かんごし通信 その7(2020.5)

 三月十五日二十三時三十三分、我が家に待望の第三子が誕生した。春に因んだ名前を授けられた彼は本日の沐浴も無事に終了し、泣いたり泣かなかったり、飲んだり飲まなかったりしながら俗世を過ごしている。新型コロナウイルスの影響で市内の保育園も自粛ムードとなり、私が夜勤明けで虚ろな目をして帰宅しても、三人の未就学児と一人の成人女性の意のままに飛んだり跳ねたり走ったりを繰り返す日々である。

 多少の運と看護師という仕事柄もあろうが、ありがたいことに三人のこども全員の誕生の瞬間に立ち会うことができた。第三子の出産当日、夜の二十一時頃に病院に到着し分娩室へ通され、妻の間欠的な陣痛を見守っていると看護師から「旦那さんは休んでてもらっていいですからね。」と声をかけられた。広い分娩室の隅は小上がりになっており、長い分娩時間になった時のために畳の上に布団が敷かれ、横になれるスペースが用意されている。愛する妻が陣痛の痛みに耐えているのを尻目に休むことなどできるものか、無論私は「いいえ、大丈夫です。」と即答したのであった。ここで一つ断りを入れておくが、その時の私は日勤を終えてへとへとに疲れていた。更にはこども達に合わせて毎日二十時には床に就く習慣が染み付いていた。更には更には三回目の出産ということで気の緩みもあったのであろう。妻の呻き声で目が覚めたのは破水のタイミングであった。看護師に囲まれた妻の元へ駆け寄り、さっきからここにいましたよという様な顔をして愛する妻の手を握ったのだが、いびきまでかいて熟睡していたため妻にはちゃんとバレていた。

 緊急事態宣言が発令され、それに呼応してか県内の病院でも面会制限や外来の休診など様々な対応が成されている。もしも読者の皆様が救急で入院し、何かの拍子に発熱するようなことがあれば個室隔離となり、エプロン手袋マスク帽子ゴーグルを装備した顔も見えない看護師が対応することになり、そのまま退院まで家族の顔を拝めることはないであろう。身内に新型コロナウイルスの感染者が出た家庭では同居でなくとも菓子折りを持って近所に頭を下げてまわり、それでも追い返される事態になっているという噂を聞いている。そこまでの過剰な反応はいかがなものかと考えさせられるが、重症化しやすい疾患があったり、不安を煽るマスコミの報道を見れば当然の反応なのかもしれない。この原稿が皆様の目に触れる頃、我が子の出産や家族の手術、亡くなる瞬間にまで顔も見られない様な世の中にはなっていて欲しくないと切に願う。

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