かんごし通信 その3(2019.12)

みなさまは「エモい」という言葉をご存知だろうか。「エモい」というのはここ数年で若者の間に浸透した言葉であり、「エモーショナル」という英単語から成る略語である。和訳すれば感動的、情緒的、などといった意味で、元々は音楽のジャンル分けに使われる言葉であったが、近頃はどうも映画や写真、小説などに対して「かっこいい」や「素敵」などの広義の意味で使われるようになっているようだ。なにくそ最近の若者はなんでも略せばよいと思ってからに、と口を酸っぱくする紳士淑女の方々もいらっしゃるだろうが、略語の歴史は意外にも古く平安時代にまで遡る。この文章を書くに際してスマホを使ってネットで調べてみたのだが「マジ」や「ビビる」などもその時代に由来する言葉であるらしいことが記載されており、これを知った時の私はまさにマジでビビったのであった。これらのことから、どうやら我々日本人は昔々から言葉を略したがる人種であるらしい。ちなみに今どきのナウなヤングは「了解」のことを「りょ」、「彼氏」のことを「ピ」と略す。紫式部も真っ青である。そういう訳で、私たち看護師の業界にも数多の略語が存在している。 

 これまで医療現場において略語は、医療従事者にしか分からない隠語として個人情報を保護する役割を担ってきたが、インターネットの普及でどんな略語でも簡単に調べられるようになってしまった。ついには我々看護師が「看護師 略語」などと検索している始末であり、現代では無用の長物、ならぬ無用の短物に成り下がってしまっている。例えば「WBC」といえば「ワールド・ベースボール・クラシック」が連想されるが、これは白血球の数値に使われている略語である。これを素直に「ダブルビーシー」と読めば良いものを「ホワイトブラッドセル」と読ませ、さらにそれを略して「ワイセ」と呼んでいる。では赤血球はなんと呼ばれているかというと、「せっけっきゅう」とそのまま呼ばれているのである。また、胃管チューブを「MT」と表記することがあるが、これはドイツ語で胃を表す「Magen」と英語の「Tube」が混在した和製外国語であり、外国語だったり病院ごとに呼び方が違ったりで余計にややこしくさせている。

 それなのになぜ略語がこれほど世の中に浸透しているのかというと、なんだか玄人っぽいから、ではないかと私は睨んでいる。略すことでその言葉の内容をよく理解したような気分になり、いわゆるプロフェッショナルな風格がついてくるのではないだろうか。お宅の反抗期のご子息や、お孫さんが最近なんだか冷たいようであれば、「エモいね!」と声をかければでマジでビビってくれるかもしれない。

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