2024 ATP500)バルセロナ

ATP500)バルセロナ

バルセロナ・オープンのシングルス決勝はチチパス対ルードでしたけど、クオリティの高いストロークの応酬が随所にあって、実に見ごたえがあった。

試合の結果そのものはルードが初のATP500レベルの大会で優勝を飾ったわけですけれど、僕の興味は勝敗そのものよりも、今の男子ツアー全体のストロークのクオリティがまた一つレベルアップしたことにあります。

ビッグ4時代とは完全にワンランク違うと思う。

ジョコビッチとナダルが延々と5時間もマラソンマッチで粘り合っていた頃とは別次元に入っているのは間違いないとこの決勝で強く感じました。

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チチパスについて。

一時期の不調を乗り越え本来のプレースタイルを取り戻したようですね。

本来の彼はやっぱりクレーコーターなんだなぁ、と思う。

フェデラーに対する憧れから(バックハンドもとにかくフェデラーみたいになりたくて、ジュニアの頃に両手から片手打ちに変えたという逸話もある)か、少し前まではとにかく速いタイミングでストロークを打って相手を追い込み、ネットで決める戦術を繰り返していましたけれど、今の進化の極みとも言える男子ツアー全体でのストロークのスピードとコントロールに対して、ネットプレイは決める可能性もあれば、抜かれる危険性も非常に高いのが現実。

相手の読みを完全に外すか、本当に追い込みきってからネットに出るぐらいじゃないと、どんどんパスやロブで抜かれまくってしまうのです。

大会の序盤ではその攻撃的なスタイルで圧倒して勝てる場合もあるんですけど、上位ランクの選手に対しては、あまりにギャンブル性が高すぎた(これについてはコーチをしていたムラトグルー氏の指導を僕は疑ってる)と思う。

いい試合もするけれど取りこぼしも多くなって、この2年ほどはベスト4や8ぐらいの成績で止まってしまう事もチチパスは多かった印象があります。そして一時はトップ10から滑落してしまう事にもなった。

しかし先週のモンテカルロではもっと以前のプレイスタイルに戻したような戦術で、無理のない戦術を選択したようなんですね。

彼のストロークには、スピードだけでなく、コースを読ませないような上手さがあると思う。

本来順クロス(打球を引っ張る方向)に打つときは打点を前に、逆クロス(流す方向)に打つときには打点を遅らせるのが普通ですが、チチパスは結構逆のタイミングでそれを打つんですよね。

特にフォアでそれが顕著で、逆クロスには前で叩いて、準クロスに打つときにボールを一瞬引き付けて打つ。

「懐が深い」という表現を日本のスポーツ界ではしばしばしますけれど、チチパスにはそういうコースを隠して相手の意表をつく、打点の幅広さがある。純粋なストロークのスピードだけで言うとアルカラス、シナー、ルブレフなどの本当のトップレベルにはないのだけれど、試合の中で効果的に相手を追い込みエースを奪える秘密は、ここにあるのではないか、と。

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そしてルードのストロークのクオリティも非常に素晴らしいものがありました。

敬愛するナダルのスタイルにも似たルードのストロークは、とにかくスピン量が非常に豊富なのが特徴。特にクレーコートでは高く弾んで強打を防ぎ、相手をコート後方に押し込んで、じわじわと主導権を握るような守備的な印象が以前は強かったのですが、この大会では以前よりももっと攻撃的に自分から攻めていくようになったな、という印象を受けました。

回転だけでなく、スピードも両立していて、特にしっかり構えて打ったときのフォアの逆クロスとストレートのクオリティが素晴らしいですし、バックハンドもクロスにつなぐだけでなく、ストレートへの展開も多く見せるようになったようでした。

そして、こういう今の男子ツアーのストロークの変化は、もう間違いなくシナーとアルカラスの影響によるものだと思う。先に全米を制し、史上最年少の世界ランク1位にもなったアルカラス。そして昨年の終盤からの好調を維持し、年始の全豪を制覇して、今年中に世界ランク1位になる可能性が非常に高いシナー。

若き二人の天才がしのぎを削って名勝負を繰り広げ、今までとは別次元のラリーを展開しているのを目の当たりにして、他のプレイヤーもそれに影響を受けないはずがない。俺だったああいうふうに出来るんじゃないか、と思うに決まっている。

非常にレベルの高い混戦状態、群雄割拠の時代とも言える今の男子ツアー。

そして次のグランドスラムの全仏オープンはどうなるんだろう。

シナーは今ひとつクレーを得意としてはいないようにも思うし、アルカラスも自分から攻撃をしかけ、変化のある戦術を好むところから、実は速いサーフェスの方が適性が高いようにも思う。

史上最高の戦績を持ちGOATと呼ばれるジョコビッチも少し失速気味。このとろろ元気がない。

ナダルも参戦を表明してはいますけれど…足に痛みがあるような雰囲気がある。何度も全仏では不死鳥のように甦って奇跡的な優勝も何度もしていたナダルではありますが、流石に今年はきついのでは、というのが大方の予想のように思う。

メドベージェフもクレーは大嫌いだと言っているしw

そうなるとその次に来るのは、この大会で決勝を闘ったルードやチチパスあたりが有力候補となるのですが…グランドスラムの決勝ではまだふたりとも勝ったことがない。

いやー、こんな事を考えるだけでワクワクしてきちゃう自分がいます。

僕はアルカラス推しですけどねw

やっぱりテニスは面白い。

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