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ロジカルに発想しない。“泡パ“のAfro&Co.はなぜ、未知なる体験を生み出せるのか【イベントのTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。今回登場するのは「泡パ」をはじめ独創的なイベントを生み出す「Afro&Co.(アフロアンドコー)」のクリエイター・アフロマンスさんと、2023年4月より代表取締役に就任した山崎剛弘さんです。

「泡パ」をご存知ですか? 

泡パとは泡パーティーの略で、DJ音楽の中で大量の泡にまみれながら踊るイベントです。

もともとは地中海の楽園・イビサ島の名物パーティーで、2012年にクリエイターのアフロマンスさんが原宿で主催し、SNSのみの告知だったにも関わらず定員の10倍以上の3000名を超える応募が殺到しました。

大人気イベントとして、その後は毎年開催。コロナ禍で一時休止となりましたが2023年夏にもパワーアップして開催され、会場は熱気に包まれました。

既存の枠組みにとらわれず、新しいパーティーシーンを創り出す集団「Afro&Co.」。

「泡パ」以外にも、焼き芋を食べながら街中を巡る路面電車「マグマやきいも電車」や、車で楽しむ音楽フェス「ドライブインフェス」など全国でさまざまなイベントを開催し、誰も味わったことがない体験を届けています。

Afro&Co.はどのようにして斬新なイベントを、次々と生み出しているのでしょうか。今回は「Afro&Co.」の企画の考え方について、アフロマンスさんと、2023年4月より代表取締役に就任した山崎剛弘さんに話を聞きました。

連想ゲームのように発想するのではなく、「面白い」からアイデアを考える

(キャプション)左:山崎剛弘さん、右:アフロマンスさん

──「Afro&Co.」は独創的なイベントを次々に開催されていますが、どのように新しいアイデアは生まれてくるんですか?

山崎:アイデアはすべて「これって面白くない?」がスタートです。思いついたアイデアをみんなで持ち寄ってブレストして、その中からコアアイデアとなるものを決めていきます。自分がワクワクするかがベースでアイデアを考えているので、ぶっ飛んだ発想がたくさん出てきますよね(笑)。

アフロマンス:アイデア出しの段階で大事にしているのはフィーリングです。ロジカルな視点は企画にしていく段階で検証すればよいと思っています。

──単純に面白いと感じるかを軸にアイデアを出すのですね。「なぜこのアイデアなのか」といったロジカルな説明は必要ではないのでしょうか?

アフロマンス:多くの人はアイデアを考えるときに、無意識レベルで連想ゲームのように関係あるものをつなげて発想を広げていくんですが、それだと斬新なアイデアって出にくいんですよね。

ロジカルに考えれば、否定されにくい一見“正しい”案は出せるのですが、なんかつまらなかったり、心が躍らないものになりがちです。実際、自分がモノを買ったり、どこかへ行くときって、ロジックだけで行動する訳ではないと思います。だから、ロジカルじゃない部分が大切なんです。

たとえばチケットを売るためには、安くすれば買ってくれる人が増えるかもしれない。だから「割引しよう」「2枚チケットを買ってくれたら1枚分は無料にしよう」という方法に否定はないし、実際ある程度有効だと思います。でもそこにワクワクはしないですよね。動機づけのアプローチを、ロジカルで考えて探るのではなく、ちょっと回り道しても人の心を動かすものをつくりたいんです。

山崎:アイデア出しの段階では、発案者に論理的な理由を求めません。まずは風呂敷を大きく広げて、自分が好きなものとかダジャレとか、なんでもいいからアイデアを出していきます。

──「Afro&Co.」は自社で主催するイベントだけでなく、商品PRのためのイベントも多く手がけられています。クライアントへ説明が必要そうですが、PRイベントもロジカルではなく「面白い」から発想していくんですか?

