円周上からランダムに3点をとってできる三角形の面積の期待値 ~確率密度の積分【前編】~

余談: 積分とは何をしているか、あなたは理解していますか

 私は発展的な積分はよく知らない。ここでお話しするのは、無限小の概念を用いた最も初歩的な、いわゆる「リーマン積分」というやつだ。普段使いするようなまともな関数は、無限小の概念を用いた初歩的な理解で直感的にも正しく、工学をやる上では十分。最高の道具だ。しかし初歩的とはいえ、何をしているかを初学者が理解するのは難しい。私の場合、$${\int f(x)dx}$$における$${dx}$$がただの飾りではなく次元をもった量を表していることを理解したのは、積分を習って1年経過した頃だった。高校の内容だけで理解できている人などほとんどいないだろう。
 $${dx}$$周りの解説は他の人やまたの機会に預けるとして、今回の内容は理解度テストのようなものだと思ってもらいたい。

さあ、あなたも解いてみよう!

「円周上からランダムに3点をとってできる三角形の面積の期待値を求めよ」
 この問題は、私が「これが解けるなら積分を理解しているといえるだろう」と思っているものだ。ちなみに自作である(こんなの誰でも思いつくよ~)。数学が好きな人は5~15分程度自分でやってみて、解けそうな方法が見つからなければ読み進めよう。

【注意】 
2重積分が出てくるので、大学2年数学程度の知識が必要なはず。知らない人は潔く解法を見ることをおすすめする! 

 「期待値」が分からない人は、『円周上からランダムにとった3点で三角形を作ることを無限に繰り返すとき、それらの面積を平均した値はいくらになるか?』と読み替えてもらえればOKだ。

解法

 まず、三角形の面積を考えることから始めよう。円の半径を$${R}$$とする。円の中心を原点に置いて極座標で考え、点が円周上を自由に動けるイメージだ。3点も動けるのは面倒なので、1点を$${(1,0)}$$つまり$${\theta=0}$$に固定して、$${p_0}$$と名付けてやろう。あとの2点は、角度の小さいほうから$${p_1,p_2}$$と名付け、角度をそれぞれ$${\theta_1,\theta_2}$$とする。

 求めたい面積(青い網掛け部分)は三角形の面積の公式$${\frac{1}{2}AB\sin\theta}$$を$${\triangle p_0 O p_1,\triangle p_1 O p_2,\triangle p_2 O p_0}$$に適用することで求められ、次のようになる

$$
S=\frac{1}{2}R^2\sin(\theta_1-0)+\frac{1}{2}R^2\sin(\theta_2-\theta_1)+\frac{1}{2}R^2\sin(0-\theta_2)
$$

面白いことに気づいただろうか。面積を求めたい三角形が原点を含んでいなくても、例えば図の場合だと$${\frac{1}{2}R^2\sin(0-\theta_2)}$$のように負の面積が発生して、うまいこと打ち消してくれるのだ。

 一周$${2\pi}$$から微小角度$${d\theta}$$が選ばれる確率は$${\frac{d\theta}{2\pi}}$$と表せる。面積と確率を掛けたものをすべての$${d\theta_1,d\theta_2}$$について足せば、面積の期待値が求まる(※「すべての面積を足し合わせたあと、$${(2\pi)^2}$$で割って平均化する」と考えた人も正しい。やっていることは同じ)。$${\theta_1}$$が$${\theta_2}$$を超えると三角形の面積が負になってしまうので、$${\theta_1\lt\theta_2}$$と$${\theta_2\lt\theta_1}$$の対称性を利用して、$${\theta_1}$$の範囲を$${\theta_1\lt\theta_2}$$に制限するかわりに積分値を2倍してやろう。
 さあ、Let's Integrate!

$$
\begin{split} E[S]&= 2\int_0^{2\pi} \int_0^{\theta2}\left\{\frac{1}{2}R^2\sin(\theta_1-0)+\frac{1}{2}R^2\sin(\theta_2-\theta_1)+\frac{1}{2}R^2\sin(0-\theta_2)\right\}\frac{d\theta_1}{2\pi}\frac{d\theta_2}{2\pi} \\
&=\frac{1}{8\pi^2}R^2\cdot 2\int_0^{2\pi} \int_0^{\theta2}\left\{\sin \theta_1+\sin(\theta_2-\theta_1)-\sin \theta_2\right\}d\theta_1 d\theta_2 \\
&=\frac{1}{4\pi^2}R^2\int_0^{2\pi} [-\cos \theta_1+\cos(\theta_2-\theta_1)-\theta_1\sin \theta_2]_0^{\theta_2} d\theta_2 \\
&=\frac{1}{4\pi^2}R^2\int_0^{2\pi} (-\cos \theta_2+1+1-\cos\theta_2-\theta_2\sin \theta_2) d\theta_2 \\
&=\frac{1}{4\pi^2}R^2\left\{\int_0^{2\pi} (2-2\cos \theta_2)d\theta_2-\int_0^{2\pi}\theta_2\sin \theta_2 d\theta_2 \right\} \\
&=\frac{1}{4\pi^2}R^2\left\{[2\theta_2-2\sin \theta_2]_0^{2\pi}-[\theta_2 (-\cos \theta_2)]_0^{2\pi}+\int_0^{2\pi} 1\cdot(-\cos \theta_2) d\theta_2 \right\} \\
&=\frac{1}{4\pi^2}R^2\left\{4\pi+2\pi+[-\sin \theta_2]_0^{2\pi} \right\}\ \ \ (部分積分を使用)\\
&=\frac{1}{4\pi^2}R^2(4\pi+2\pi+0)\\
&=\frac{3}{2\pi}R^2
\end{split}
$$

というわけで、答えは$${\frac{3}{2\pi}R^2}$$。特に単位円の場合は$${\frac{3}{2\pi}}$$になるんだね~。
 ちなみにこんな変態的な座標のとりかたでも解けるので、興味がある人はやってみよう!

あとがき

 「確率密度」の概念に触れたことのない人は、それだけで難しかったかもしれない。簡単な人にとっては簡単だっただろう。
 ちなみに、あえて「単位円周上」ではなく半径を指定しない「円周上」としたのにはちゃんとした理由がある。問題としては通常、前者のほうが美しいだろう。しかし私としては、解いている途中で「次元」を見失ってほしくない。$${R^2}$$になっているのを見て、「ちゃんと面積の次元、長さの2乗の次元になっているな、ヨシ」と、こう認識できるほうが好ましいと思ってのことである。間違いも減るしね?

 自分で生み出した今回のこの問題が地獄の始まりであることに、このときの私はまだ気づかないのであった……。

次回、
円内部
からランダムに3点をとってできる三角形の面積の期待値 ~確率密度の積分【後編】~

絶対見てくれよな!(そのうち書きます)

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