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なぜ皆んなチャーリー・パーカーを勧めるの?

チャーリー・パーカー。
ジャズの歴史に変革をもたらした人物、つまり最重要人物です。「ジャズを勉強するならまずはパーカー」と言われ継がれ何十年、多くの学習者がパーカーの音楽に触れ、魅了される者、挫折する者、そしてパーカーの超絶テクニックと難解さから、本当にパーカーは通らないといけない道なのかと懐疑的になる者も出てきます。

今回は、なぜ皆んなパーカーを勧めるのか?そしてジャズを習得するために何が必要か、ということを書いていきます。


パーカーはとにかく難解

僕はジャズを本格に勉強し始めたのは高校に入ってからです。当時はジャッキー・マクリーンに憧れて、そしてジョン・コルトレーン、アート・ペッパー、ソニー・ロリンズというジャズ・ジャイアンツ達を沢山聴いていきました。

同時期にパーカーも聴きはじめます。そしてプレイヤーのバイブルである「オムニブック」を練習し始めます。しかしこの頃はパーカーの良さはほとんど分かりませんでした。コルトレーンの方がクールだと思っていました。

多くの人がパーカーがなかなか好きになれないという理由の一つとして、録音物の音の鮮明さに欠けるということがあります。パーカーの録音は1940年頃から残されており、Now's the TimeやYardbird Suiteなど今なお演奏されているパーカー作のスタンダードナンバーは45年〜48年頃に集中しています。この当時の録音技術が特別悪いというわけでもないのですが、やはり先に挙げたコルトレーンやロリンズなどが録音を沢山残す時代と比べると、やや聴きづらいかもしれません。録音によってはノイズがあり、各楽器の音色がこもっていたり。特にライブ録音は隠し撮りのようなものもあり、最初にそれを聞いてしまうと「パーカーの録音物は聴きづらい」という印象が残ってしまうかもしれません。

パーカーを避けてしまうもう一つの理由は、その演奏スタイルにあります。速く難解なパッセージが繰り広げられ、初心者にとっては正直言って何をやっているのか分からないし、真似することがとても困難でもあります。

しかしながら「ジャズを勉強するならパーカーは絶対」と言われているので、あまりその理由も分からず(半ば嫌々?)練習する人も多いかもしれません。


パーカーの凄みに気付くまで

沢山の録音を聴きジャズのサウンドが耳に慣れてくると、演奏家の違いや個性が徐々に分かってきます。同じくして、「何をやっているか分からない」という最初の印象から「ここではこういう事をやっている」と言語化できるように変化してきます。ここまでくるとさらに様々な演奏を聴いて分析ができるようになり、少しずつ理解が深まっていきます。

パーカーの演奏もこのように「あとから良さがわかってきた」という人が多いと感じます。しかもパーカーの場合はかなりあとから。パーカーと言えばbebopという1940年頃から始まった新しいジャズのスタイルの先駆者で、それまでの演奏家のスタイルに加えて新しいコンセプトを用いてソロを構築しています。例えばbebopの大きな特徴の一つとして、ホールトーンスケールとディミニッシュドコードのコンセプトを用いています。このコンセプトを理解せずにbebopを習得することはできません。ディジー・ガレスピー(tp),バド・パウエル(p)、セロニアス・モンク(p)、アル・ヘイグ(p)などなど、bebopの達人たちはこのコンセプトを用いていますが、皆オリジナリティに溢れています。その他にもbebopのコンセプトはとても細かく、習得することがなかなか難しいスタイルです。

ちなみにbebopフレーズをパズルのように組み合わせる事がbebopだと思い込みやすいのですが、そうではなく基本的には上記のようなスケールなど様々な要素を用いてその場で即興演奏をしています。もちろんbebopフレーズもあり、パーカーにも手癖はあります。

パーカーの演奏はbebopという音楽スタイルの極致で、常人には思いつかない発想と正確な技術を以って演奏します。「どこからそのようなアイデアが湧くのか?」と感じることがよくあり、時に熟練者でも「何をやっているのか理解できない」こともしばしばあり、まさに天才と呼ばれる所以でもあります。

耳が肥えてきてなんとなくパーカーのやっていることも少しずつわかってきた、それでもなかなかパーカーが好きになれないという人も少なくないでしょう。僕はそれでも良いと思います。学習者にとって、まず自分の好きなサウンドを見つけることがとても重要で、全員がパーカーを追い求める必要はないと思います。

僕がパーカーにハマった、パーカーの凄さに気がついたのは本格的に勉強し始めて5年くらい経ってからです。ハマったら最後、沼にズブズブ沈んでいき、録音状態が悪いものでも身体が喜んで聴くようになりました。ありとあやゆる音源を集めていくようになります。パーカーのライブは物凄い数があって、隠し撮りのような音源もあります。レッスン音声もあるくらいです。


パーカーを勉強した方がよい理由

ジャズ勉強するならbebopは絶対勉強しないといけないのでしょうか?僕はYesでもありNoでもあると思います。さきに書いたように、自分の好きなサウンドを見つけることがとても重要なので、それが例えばルイ・アームストロングのようなスタイルが好きであれば、別に無理をしてbebopを学ばなくても良いと思います。しかしながら、bebopとbebopから派生したスタイルの演奏家が好きであれば、やはりパーカーは勉強した方が良いでしょう。パーカーの曲やパーカーの演奏にはbebopのエッセンスがたっぷり詰まっています。bebopの言語、つまりボキャブラリー(フレーズ)やリズム、bebop特有の和音の色彩感がたくさん学べます。
これらのテクニックを学ぶことにより、アンサンブル能力が向上します。
ジャズを演奏するということは、一緒に演奏する人とどのように意思を伝達していくか、という能力が必要になります。伝えたいことを伝える力と受けとる力が高ければ、演奏での会話が弾みとても楽しくなります。

またパーカーを練習した方が良い理由として、ハーモニー感覚、リズム、メロディーセンスがかなり養われます。自分のスタイルと直結しなくても、これらの要素は非常に重要です。
少しだけ細かく説明すると、ハーモニーは1つのコードに対してどのようにカラーリングするか、という感覚が必要になります。特にジャズのハーモニーは複雑な色合いを自分で作る必要があります。
リズムは、様々な音価をどのように組み合わせているか、ということや、4/4に対して拍子を少しずらすポリリズムのようなリズムもあり、アクセントの付け方からなぜパーカーはグルーヴするのか(特にパーカーのアーティキュレーションは特異でフレーズが唸る)という事が学べます。
メロディーは、これらハーモニーやリズムの要素に各インターバルを取り入れ、どのようにメロディーを作っているのか、そして歌モノのような既存のメロディーをどのように歌うかということを学べます。ソロでは速いパッセージのイメージがありますが、ソロ内でもテーマでもとてもメロディアスで、稀代のメロディーメーカーです。また基本的なことですが、ビブラートやアクセントを注意深く聴くことにより、シンプルなメロディーの歌い方を学ぶことができ表現の幅が広がります。
簡単に音楽の三大要素と言われるものも、パーカーは他のプレイヤーとはかなり異なります。


後半はオムニブックの使い方とパーカーの演奏の解説をします。

・オムニブック、ホコリかぶっていませんか? - オムニブックの活用法
・Ornithologyでのパーカーのフレーズとその応用  

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