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マーケターが陥るヒューリスティクス

決断・判断をするとき、人の脳ではどんなことが行なっているのだろう?そんなことを研究する分野の1つが行動経済学。経済学となのつく分野はことごとく避けてきたのだけれど、重い腰をあげて、一般向けに書かれている本を手にとってみた。タイトルは『世界は感情で動く:行動経済学からみる脳のトラップ』。

今回はこの本で学んだ内容を踏まえて、消費者ではなく、マーケター・リサーチャーが陥る可能性のあるものを考えてみようと思う

アンカリング効果

この言葉をしらない方もいるかもしれないので、まずは定義を本から引用してご紹介。

船が錨(いかり)を降ろすと、錨と船を結ぶことも鋼の範囲でしか動けなくなることから比喩で、最初に印象に残った数字や言葉が、あとの判断に影響を及ぼすこと

引用:世界は感情で動く:行動経済学からみる脳のトラップ

この定義で肝となるのが印象に残った数字や言葉が、あとの判断に影響を及ぼすという部分。ではマーケターやリサーチャーが陥るものにどんなものがあるかを考えてみる。

定性調査で定量部分に意識が向いてしまう

定性調査は、定量部分では分からない消費者心理がわかるだけでなく、消費者自信の言葉で語ってもらうことができる点で重宝される。しかし、アンカリング効果が定性調査に影響する事例を考えてる。

例えば、ある商品Aのパッケージデザインの評価を行うとき、回答者の多くが「〇〇の部分に目がいった。なぜなら××だから」と回答したとする。一方で、回答は少数ながら、こんな意見があったとする。「△△から◇◇な製品だとわかった」。

マーケター・リサーチャーが気をつけなければいけないのは、定量(回答数)にアンカーをおろしてしまい、定性的に重要な回答を見落としてしまうことだ。人は数字に敏感だ。だからこそ、回答の多い少ないに目がいき、定性的に重要な部分が見えづらくなる。

そんなときは今一度、調査目的に立ち戻る。ドライバーを際立たせたいのか、それともバリアを払拭したいのか、またドライバーやバリアのなかで最も肝となっているものはなんなのかを探っていく。

「××だから」という回答数が多いとしても、実際に日常生活でそれを意識しているのかまでを踏まえて、質的に考えることが大切だ。

広告のアンカーメッセージが作り手側に降ろされている

街中・CM・ネットなど、いたるところに広告はみられる。広告は作り手側が伝えたいメッセージがアンカーとして降ろされている。ただそのアンカーが作り手側に降ろされているかに注意したい。

実際にこんな広告があるのかは知らないけど、「ひとときの贅沢の時間を」とか「私が、私でいられるように」のようなことばを企業は広告代理店と吟味して作っていく。その際、調査結果を用いたり、キュレーションを行なって、アンカーメッセージを作る。

ただ、自身の解釈の幅は理解する必要がある。解釈には事実、推測、想像の3つがあると個人的には思っている。事実は、数字やことばを受けた通りのままのもの。推測は、ある事実と他の事実を掛け合わせて言い切れそうなもの。想像は、事実からかけ離れて自分自信が作ったもの。

わかりにくいので、例を出して考えてみる。ちょうど今パソコンで作業しているので、パソコンを例にする。

A:あなたにとってコーヒーはどのようなものですか?
B:コーヒーは安らぎの時間を与えてくれるものです。一日の始まりや仕事の合間、仕事終わりにほっと一息つけます。

事実は、コーヒーは安らぎの時間を与えてくれるものであることと飲むシーンだ。推測でいうと、Bさんは平日にコーヒーを飲むのが多いことがうかがえる。想像はというと、安らぎの時間=何も考えることのない休憩時間といった具合だ。

解釈に不要なのは想像だ。一方、事実だけを伝えても届かないこともある。例えば、「仕事終わりに安らぎの時間を」では「お!」となるかもしれないが、インパクトはあまりない。だから推測を用いて、「平日だからこそ、安らげる時間を」とアンカーを降ろす。

実際はペルソナ設定を行う必要があるので、こんなに単純なものではないと思うけれど、届けたいメッセージが想像になると、作り手側にアンカーを降ろしてしまう結果になる。アンカーは作り手側ではなく、ペルソナに降ろす。

終わりに

ヒューリスティクスは消費者のトラップとして用いられることが多い。だからこそ、マーケティングする側は意識していると思う。ただ実際にマーケティングを行う側がヒューリスティクスに陥っているかは語られていなかった。

だからこそ、注意深く自分を見つめ直す材料として、ヒューリスティクスを用いるのも手かもしれない。


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