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面白い場を生み出すためのTAKURAMIとは──ゲームクリエイター米光一成さん

「企む=企画する」楽しさを通じて、未来を面白くするTAKURAMIを考えるキッカケになれば!そんな場を目指して、マスナビは新しいラボを2022年からスタートしました。

本格スタートに先立ち、今回はTAKURAMIのプロフェッショナルにインタビュー。大ヒットゲームの『ぷよぷよ』やボードゲーム『はぁって言うゲーム』の生みの親の米光一成さんに、ゲームに限らず面白いことを企画するコツを伺いました。印象的だったのは「企画することはみんな当たり前にやっている」ということ。その真意に迫ります。

企画することは特別?

──米光さんが考える「企画」とはなんですか?
「企画」とは「なにかを計画して準備をし、実行すること」だと考えています。これは誰もしがやっていることですよね。例えば「ピクニックに行く」となれば、いつ、どこに、だれと行くか、なにをするか、雨だったどうするか、を考えます。これも立派な企画です。なにかを面白くするために、面白い場を生み出すためにみんな企画をしているのです。それが企画だ、と気づいていない人だって、みなさん日々企画をしていると思いますね。

──日々の生活の中に企画するチャンスが埋まっているのですね。企画出しのポイントはありますか?
一つは小さく企画すること。いきなり大きい企画をしようと思ってもうまくいきません。小さく企画して、それを積み重ねていけば自然と面白くなっていきます。

また大きな企画をしないといけない場合には、いい加減な設定にすること。最初から緻密に考えすぎると、どこかに矛盾が発生したときに破綻してしまいます。おおよその方向性を固めておけば、問題が発生したときにその方向性に沿って解決することができるのです。

また専門性が高くなるとオリジナルの企画が出せるようになります。誰も試みていないようなニッチなことを攻めると需要があったりします。私は、“こっくりさん”を研究していて、こっくりさん専門家としての顔もあります(笑)。ニッチな領域の専門家になると、他の人にはない発想が生まれることもあります。

ゲームづくりの中で求められた企画力


──そんな米光さんですが、企画職に就くまでのキャリアについて教えてください。
新卒で10人程度のゲーム制作会社に入社しました。会社の規模も小さいのでみんなでワイワイしながらゲームをつくっていました。役職はディレクター兼プランナー。ちょうどファミリーコンピュータが登場したことでゲーム市場も大きくなっていく過程で、製作期間も伸びていました。そうなるとそれまでは勢いでつくれたものが途中で破綻をしてしまいます。そうならないように、ディレクターという立場で作品の方向性を考えて、まとめる仕事をしていました。方向性を指し示すにはこのゲームはこういったコンセプトだ、というのをしっかりと説明する必要があったので、コンセプトを考える力、つまり企画力が必須でした。

──企画力はどうやって身につけていったのでしょうか?
全部書き出すことです。例えば、『ぷよぷよ』をつくっているときの話。もともと『テトリス』という落ちゲーがあり、その系譜に当たります。でも二番煎じになるのは嫌でした。そこで、ゲームを考える時に、『テトリス』をキーワードにしてA4用紙1枚にワーッと書き出していきました。「ブロック」や「数学」などです。そうすると、『テトリス』の好きなところは実は「硬い・ソリッド」なイメージにあると感じたのです。だから「硬い・ソリッド」を反転させて「柔らかい」をキーワードにしてみたらいいのではという発想から『ぷよぷよ』は始まっています。

──要素に分解をしていくのですね。
そうです。大事なのは、自分で高いハードルを設けないことです。くだらないものは書くべきではない、と思ってしまう人が多くいます。でもくだらないもののなかから面白いもの、想定外のものが出てきて、オリジナルが生まれると思っています。

「企画」について教える機会が時々あります。その授業では「10分間で100個、自分についてキーワードを書いてみて」という課題を出します。全然書けない人も多いです。この場合、思いついていないわけではなくて、「これはくだらないから書かないほうがいいな」と自分で制限を設けてしまっています。

「テトリスの良さとは」と筋道を立てて書くと、自分が思ったことしか出てきません。ただ、キーワードをひたすら書いていくと、自分が考えつかなかった筋道が見えてくることがあります。このキーワードとこのキーワードは一見離れているけれども、別のキーワードを挟むとつながって、自分がこれまで考えていた筋道ではない、別の筋道(企画)が出てくるのかなと思いますね。

SNSで周りと比べてしまう人にエール


──学生に向けたメッセージをお願いします。
今の学生の皆さん企画のプレゼンテーションが上手なんです。とある学校で授業を持っていますが、皆さんプレゼン慣れしている。すごいことなのに、「自分はまだまだです…」と自信がない人が多いです。SNSで同年代のすごい人が見えすぎているのかもしれません。

自信をつけるためには、授業や他の人から言われてやるのではなく、自分から主体的にチャレンジすることが必要です。授業内の課題としてやっていると自信になりづらい。主体的にプレゼン・発表して、その先にあることにアプローチする。企画は、あくまで実行するための試案であり思案なので、実行することが大切です。どういうふうにピクニックやろうかと考えても、実際にみんなで丘に行ってみないと、その企画が良かったのかどうかわからないですからね。


■プロフィール

ゲームクリエイター 米光一成氏

1964年、広島県生まれ。大学卒業後の1987年にゲームクリエイターとしてコンパイルへ入社。ロールプレイングゲーム『魔導物語』や名作パズルゲーム『ぷよぷよ』を制作。近年は『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』『あいうえバトル』などのアナログゲームでヒット作を生む。また、デジタルハリウッド大学の専任教授として「ゲーム制作ゼミ」を担当するほか、編集者やライターを養成する宣伝会議の「米光クラス」、池袋コミュニティ・カレッジの「ゲームづくり道場」など、クリエイターの養成にも力を注いでいる。