteも書けないし、エレキギターも鳴らせない。どう転んでも僕たちの文化的な毎日とエレクトロニクスは切り離せなくなってしまった。

そんな時流に乗っかって、僕はエネルギー事業の会社を経営することになった。

パネルで電気を作ったり、電気を箱に貯蔵したり、空気から熱源を作り出して、それで湯を沸かすなどの魔法のメカを販売している。

太陽バッテリーの歴史は1839年に原理が発見されたことから始まる。これは高杉晋作が生まれた年なのでバキバキの江戸時代だ。熱力学の歴史も19世紀後半には確立されたものなので、エネルギーの成り立ちはIT事業なんかと比較すると古い。

目に見えないものだが、僕たちの暮らしを根本から支えているのは間違いない。マクドで例えるならバーガーを作るためのキッチンの台みたいなものだ。

そんなメジャーな事業なので、別に独自の発明をしているわけではないのだが、それなりに工夫っちゃ工夫もある。

「販売してプロモーションしていく流れ」だ。カッコよく言えば、「服というものにオリジナリティはないが、売り方で独自性を示したZOZOTOWNと同じ」になる。

企業のかなめ、何を武器としているかというのは会社の数だけあるが、これは「高い確率で勝利を収められるか戦術」と言いかえてもいい。
「一定の試行回数と期間を設ければ失敗しないよね!」というものだ。

僕があの地獄のクルー時代から導き出したかなめとは「初心者の育成」である。

マクド以外にもいろんなアルバイト先を渡り歩き、あらゆる場所で能無しとして君臨してきた。「幼稚園児じゃないんだから」と二十歳になっても言われるレベルのお荷物だった。どんな仕事でもラップをケチャップまみれにしてきたのだ。

そして怒られる度に感じたことは「いや、その教え方では分からん……」というボヤキだ。ほとんどのバイトメンバーができるのだから淘汰される存在としか思えないのだが、当の僕は「まったく……もっと俺を上手く使えよう」と天才気取りだった。

こんなやつが自分の会社に来たら間違いなく面接で落とすのだが、今の「初心者の育成」を深く考えるキッカケになったのは間違いない。

うちの会社では

1.自分の経験をメカニズム化して部下に教える
2.部下はそのメカニズムを法則として仕事する
3.部下はその結果を上司に投げ返す
4.上司は結果をもとにメカニズムを改良する

という育成プログラムがあるが、この「メカニズム」が理科の実験で言うところの「仮説」にあたるのが大きい。

世の中はこの「仮説」を個人に預託してしまっているパターンが多いように思う。そうなると僕のような「勘の悪いやつ」は淘汰されてしまう可能性がグッと上がらないだろうか。

初心者と経験者の差は「仮説」のリアリティにある。これは僕がタカシの野郎から学んだことだが、土日にあんなにてりやきマックバーガーが出ることは初見では絶対に辿り着けない知見なのだ。

それなのにレタスを用意する量、てりソ(あの黒いベタベタしたソースのこと)、マヨネーズ(マヨネーズはてりやき以外に使用しない)の準備をしていなかったミスをキレられながら言われても困る。

この「仮説」は「予測」とも言えるし、精度はつまるところ経験値による。ならば仮説に関しては経験者が立てるべきだ。

そして僕はタカシがタカシの兄にチクりやがったせいで、「ボケが!土日の昼にてりやきが出るぐらい分かるやろがい!」と怒鳴られたのだが、これどうなのだろう。

たしかにそんな気もしてくるし、僕がボンクラなのは揺るぎないが、分からんっちゃ分からなくないだろうか。Aクルーが見えている景色をニュークルーに「見えるはず」と説いてもピンとこない。別に全部のメニューが均等に出るんじゃないかと思っていた。

「仮説をシェアして初心者と試行を共にすること」さえできれば、試行回数の質を追い込むことができる。それでいて技術が稚拙な者で検証したほうが、よりメカニズムは正確に近づいていく。

そして何よりも試行回数の総量を増やしやすい。経験者よりも初心者のほうが地球上には多いからだ。

「初心者を雇い、戦力化する」というパターンがあればそこら中が人材バンクになる。「どこの国の誰でもできるしくみこそ最強」というのはマクドで学習したことだ(僕はできなかったけど)

じつはマクドナルドはバーガー屋ではなく、しくみ屋さんなのだ。

現代の仕事はシンプルなものが少ない。極めて複雑な仕事である以上、「俺の背中を見て学べよ」は責任放棄と同値になる。

マネジメントシステムの中で雇用を作っていくことを学んだことを考えると、マクドでバイトしていたことも良かったのかもしれない。

僕には「経営の資質」なんてものはないのだが、「仕事なんてできなくて当然。ニュークルーなのだから」という前提で考えられる経営者になれた一点に置いては天職だと感じている。

僕の会社には基本的にコミュニケーションの初心者みたいなのが入ってくることが多い。そんなかつてのニュークルーだった僕のような連中が、成果を上げてくれると、15歳の自分も成仏した気にさえなる。タカシやタカシの兄を超えてくれたらやはり嬉しい。

ちょこちょこ働きたいひとがなんだかんだ毎月やってくる。冷やかしも多いがまぁそれもあり。ありがたい限りである。

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