かんごし通信 その5(2020.2)

 改めまして、明けましておめでとうございます。令和を迎え、年末年始の慌ただしさも過ぎ去り、空き部屋ばかりだった病棟もあっという間にいつもの景色を取り戻してしまった。我が家では長男が人生で二度目のインフルエンザにかかり、妻が人生で二度目の逆子の真っ最中。年末には心機一転、大掃除をした記憶はあるのだが、辺りを見渡す限りあれは初夢だったようだ。学生時代には年が明けるというだけで何か新しいことが始まるような、浮かれたような気持ちになっていたものだが、日常の平凡さを乗りこなすことを「大人になった」と表現するのであろうか。このまま年を重ねると、なるほど年号や自身の年齢のことなどは忘れてしまうほどに小さな出来事になるのかもしれない。隣に座る高齢の患者を見てはそのようなことを考えるのであった。令和で初めてのことと言えば元旦の夕方に長男に眼鏡を隠され、寝室内を小一時間彷徨う羽目になったことくらいである。結局眼鏡はそのまま見つからず、パソコンの画面に額を擦り付けながらこの原稿を打ち込んでいる。今年はコンタクトレンズに挑戦してみようかと、ボヤけた視界で目論んでいる。

例年では積雪の影響からくる交通事故や転倒で救急車搬送されてくる患者が増えてくる時期でもあるのだが、今年は特に雪が少ないらしい。日本に観光にきたついでにスキーなどを嗜んだついで、日本の医療現場の実際を体験することになった外国人に対して、英検四級の流暢なカタコトを披露する機会も今の所はなさそうだ。しかし雪が降っても降らなくても、高齢者の転倒は相変わらず多い。

 高齢者に起こりやすい骨折として四つの部位が挙げられるが『脊椎圧迫骨折』は特に多く、高齢者の約40パーセントに存在すると言われている。背骨の前側が潰れたように折れてしまう骨折で、雪に滑って尻もちをついたり、咳やくしゃみをしただけで骨折してしまうこともあるという。治療としては殆どの場合、『安静』である。骨に荷重をかけずに安静を図ることで、潰れてしまった骨が固まるのを待つ治療で、その後痛みが落ち着いたらコルセットを装着してリハビリを開始することになる。安静にするということは思った以上に苦痛なものであるらしく、指示を守れずに歩き回ってしまう患者も少なくない。ベッド上安静というと食事、洗面はもちろんトイレもベッド上で行わなければならないということで、少し無理をすれば動ける状態であれば果たして私はどこまで安静を守れるだろうかと患者に厳しく注意しながら思うのであった。転倒にはどうかご注意を。

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