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最愛の君へ

今僕は、目を真っ赤にして、鼻を頻繁に啜りながら新幹線に乗っている。
堪えて堪えて、でも堪えられなくて、少し気を紛らわせようとしても、すぐに浮かんでくる。
部屋で走り回っている姿、取り込んだばかりの洗濯物を平気に踏ん付けたり、噛んだりして、引っ張ったりで、ぐちゃぐちゃにしていく。カーペットの上では平然とおしっこをしちゃって、「こらー」といってもきょとんとした顔で申し訳ないどころか、スッキリした顔をしてやがる。僕は親にバレないよう、それを必死に掃除する。僕の腕に噛み付いたり、引っ掻いたり、それに僕がやり返して、すごい声で怒鳴りつけ返してくる。家の扉を開ければ、仕切りに2階で吠えていた。

そんなわくぱくで、パワフルなライトが

2日前、食事もろくに取れなくなり、1週間ももたないだろうと医者に言われたそうだ。僕はそれを聞いたときに帰るべきだった。でも、僕が帰ると、彼はもう逝ってしまう気がして怖かった。恋人から「帰ってあげたら」と言われた。帰ることは容易だったけど、授業やら予定やら適当に理由をつけて、「まだ大丈夫だよ」と言い、僕は帰らなかった。まだ大丈夫だと自分に言い聞かせていた。まだ大丈夫であってほしかった。
そして、今日の朝起きて携帯を見ると、一通のLINEが入っていた。

「ライト最期まで頑張ったが、5:30頃に逝ってしまいました。」

ああ、ライト、本当に亡くなったんだな。夢であって欲しいけど、紛れもなく現実で、なんか突然どっと悲しみが溢れてきて、それに蓋することができなくて、30分くらいまた寝ようと思って、寝て、そしたら目の前にライトが目を開けているんだけど、呼んでも呼んでもいつもそうしたようにこっちを見てくれなくて、いや見てくれるどころかピクリとも動かなくて、手でさすっても動かなくて、確かにそこにライトはいるけど、でももうライトはいなかった。目が覚めて、予定はあるけど、到底起きる気力は出てこなくて、もう5分寝ようと思って目を閉じたものの数秒後、また抑え切れないほどの涙が溢れた。

決めた。予定はキャンセルして、大阪に帰ろう。
少しでも最後にライトに触れて、僕らの元に来てくれてありがとう、そしていつも僕の側にいてくれてありがとうと言おう。
もうそこにライトはいないかもしれないけど、それでもライトにもう一度触れて、話したい。


ライトは僕の家族だ。そして、僕の1番の相方だ。
小学生の頃から17年近く僕の家で育ち、僕の喜怒哀楽全てを見てきた。
嬉しいことがあるとライトに話しかけた。「ライト!大学受かったよ!」なんて、もちろんライトはきょとんとした顔でこっちを見ているだけなんだけど。真っ暗な部屋で僕が泣いている時に寄り添ってくれたこともある。ちょうど1人の男と犬の2人で旅に出る映画を見て、僕もライトを連れて家を出たいと考えたこともあったな。外でたくさん走ったこともある。若い頃は僕よりも断然走るのが早かった。「すごいねえ、スーパーライトだよ」なんて僕が言っている動画もある。
ライトは本当に世話のかかるやつだった。毛は抜けるから、少しでも抱っこすると、毛まみれになるし、うんこやおしっこなんてもう平気でその辺でしちゃうし、怒られるのは僕なんだから、やめてくれよ。

そんな感じで、うまくトイレも教えられなかったし、中々散歩に連れて行ったりすることもできなかった僕は、ライトにとってどう映っていたのかな。僕にとって、ライトは唯一のパートナーで一番心を曝け出せる存在だったよ。大学から実家を離れ東京に出て、帰省のまず最初の楽しみはライトに会うことだった。いつも元気なライトがいて、扉を開けたらライトの声が聞こえる我が家が大好きだった。

しかし、1年前くらいからライトの鳴き声は小さくなった。そして、間も無くして完全に無くなった。
自由奔放に走り回っていたライトは、いつしか足を引きずって歩くようになり、そして後ろ足が動かなくなった。それからは前足だけでなんとか体を引きずって少しの移動はできていたものの、その前足もついに動かなくなった。
体を完全に動かすことができなくなり、ずっと横になっていた。
帰省するたびにライトの容態は悪化する一方だった。弱っていくライトを見るのは本当に辛かった。でも、ライトは本当に頑張っていた。首しか動かせない状態でも生きて、家で待っていてくれた。ちょうど先週、結婚式があって大阪に帰った。そこで、ライトに会えたことは本当によかった。ライトはもうほんとかろうじて命を保った状態で、首を上下させることしかできず、ずっと横たわっていた。でも、僕が帰ったことは分かってくれていただろう。反応が少し嬉しそうに見えた。また帰るからね、元気でね、と声をかけ、東京へ帰ったものの、ある程度の覚悟はその時にあった。きっと僕の帰りを待っててくれたんだよね。ありがとう。


ライトという名前は、ちょうど小学生の僕がデスノートの映画を見て、車の中で「ライトがいい」って言ったことで付いた名前だ。
ほんと単純な理由で決まった名前だけど、いつしか名前は定着し、ライトと呼べば反応するようになった。
当時のライトは本当に暴れん坊で、ずっと僕のことをひっかくし、噛み付いてくるし、当時の僕の腕はDVを受けている並に酷いものだった。
家に帰ったらギャンギャン吠え散らかしていたよなあ。
これからも、家の扉を開けたらライトが吠えてくれるかも、なんてね。

感情がぐちゃぐちゃで現実を受け止めきれず、取り止めのない文章もそろそろ終わりにしよう。こんな時に限って、新幹線は混んでいて、抑えきれない涙や鼻水を隠すので精一杯だ。もはや隠すことはできていないんだけど。

ライトは16歳まで生きた。もうあと2週間で17歳だった。人で言ったら84歳に近い。大往生だ。
どれだけ噛まれて吠えられて、喧嘩して、おしっことかされてもやっぱりライトは本当に可愛くて、僕の1番のパートナーで、とても大切な存在だった。

ライト。

僕らの元へ来てくれてありがとう。
僕のそばにいてくれてありがとう。
飼い主失格の僕だけど、僕はライトのことが大好きだよ。
ライトがいたからこそ、今の僕があり、そして今の家族がある。
ライトが我が家にもたらした影響は底知れないよ。

もう走れるようになったかな。思うがままに走り回りな、スーパーライト。
でも、他の人を噛んだりしちゃダメだよ。元気でね。

たまには会いに来てくれよな。
僕はずっと待ってるから。いつでもおいで。

僕は、ライトと一緒にこれまで過ごせて本当に幸せでした。
ライトは僕にとって特別な存在です。
大好きだよ。ありがとう。















楽しんでやってます☺︎