アフロマンス:そうですね。商品の魅力をストレートに伝えるだけではなく、「面白い」企画によって商品の可能性が何倍にも膨らむことがあると思っています。

アフロマンス:以前、佐賀の日本酒をPRするためのイベントをプロデュースしたのですが、PR方法を論理的に考えようとすると、商品を深掘りしていくと思うんです。どういう人がつくっているのか、どういう製法でつくっているのか。そこから連想して企画を考えると、日本酒好きばかりが集まるイベントになりがちで、クライアントもそこに課題を感じていました。

そこで「お酒は飲むけど日本酒はよく知らない」若い女性をターゲットに新規層を獲得したいという話があり、日本酒に興味がなくても「これは体験したい」が入り口になって、商品に興味を持ってもらう機会をつくろうと思いました。

イベントの開催が新酒の時期の3月ということもあり、そこで企画したのが、120万枚の桜の花びらに埋もれるチルアウトバー「SAKURA CHILL BAR by 佐賀」。大量の花びらに埋もれながら佐賀の日本酒を楽しめるというインパクトのある体験をつくりました。

記憶に残る体験って、商品をPRする上ですごく大事だと思っています。花びらに埋もれた体験は一生忘れないし、体験者は春になって桜を見るとき、SAKURA CHILL BARや佐賀の日本酒を思い出してくれるはずです。

山崎:現代は情報が溢れていてほしいものはなんでも手に入るから、もともと興味がない物をいくらPRしても見向きもされません。強いインパクトがないと、商品へのアテンション(注目)はつくれない。だからロジカルでは辿り着けないアイデアに、いかにジャンプできるかがポイントになると思います。できるかできないかの実現可能性は、アイデアを出したあと「企画」にしていくときに考えます。

ロジックを組み立てることで「企画」にする

──実現できるかどうかは、アイデアを企画にするときに考えるのですね。企画にするには何が必要ですか?

山崎:アイデアの実現に向けて企画を練っていく段階は、一番泥臭くてエネルギーを使いますね。先ほど、ロジックからアイデアを考えないと言いましたが、企画にするときにはロジックを組み立てることが必要で、ロジックをつなげていくと実現できるか検証することもできます。これまでうまくいったイベントって、振り返ってみると全部ロジックがぴったりハマっていますよね。

アフロマンス:そうそう。僕たちにとって企画は、「面白いアイデア」を実現させるための「ツール」なんです。やりたいことをどう表現するのか、どうやって人を巻き込むのか、そこで役立つのが企画。ロジックをうまく組み立てられるかどうかで、結果が大きく変わってきます。

──企画にするときには、どうして「面白い」だけではだめで、ロジックが必要になるのでしょう?

アフロマンスみんなの理解を得るためにはロジックが必要だからです。例えば以前、「Slide the City(スライドザシティ)」という都心部の道路で屋外スライダーを楽しむイベントを開催したんですけど、やりたいと思ったきっかけは、僕自身が「やったら絶対に面白い!」と思ったから。やったときに街が盛り上がる絵も思い浮かびました。でも道路を借りるためには行政の理解を得る必要があって、「面白そうだからやりたい」だけでは話が進みません。

そこで調べてみると、国土交通省が道路のイベント利用を推進しているということがわかったんです。もともと道路ってコミュニティスペースで、お祭りとか地域の人たちが集まれる場所。だからもっと道路をコミュニティスペースとして活用できるように見直していこうということを国が推進していました。

このイベントはまさに道路をコミュニティスペースとして活用できる、ひとつの形。論理的な説明ができると誰もが納得できます。

──たしかにロジックがつながると、誰しも納得できますね。

アフロマンス:いろんなクリエイターと接していると、面白い発想はできても「企画にできる人」は少ないように感じます。SNSで面白いことをたくさん発信しているけど、クライアントワークはうまくできないとか。自分が面白いと思うだけじゃなくて、クライアントの気持ちと、さらにはお客さんの喜び。この3つの円が重なるところを「当てる」必要があるんです。それができると、みんながハッピーな企画になります。

山崎:クリエイターの発想がぶっ飛んでいて面白いものでも、そのままだと企画にはならないことが多いんです。だから、やりたいことと求められていることの、重なる部分を探っていく。それを意識してプロセスを踏んでいかないと、独りよがりな企画になってしまいます。

やらなければ、想像を超えられない。失敗から学ぶことはたくさんある

──2023年の「泡パ」も大いに盛り上がりを見せていましたね。「Afro&Co.」が生み出すイベントがここまで大きな話題を集めるのは、どうしてだと思いますか?

