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レンジで温めて“冷たく”食べる。ニチレイフーズ「冷やし中華」を生んだ、当たり前にとらわれない企画術【冷凍食品のTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品・映像・音楽・写真・物語など、世の中にワクワクする企画を提案する方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その「企み」を紐解きます。今回登場するのは、ニチレイフーズのヒット商品「冷やし中華」を担当する蟹沢壮平(かにさわそうへい)さんです。

夏に食べたくなる定番といえば、冷やし中華。

暑くて食欲がない日でも、冷たくさっぱりと食べることができますよね。でも、いざ家で作ろうとすると、麺を茹でて、具材を細かく切って、茹で上がった麺を氷で冷やして……。意外と手間がかかってしまいませんか?

そうした手間をすべて省いたのが、ニチレイフーズの冷凍食品「冷やし中華」。レンジで温めるのに“冷たく”仕上がる画期的な調理法が、SNSや多くのメディアで注目を集め、2022年3月に発売されると200万食以上を売り上げる大ヒットを記録しました。

自家製煮豚や錦糸卵などの具材もすべてトレイに入っているので、本当にレンジでチンするだけで、冷やし中華を楽しむことができるんです。

レンジで温めて“冷たく”食べられる、その秘密はトレイに入った「氷」。

氷には、電子レンジで加熱するときに使用されるマイクロ波の影響を受けにくいという特性があります。その特性を活かすことで、レンジで調理した後も氷が残り、冷たい状態で食べることができるのです。

「レンジで温めて“冷たく”食べる」という今までになかった発想は、どのようにして生まれたのでしょう? 商品担当の蟹沢壮平さんにお話を伺いました。

「温まりにくい」を逆転させ、「レンジで冷たい!」へ

──ニチレイフーズには様々なジャンルの冷凍商品が豊富に揃っていますよね。今回、「冷やし中華」を開発することになった経緯について教えてください。

冷凍食品といえば長年、ハンバーグ、コロッケ、春巻きなど「お弁当用のおかず」が主軸でした。ですが、時代とともに利用されるシーンは増えて、「食卓のおかず」となる唐揚げや炒飯なども人気の商品に。冷凍食品が次に求められる場面はどこかを考えたとき、一人暮らしや共働き世帯の増加、さらにコロナ禍で、ひとりで食べる「個食」のニーズが高まっていることに注目したんです。

調理も片付けの手間も大幅に削減できる冷凍食品は、おひとり様の強い味方になることができます。ひとりでサッと食事を終えるためには、一品だけで完結する料理がベスト。一食で完結する料理といえば、麺類。実際に冷凍食品市場では麺類の売り上げが伸びていたので、冷凍麺のジャンルで商品を開発しようということになりました。

一般的に家庭で食べられているけれど手間がかかる料理、かつ、他社との差別化を図るために誰もまだ開発していない麺類を考えた結果、「冷やし中華」に行き着いたんです。

──電子レンジだけで調理できる「冷やし中華」は、業界初の商品だと伺いました。レンジで温めるのに冷たく食べられる、というのは新しい発想ですよね。

冷凍食品って霜がついてしまうとレンジにかけてもその部分が溶けにくくなって、加熱にムラが生じる原因として捉えられていました。そのため通常、商品には霜がつかないように、様々な工夫が施されています。

ですが、「温まりにくい」ことを逆に活かすことができないか?と、20年ほど前に冷やし麺を試作していたデータが残っていました。ただ、当時は商品化までには至っていなかった。この温まりにくいという技術を応用すれば「冷やし中華」を商品化できると考え、開発がスタート。「レンジで温めても冷たい」を実現させました。

「記事にしたい」「発信したい」を生み出すプロモーション戦略

──まさに“逆転の発想”から生まれたのですね。「レンジで温めても冷たい」調理法は、様々なメディアで取り上げられ、大きな話題となりました。プロモーションで意識されたことはありますか?

