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1000万回再生超えのYouTube動画を多数企画。誰もやらないことをあぶり出すダンプさんの分析力【コンテンツ作家のTAKURAMI】

​​「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。コンテンツ作家・ダンプさんが登場。

YouTubeやTikTokなどSNSを主戦場に、テレビ番組、Web動画広告の制作、
お笑いライブの企画まで幅広く手がけるコンテンツ作家のダンプさん。

Z世代を代表する26歳の若手作家は、四千頭身、土佐兄弟、丸山礼などのYouTubeチャンネルを企画し、中でも立ち上げ直後から携わる四千頭身のチャンネルでは1050万回再生を超える動画も担当するなど、その気鋭っぷりを発揮しています。

そんなダンプさんの企画を支えるのが、自身の分析力。

「分析を武器にして、今の時代にないものをつくる」と話すダンプさんは、チャンネルの向こう側の視聴者を、そして世の中を、どんなふうに見て企画に活かしているのでしょうか。

ダンプさんの企画の源泉は、分析力

──四千頭身、土佐兄弟、丸山礼さんらお笑い芸人のYouTubeチャンネルを手がけるダンプさんですが、“コンテンツ作家”という肩書きでどんな仕事をされているのか教えてください。

仕事の一番のメインは、YouTubeチャンネルで企画を考え、撮影に同行することです。YouTubeでは、お笑い芸人さんをはじめ、ざっくり10から15チャンネルくらいは何かしらの企画に携わっています。最近は、YouTube FanFestという、YouTube上にクリエイターやアーティスト、ファンが集う祭典の企画も考えました。

リアルな場では、芸人さんのライブ企画もしています。企画が必要なところなら媒体にこだわらずに飛び込んでいる感じです。

──テレビの構成・放送作家もされていますよね。幅広い媒体で活動するダンプさんにとって、「企画する」とはどういったことでしょう?

うーん……。企画を出すとき、特にYouTubeでは、「チャンネルの視聴者が見ているほかのチャンネル」や「自分たちと似たようなチャンネルの企画」などを分析して、その分析から大幅にズレたことはやらないように意識していますね。自分の分析と今抱えている視聴者が関心を持っていそうなことをかけ合わせて、新しい企画をつくることが多いかもしれません。

──ダンプさんが分析に基づいて企画する理由は?

一番の理由は、僕がセンスだけで企画するタイプじゃないからです(笑)。センス2割、ロジック8割くらいの割合で企画を考えています。だからYouTubeの分析ツールから数字だけでなく、「いつ」「誰が」「どんなときに」自分たちの動画を見ているのかを常に追っていますし、「視聴者が普段見ているチャンネルはなんで、なぜそれが好きなのか?」「はやっている理由はなんなのか?」まで考えます。

例えば、土佐兄弟さんがTikTokからYouTubeへ新規参入したときも分析から企画しました。当時、TikTokからYouTubeに参入してくることは、「お金を稼ぎにきた」みたいに見られがちだったんです。それが登録や視聴の壁になっていました。そこで土佐兄弟さんの場合は、「TikTokでバズっている土佐兄弟の動画がYouTubeで違法転載されている」という見せ方で、まとめ動画を出すことにしたんです。

なぜその手法を取ったのかというと、当時、ふつうの女子高生が制服でダンスするまとめ動画や口パクのまとめ動画が、違法転載という形でYouTubeにあふれていたんです。しかも、チャンネル登録者は少ないのに再生回数はすごく伸びている。その理由を「厳選されたものが見れる」と「親しみやすい素人感がある」と分析し、YouTubeに新規参入していく土佐兄弟さんにも応用したんです。

後々にYouTubeへ流れてきたTiktokerたちは、結構タイトルに【TikTok総集編まとめ】のような隅付きカッコを入れたりしていますけど、最初にやり出したのは土佐兄弟さんとラパルフェさんの2組だけだったんじゃないかと。

──その時代のYouTubeにはなかった、新しいフォーマットをつくったんですね。

たまたま分析がうまくいっただけですけどね。でもたしかに、分析を武器にして、今の時代にないものをつくることが僕にとっての企画なのかもしれません。現在準備中のYouTubeチャンネルも、今の時代にないことをやるのが目標なんです。

「誰もやらないだろう」へと導く、ダンプさんの分析

──四千頭身のチャンネルで、オーディション番組『Nizi Project』を模して全5回に渡って行った企画『Gozi Project』。集大成として発表したNiziU『Make you happy』MV完全再現動画はチャンネルの代名詞ですが、この大型企画はどのように生まれたのでしょうか?