アフロマンス:過去にはお客さんがつまらなさそうにしているイベントもありました。参加者が楽しくなさそうなイベントほど、つらいものはありません。つらい経験をたくさんして「二度とあんな気持ちにはなりたくない」と思うからこそ、どうにかしてがんばろう!絶対に成功させよう!という強い気持ちが湧いてきます。経験を積み重ねてきたことが今、大きな力になっていますね。

山崎:結局やってみないと、答え合わせはできないんですよね。アイデアを出すのも企画にするのも机の上だけの話で、実行してみないと結果はわからない。たとえ成功しなくても、失敗から学ぶことはたくさんあります。

──失敗するのが怖くて、なかなか一歩を踏み出せない人もいると思います。何かアドバイスはありますか?

アフロマンス:たしかに、計画を練りに練って悩んだ挙句、やっぱり挑戦するのはやめましたっていう若い子は多いよね。

山崎:情報が溢れている時代だから、やらない理由がたくさん目に入ってしまうのかもしれませんね。僕らの時代は調べようがないから、怖いもの知らずでなんでもできました。

アフロマンスとにかく「やること」が大事なんです。頭の中でいくら考えても、想像の範ちゅうでしかない。若い子から「好きなことがわからない」という相談も多いけど、それも経験が足りていないからだと思います。好きっていう感情は生まれ持ったものじゃなくて、いろんなことを経験して、たくさんの物を目にすることで、好きはどんどん増えていきます。実際に体験してみないと、わからないことばかりなんです。

──おふたりは、昔からイベントを企画することが好きだったんですか?

アフロマンス:学生時代、サプライズがすごく好きでしたね。友だちの誕生日とか毎回テーマを決めて、サプライズを計画していました。バチェラー風のバースデーイベントとか、今思い返すとくだらないものばかりだけど(笑)。
 
山崎:僕も友人の誕生日をよくサプライズで祝っていました。サプライズって実は企画としてのレベルが高いんですよ。本人にバレないように根回しして、用意しなきゃいけないものがたくさんあって、本番一発勝負。サプライズで企画力がかなり鍛えられた気がします。
 
アフロマンス:誰かの想像を超えてハッピーにするのが好きなんです。ただ、サプライズって面白いと思う反面、サプライズが嫌いな人もいるじゃないですか。だから自分のエゴだなとも思うんです。これをやったら喜ぶだろうという、サプライズする側のエゴ。特に今の世の中の風潮で考えると、外れたことをしない、リスクがあることは避けるのが基本ですよね。

でも、僕は「自分がやりたい」という気持ちを大切にしてます。だから、やりたいからやるっていう自分勝手なエゴだと自覚したうえで、相手のために何ができるかを考えるようにしています。

山崎:まさに、自分がやりたいことと、周りが喜ぶと思うことの重なりをどう「当てる」かですよね。そこを突き詰めて考えて、みんながワクワクする、ワクワクの総量を増やせるイベントをこれからもたくさん実現させていきたいです。

■プロフィール

アフロマンス
独創的なエンターテイメントを生み出すクリエイター、クリエイティブディレクター、イベントプロデューサー、DJ。京都大学建築学科卒業後、広告会社に入社。社員として勤務する傍ら「アフロマンス」としてDJやクラブイベントなどさまざまな企画を手がける。「世の中に、もっとワクワクを」をスローガンに、クリエイティブカンパニー「Afro&Co.」を立ち上げ、話題性豊かな企画を次々と打ち出す。

山崎剛弘
青山学院大学経営学部卒業後、広告会社に入社。会社員として勤務する傍ら、アフロマンス主催イベントの企画制作に関わる。アフロマンスの独立起業に伴い、2015年10月に株式会社「Afro&Co.」に入社。プロデューサーとして、多くの主催イベントや企業や行政のプロモーションイベントの企画制作に従事したのち、取締役 COOとして経営企画を担う。2023年4月に代表取締役に就任。


取材・文 冨田ユウリ
取材・編集 小山内彩希
編集 くいしん
撮影 安永明日香