通常、メディアの方々に向けた新商品のPRでは、試食会で商品を食べていただくことを重視しています。ただ、この「冷やし中華」は美味しさはもちろん、調理法自体も面白い商品。食べていただくだけではよさが伝わりきらないと思いました。そこで「調理体験会」を開催し、みなさん自身にレンジで実際に温めてもらうことで、レンジで温めるのに冷たく仕上がることを“体感”していただきました。

──「食べてもらう」のではなく「作ってもらう」というのは斬新ですね。

メディアの方々の反応は非常によくて、会場も大いに盛り上がりました。驚きの調理法をそのまま記事にしてくださるメディアが多く、今まで発売されてきた新商品で一番記事化される率が高かったんです

発売前から話題になったことで、スーパーなど販売店から「商品を置きたい」という問い合わせも殺到。さらに、Twitterでも発売前に「冷やし中華チンしました」と題して先行試食キャンペーンを実施。SNSで多くの方々が調理の様子を発信してくださって、ますます話題となりました。

──「私もつくってみたい!」という人がどんどん増えて、今回の大ヒットが生まれたのですね。

パッケージも、レンジで温めるのに冷たいという驚きの調理法を伝えられるように意識しました。

2022年3月発売パッケージ

「シズル」といわれる、いわゆる美味しそうなそそる商品カットだけでなく、調理前のトレイ全体の姿も俯瞰で撮って載せることで、中に氷がそのまま入っていることがわかるように。「びっくり!レンジで冷たい!」という文言も入れて、「どういうこと?」「試してみたい!」と思ってもらうことを狙いとしました。

2023年3月発売パッケージ

企画とは「当たり前」にとらわれないこと

──蟹沢さんが「企画」するうえで、大事にしていることはなんですか?

今目の前にあるものを、当たり前だと思わないことです。常識にとらわれていたら、それを超えるものを創り出すことはできません。「もう少しよくできないか」とか、「こんなのあったらいいな」とか、そういう視点を常に意識しています。

──今回の「冷やし中華」のように「新しいもの」をつくるには、何が必要だと思われますか?
ゼロから創り出すというより、これまでのものに「積み上げる」という意識が大事だと思います。今まであったものに、何か一つだけでもプラスする感覚です。私は大学で食品科学の研究をしていたのですが、先行研究に少しずつ「自分の研究」を足していくことの繰り返しでした。

何もない状態から、いきなり世紀の大発見が生まれることは滅多にありません。長年かけて積み上げられてきたものに、自分も何かを積み上げることで、オリジナルが生まれるのだと思います。

ニチレイという会社は75年以上の歴史があり、様々なノウハウが蓄積されてきました。今回の商品も、蓄積されてきたものがあったからこそ、開発できたものだと思っています。

──そうなると、これまでの歴史やノウハウをインプットすることも大事な作業ということですね。

そうですね。私は本を読むのが好きで、ビジネス本や食関係だけでなく、歴史書や小説などジャンル関係なく読んでいます。多面的に物事を捉えることって大事なことだと思うんです。自分の頭の中だけで考えるのではなく、できるだけたくさんの情報に目を向けるようにしています。自分の頭が正しい答えを知っているとは限りませんから。

ですが、何より大切なのは、考える前に「まずはやってみる」こと。やってみないと、何が足りないのか結局わからないんですよね。いくら本を読んだり、人の話を聞いたりしても、自分で行動してみなければ何も始まりません。何かやりたいと思ったなら「まずはやってみる」。行動すること、生み出すことこそ、企画の醍醐味ですから。

■プロフィール

蟹沢壮平
株式会社ニチレイフーズ 家庭用事業部家庭用商品グループ在籍。2015年株式会社ニチレイフーズに入社。「冷やし中華」をはじめとする麺類や、グラタンなどの家庭用冷凍食品の商品を担当する。


取材・文 冨田ユウリ
取材・編集 小山内彩希
編集 くいしん