もともとは四千頭身の後藤拓実さんが、『Nizi Project』がはやり出したときくらいに「J.Y. Parkさんのモノマネをやりたい」と言い出したことから生まれた企画です。でもJ.Y. Parkさんのモノマネって、いろんな人がやるだろうと予想できました。そこだけやっても単純にもっと器用にできる人に負けてしまう。

だったら四千頭身は、オーディションからデビューまで再現する企画をやろうとなったんです。当時、すでに高校生がミュージックビデオの完全再現をし始めていたけど、Nizi Projectというストーリーまるごとの再現は、さすがに誰もやらないだろうと思えましたね。

また、J.Y. Parkさんのモノマネを単体の企画にしなかったのは、そもそも「無名の少女たちが成長してデビューする」というストーリー性に、Nizi Projectが盛り上がる理由があるから。また、YouTubeという媒体自体も、「チャンネルとしてこうなっていくというストーリー」を視聴者と共有し合うことが、とても大切なんです。

両者の特性を活かすために、自分たちが再現するときもひとつの企画を点ではなくつながっている線として見せる形にしました。いろんなかけ合わせがうまくいって、1000万回再生超えにつながったんだと思います。

──ダンプさんは分析するとき、ただ視聴者の属性や世の中の売れているものを追うのではなく、「なんでこの人がこれを見ているんだろう?」「なんでこれが売れているんだろう?」と踏み込んで考え、自分なりに解釈しているのだなと。

売れるものって、コンテンツの中身がいいものであることは大前提で、「売り方」の部分に売れる理由があると思っています。だからSNSに限らずに、その売り方の部分を「きっとこういう仕組みで売れたんだ」と自分なりに落とし所をつける作業を、普段から意識してやっています。

例えば僕は今、リアルイベントの企画に力を入れているのですけど、それも自分なりの落とし込みをした上でやっている。どういうことかというと、まず今、渋谷のクラブや路上に若者がたくさんいます。それは単純にその場所が楽しいだけではなくて、「コロナ明けで、お金はないけどオフラインを楽しみたい思いが現れている現象」と考えています。

こういった自分なりの落とし込みから、何をやるのかだけでなく、誰に届けるのか、いつやるのかを考えていくことが、企画を考えるときに大切なことですよね。

「結婚式の余興」のように、届けたい人のことを考えてみる

──企画のスタートが、自分の思いから発進する人は少なくないと感じる一方、ダンプさんは、視聴者や社会の事象など自分の外側にあることから企画している印象を受けました。

僕は分析で戦っているので自然とそうなるんでしょうね。企画のスタート地点は人それぞれでいいと思っています。でも、何を起点にスタートするのかに関わらず、誰に届けるのかを意識することは売れる企画をつくる上では大切なことです。自分にとっての「面白い」や「うまいこと考えたな」という達成感は、必ずしも見た人の面白さに直結しないので。

──ヒット企画を企むための一歩として、届けたい人に企画を届けるためのアドバイスはありますか?

届けたい人のことを考えて企画することは、結婚式の余興に近いと思っています。余興って自分たちだけが楽しいことをやると、滑るじゃないですか。例えば腹踊りとか、一番は結婚するふたりに喜んでほしいのに、ふたりが喜ばないどころか親族まで興醒めしちゃう(笑)。でも、結婚したふたりのことを本当に思って選んだ歌を一生懸命に歌うとかなら、たとえ下手でも感動すると思うんです。

そういうふうに届けたい人のことを考えて企画することって、じつは難しいことではなく、身近な人を喜ばせることから始められると思います。友だちにドッキリを仕掛けたりとか、恋人にサプライズするとか。みんな意識していないだけで日常的にやっていることだと思いますし、それこそが企画するということじゃないのかなって。

■プロフィール

ダンプ
1996年、北海道帯広市生まれ。19歳の頃にワタナベエンターテインメント養成所の作家コースに入る。養成所生時代に、ニコニコ動画の企画に携わっていたところ、四千頭身のマネージャーに誘われ、2017年から四千頭身のYouTubeチャンネル「YonTube」の企画・編集を担当。以降、多数のYouTubeチャンネルの企画に携わる。TikTok、テレビ番組、WEB広告動画のほかに、ライブイベントなどリアルな場でも企画を手がける。好きなお笑いコンビはダウンタウン。漫画は月間100冊ほど購入。

取材・文:小山内彩希
撮影:長野竜成
編集:くいしん